27 / 65
第27話 鉢合わせ
しおりを挟む平日の昼間の図書館は空いている。自習スペースにいるのは僕と土佐辺くんだけ。隣り合った席に座り、教科書とノートを広げて明日のテスト教科を復習する。
「現代文の範囲ってここまで?」
「いや、変更されてたから次の項目まで」
「ありがとう、助かる」
こんな風に小さな声でやり取りするくらいで、あとは黙々と机に向かう。シャーペンでノートに書き込んでいく音と、遠くで誰かが本をめくる音だけが耳に聞こえる。
キリの良いところまで終えて顔を上げると、隣に座る土佐辺くんはまだ勉強を続けていた。真剣な横顔を見て、どきりとする。
土佐辺くんは何でも知っている。
以前は羨んだこともあるが、彼の優秀さは地道な努力の上に成り立つものだ。こうして頑張っている姿を見る度に僕も頑張らなくてはと思う。
「ん? なに?」
「なんでもない」
視線に気付いた土佐辺くんが僕のほうを見てニッと笑うので、慌てて教科書で顔を隠した。
少し前まで目が合いそうになる度にそられていたけれど、最近はそんなこともなくなった。同じ文化祭の実行委員になった頃からだ。あれ以来、話す機会が増えたから仲良くなれたのかもしれない。
それまでは嫌われていたんだろうか。小中高と同じ学校だというのに。
昼過ぎから勉強を始め、明日のテスト範囲をひと通り復習し終えた辺りで休憩を挟む。周りを見れば、少しずつ利用者が増えてきていた。同じ将英学園の制服を着た学生もいるし、近隣の学校の制服姿もチラホラ混じり始めている。
そういえば『また明日』って言っていたのに先輩の姿はない。やはり一度家に帰ってから来ているのだろうか。
「金曜には答案用紙返ってくるかな」
「どうだろうね。出来悪かったから、あんまり結果見たくないなあ」
「んなこと言って満点だったら引く」
「あはは、絶対ないから」
自販機で買った甘いジュースを外のベンチで飲みながら、とりとめのない話をする。
テストの結果を見たくないのは本当だ。土佐辺くんは今回も自信ありそうだから、まず間違いなく上位だろう。僕はテスト前に気持ちを乱してしまった。他のことばかり考えて勉強に手がつかない。いつもより点数が低いと予想がつく。
自習スペースに戻ると、僕のカバンが置いてある席に誰かが座っていた。先輩だ。頬杖をつき、つまらなそうに置いてあった教科書をめくっていたが、僕が戻ってきたと気付くとパッと笑顔になった。
しかし。
「そこ、コイツの席なんだけど」
「知ってるよ。だから待ってたんだ」
僕と共に戻った土佐辺くんが、何故か敵意剥き出しで先輩に凄んでいる。先輩は穏やかに応対しているが、目が笑ってない。睨み合っていて険悪な雰囲気だ。
「せっ先輩、いま来たんですか」
「そう。なのに瑠衣くんがいなくて寂しかったな。休憩してたの?」
「は、はい。外で」
僕が小さな声で話し掛けると、先輩は機嫌を直したようでニッコリと微笑んだ。代わりに土佐辺くんの機嫌が悪くなる。
「オレたち今からテスト勉強するんで、邪魔しないでもらえません?」
「邪魔なんかしないよ。俺も居ていい?」
自習スペースはガラガラで、反対側の隣は空いている。わざわざ僕に許可を得てきたのは、土佐辺くんが『どっか行け』と言わんばかりの態度だからだ。
ここは誰でも自由に利用できる場所だから、僕たちが決めることではない。でも、このまま先輩がとなりに陣取ったら土佐辺くんの機嫌が悪くなる。
どうしたものかと迷っていたら、近くを通り掛かった眼鏡の男子学生がこちらを見て「あっ」と声を上げた。彼の視線は先輩に向けられている。
「い、井手浦。なんで」
「……瑠衣くん、俺ちょっと用事思い出した。またね」
「え、あ、はい。じゃあ、また」
先輩は眼鏡の男子学生のそばに寄り、親しげに肩を組んで何処かへ行ってしまった。眼鏡の人はうちの制服を着ていた。先輩の友達だろうか。
立ち去る先輩たちを見送っていたら、土佐辺くんに手首を掴まれた。そのまま引っ張られて、ひと気のない非常階段まで連れていかれる。
「アイツに近付くなって言ったろ」
「でも、少し話すくらい……」
「ダメだ!」
急に大きな声を出され、ビクッと身体が揺れる。怯えた目で見上げると、土佐辺くんは眉間に皺を寄せ、小さく舌打ちをした。
忠告を聞かなかった僕を怒ってるんだ。でも、確たる理由も無しに人を拒絶するなんで出来ない。
「なんで先輩を目の敵にしてるの」
「それは……まだ分かんねーけど」
「何それ」
やっぱり理由なんてなかった。相性悪そうだったから、顔を合わせたくないだけなのかも。そうだとしても、土佐辺くんには僕の交友関係に口出しする権利はない。
「うちの学校の先輩だよ? 心配することないと思うけど」
「……」
将英学園は進学校だ。入学時にそれなりに篩に掛けられるから、素行の悪い生徒は居ない。
納得してなさそうだけど、土佐辺くんはそれ以上先輩について何か言うことはなかった。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
仮面の兵士と出来損ない王子
天使の輪っか
BL
姫として隣国へ嫁ぐことになった出来損ないの王子。
王子には、仮面をつけた兵士が護衛を務めていた。兵士は自ら志願して王子の護衛をしていたが、それにはある理由があった。
王子は姫として男だとばれぬように振舞うことにしようと決心した。
美しい見た目を最大限に使い結婚式に挑むが、相手の姿を見て驚愕する。
この噛み痕は、無効。
ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋
α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。
いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。
千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。
そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。
その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。
「やっと見つけた」
男は誰もが見惚れる顔でそう言った。
ハッピーエンド
藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。
レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。
ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。
それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。
※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
最愛を亡くした男は今度こそその手を離さない
竜鳴躍
BL
愛した人がいた。自分の寿命を分け与えても、彼を庇って右目と右腕を失うことになっても。見返りはなくても。親友という立ち位置を失うことを恐れ、一線を越えることができなかった。そのうちに彼は若くして儚くなり、ただ虚しく過ごしているとき。彼の妹の子として、彼は生まれ変わった。今度こそ、彼を離さない。
<関連作>
https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/745514318
https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/186571339
R18にはなりませんでした…!
短編に直しました。
台風の目はどこだ
あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。
政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。
そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。
✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台
✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました)
✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様
✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様
✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様
✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様
✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。
✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる