38 / 65
第38話 秘密の写真
しおりを挟むスマホ画面に表示された写真を見て、僕の口から「なんで?」という疑問がもれた。
ついさっき、このベンチで迅堂くんと喋っていた時の写真だ。角度からみて、近くにある校長の銅像の影から隠し撮りしたものだろう。
「こ、これが、なんですか?」
思わず声が上擦ってしまったが、これは単なる友だちとのツーショットだ。変な場面でもなんでもない。
「こっちも見て」
スッと画面をスライドし、前の写真が表示される。今度は土佐辺くんと話しているところだ。焼きそばの屋台に並ぶ前のやり取りをしている場面。
「先輩、なにしてるんですか」
一体いつから僕を隠し撮りしていたんだろう。なんだか怖くなってきた。たまたま出先で知り合いを見掛けたからって、ふつう声を掛ける前に何枚も写真を撮ったりするか?
「これを見てなにか気付かない?」
「なにかって……どっちも男友だちと喋ってるだけですよ」
「本当に? よぉく見比べてみて」
そう言いながら、先輩は僕の顔の前にスマホ画面を向け、二枚の写真を交互に見せ始めた。最初は意味が分からなかったけど、何度も見るうちに、僕はある違いに気付く。
「あっ……」
今度こそ、本当に青褪めた。手が震え、持っていた屋台のビニール袋がガサッと音を立ててベンチの脇に落ちる。拾おうと伸ばした手を先輩に掴まれ、びくりと身体が震えた。
「あれぇ? どうしたの。顔色が悪いよ」
「いえ、これは、その」
動揺してうまく喋れない。手首を掴む先輩の手はひんやりと冷たくて、脂汗をかいている僕とは対照的に落ち着いていた。
「金髪の男子は妹さんの彼氏じゃなかったっけ? なのに、なんでこんなに嬉しそうなの?」
どうして先輩は迅堂くんが亜衣の彼氏だと知っているんだろう。
「こっちの彼は図書館で一緒に居たよね。でも、なんでかなあ? 妹さんの彼氏と喋ってる時とは表情が全然違うね」
「そんなこと、は……」
二つの写真の違いは僕の表情。
迅堂くんに向ける笑顔からは友情以上の感情が混ざって見える。一方の、土佐辺くんには普通の友だちに向ける笑顔だ。
実際に違いを見せ付けられると言い訳のしようがない。こんなに分かりやすく態度に出していたのか、と愕然とした。勘が良い人ならすぐに察してしまうだろう。
──僕が迅堂くんを好きだってことが。
「俺は優しいから黙っててあげる♡」
スマホをポケットにしまいながら、先輩がにっこり笑った。黙っていてくれると聞いて、ホッと安堵の息が漏れる。
「ホント、瑠衣くんは可愛いよね」
「え、あっ」
クスクス笑われ、ようやく気付く。
今の反応こそ先輩の言葉を肯定したようなものじゃないか。僕はどこまで迂闊なんだ。
「コレは貸しにしておくよ、じゃあね」
戸惑う僕に笑顔で手を振り、先輩は校舎のほうへ去っていった。後ろ姿が人混みの中に消えるまで呆然と見送る。
今日はそんなに暑くないのに、じっとりと嫌な汗をかいてしまった。まだ胸がドキドキしている。深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着けようとしても全然治らない。
「安麻田おまたせ」
「と、土佐辺くん」
「はぁ、やっと買えた。ホントに人気だな」
土佐辺くんが焼きそばの屋台に並んでから十五分くらい経っただろうか。その間に色々なことが有り過ぎて、全く待った気がしない。
僕の隣にドカッと腰を下ろし、彼は出来立ての焼きそばのパックをひとつ差し出してきた。お礼を言って受け取る。
「迅堂から頼まれなきゃ、あと五分は早く買えたんだけどな」
「そうだったんだ」
「さ、食おうぜ。腹減っちまった」
迅堂くんおススメの生徒会特製焼きそばは具沢山で美味しかったけど、なかなか喉を通っていかなかった。あまり食が進まない僕を見て、土佐辺くんが首を傾げる。
「どうした安麻田。疲れたか?」
「う、うん。ちょっとだけ」
「見たいもんは見たし、食ったら帰るか」
「もっと見て回らなくていいの?」
「いや、俺も疲れたし」
せっかく遊びにきたのに気を使わせてしまった。
その後は自分たちの出し物について意見を出し合いながら歩いて帰り、土佐辺くんに小説を貸してから解散した。
0
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!
黒木 鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。
風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
俺の死亡フラグは完全に回避された!
・・・と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ラブコメが描きたかったので書きました。
生徒会長親衛隊長を辞めたい!
佳奈
BL
私立黎明学園という全寮制男子校に通っている鮎川頼は幼なじみの生徒会長の親衛隊長をしている。
その役職により頼は全校生徒から嫌われていたがなんだかんだ平和に過ごしていた。
しかし季節外れの転校生の出現により大混乱発生
面倒事には関わりたくないけどいろんなことに巻き込まれてしまう嫌われ親衛隊長の総愛され物語!
嫌われ要素は少なめです。タイトル回収まで気持ち長いかもしれません。
一旦考えているところまで不定期更新です。ちょくちょく手直ししながら更新したいと思います。
*王道学園の設定を使用してるため設定や名称などが被りますが他作品などとは関係ありません。全てフィクションです。
素人の文のため暖かい目で見ていただけると幸いです。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる