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第23話 中間テスト
しおりを挟む「亜衣。僕、図書館に寄って勉強してくるから。帰りは六時過ぎると思う」
「瑠衣んとこ今日からテストでしょ? お昼に帰れるんじゃないの?」
「だからだよ。翌日の科目を集中して勉強したいからさ」
「あ、そうなんだ」
帰宅予定時間を伝えておかなければ意味がない。邪魔者さえ居なければ、二人は気兼ねなく触れ合える。僕も気まずい思いをせずに済む。
「母さんから頼まれたら、僕の代わりにごはん炊いてね」
「えーっ? うまく出来るかなぁ」
「慣れるまで練習しなよ。多少失敗しても誰も怒らないからさ」
「べちゃべちゃのごはんでも残さないでよ!」
「はいはい。じゃ、行ってくる」
いつものように軽口を叩き合ってから、カバンを持って先に家を出た。駅までの道を歩きながら、さっきの亜衣の反応を思い出す。気を使ったとバレただろうか。いや、せっかく半日で帰れるというのに何故勉強するの、みたいな顔をしていた。僕の意図を正しく理解してなさそう。
「瑠衣!」
「迅堂くん、おはよう」
向かいから自転車で現れたのは迅堂くんだった。朝日に金の髪が光って見える。
「もしかして、亜衣を迎えに? いつも一緒に登校してたの?」
「あ、いや、つい最近からなんだけど」
「そっか。仲良いねえ」
亜衣は先輩から声を掛けられてるらしいから、きっと心配なんだろう。遠回りをしてでも迎えに来るなんて、本当に亜衣が好きなんだな。
「僕、電車の時間があるから」
「おう、またな!」
一瞬、迅堂くんに帰宅予定時間を教えようか迷った。でも、流石に僕から彼に言うのは不自然だよね。
走り去っていく自転車を見送ってから、再び駅に向かって歩き始める。足取りは重い。土日も結局テスト勉強は捗らなかった。帰りに図書館で勉強する選択は間違ってなかったかもしれない。
憂鬱な気持ちでホームに立ち、電車を待っていると、すぐ隣に誰かが立った。俯いていた顔を上げれば、土佐辺くんと目が合った。
「よぉ、おはよ安麻田」
「おはよう土佐辺くん」
いつもと同じ、自信に満ちた表情。肩を丸めて所在なさげにしている僕とは正反対だ。
「いつもこの時間に乗ってんのか、早いな」
「早めに教室に着いてないと心配で。土佐辺くんは?」
「オレいつもはもう一本遅い電車。今日はたまたま早起きしただけ」
「そうなんだ」
通勤通学客が多い時間帯は電車の本数も増えている。一、二本後の電車でも始業時間に間に合う。僕は心配症なので、普段から少し早めに家を出るようにしている。
「ん? 目が赤いな」
「えっ、いや、その」
まずい。泣きそうだったのがバレてしまう。
「さては睡眠時間削ってテスト勉強してたんだろ。今回も負けねーからな」
「う、うん」
話をしているうちに電車が来た。
車内は混雑していて、雑談どころではなくなった。学校の最寄り駅に着く頃には二人とももみくちゃになっていて、『通勤ラッシュを減らすにはどうすべきか』を討論しながら登校した。
今日のテストの出来栄えは過去最悪だった。
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