上 下
45 / 65

第45話 嘘

しおりを挟む

 土佐辺とさべくんに嘘をついて、僕は先輩の元に向かった。

「やあ瑠衣るいくん。昨日は来なかったね」
「……勉強会は終わったので」

 初めて会った時、毎日のように図書館に来ていたのはテスト前の勉強会に参加していたから。もう中間テストは終わった。元々この図書館の利用カードすら持っていなかったのだ。通う習慣など無いし、なにか用事でもなければ来ることはない。そう答えれば、先輩は目を細めて笑った。

「今日来たのは偶然? それとも、彼が居れば俺が近寄ってこないと思った?」

 どちらも当たっていて、黙って目を伏せる。先輩の狙いはなんなのだろう。からかいたいのか脅したいのか分からない。どちらにせよ、僕にとって嬉しくないことだけは確か。

「あんまり警戒しないでよ。俺は瑠衣くんと仲良くしたいだけなんだからさ」

 黙り込む僕に一方的に話し掛ける先輩。
 思えば最初からフレンドリーな態度だった。話し相手には向かないであろう僕に対し、いつも笑顔で明るく気さくに声を掛けてくれた。でも、距離感の近さに戸惑うばかりだった。

「スマホ持ってる? 連絡先教えてよ」
「え」
「彼に不審に思われるよ。早く」
「あ、はい」

 そうだ。トイレに行くと嘘をついて離れたのだ。早くカウンターに行かないと、土佐辺くんが探しに来てしまう。

 僕のスマホと自分のスマホを操作して、先輩は慣れた手付きで連絡先を登録した。

「これ、俺だから」

 新たに登録されたメールアドレス。名前は『S・I』となっていた。先輩のイニシャルだろうか。

「メールするからね~」
「あ、あの」

 先輩は連絡先を交換しただけですぐにどこかへ行ってしまった。結局、彼の目的はまだ分からない。これから対価を要求されたり脅迫されたりするのだろうか。

 重い足取りでカウンターに向かえば、既に本を借りる手続きを終えた土佐辺くんが待っていた。

「遅かったな。体調悪いのか?」
「ううん、大丈夫」
「そんならいいけど」

 無理に笑顔を繕えば、あまり納得していなさそうな表情ではあるが、それ以上は聞かれずに済んだ。心配してくれたのに嘘をついて誤魔化してばかり。

 駅までの道を並んで歩く。
 重い本は当たり前のように土佐辺くんが持ってくれていて、そこにも申し訳なさを感じた。

「さっきの安麻田あまたの案、檜葉ひばに相談してみるか。写真撮るならモデルと服がいるだろ。女子に頼んで作ってもらおう」
「そうだね」
「オレたちは借りた資料を見て、言葉から服の形をイメージ出来ないものをピックアップしておくか」
「うん、じゃあ僕んちに」

 そこまで言って、ふと気付く。
 なんだかんだで上手くいかなかったけど、先週は二人の邪魔をしないように帰宅時間を遅らせたりもした。
 今日、迅堂じんどうくんのアルバイトはお休みだったはず。図書館に寄ったから、既に普段の帰宅時間より遅くなっている。これから帰宅して、もし亜衣あいと迅堂くんが何かの真っ最中だったら。何より、その場に土佐辺くんが居合わせたらマズい。

「あっ、あの」
「うん?」
「今日ちょっと都合悪くて。だから、土佐辺くんのうちにお邪魔してもいい?」

 先輩が居なければ閉館時間まで図書館に残っていたかった。理由もなく遅くまで土佐辺くんを付き合わせるわけにはいかない。かと言って、一人で居残っていれば先輩に捕まってしまう。

 僕の言葉に土佐辺くんは目を丸くした。突然こんなこと言われて迷惑だったかもしれない。

「……オレんちに来たいの?」
「う、うん」
「いいよ。散らかってるけど」
「ホント? ありがとう!」

 断られなくて良かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 俺の死亡フラグは完全に回避された! ・・・と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ラブコメが描きたかったので書きました。

生徒会長親衛隊長を辞めたい!

佳奈
BL
私立黎明学園という全寮制男子校に通っている鮎川頼は幼なじみの生徒会長の親衛隊長をしている。 その役職により頼は全校生徒から嫌われていたがなんだかんだ平和に過ごしていた。 しかし季節外れの転校生の出現により大混乱発生 面倒事には関わりたくないけどいろんなことに巻き込まれてしまう嫌われ親衛隊長の総愛され物語! 嫌われ要素は少なめです。タイトル回収まで気持ち長いかもしれません。 一旦考えているところまで不定期更新です。ちょくちょく手直ししながら更新したいと思います。 *王道学園の設定を使用してるため設定や名称などが被りますが他作品などとは関係ありません。全てフィクションです。 素人の文のため暖かい目で見ていただけると幸いです。よろしくお願いします。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

処理中です...