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本編
51話:悲劇の詳細を教えてもらいました 3
しおりを挟む二年前の不幸な事件。
ローガンは愛するトリスティナを失い、最後の別れも出来ないまま葬儀は終わった。
トリスティナが自ら命を絶つ原因を作った令嬢は嫉妬で気が触れたとして貴族学院から去り、領地で静養することになった。それは表向きの名目で、実際は監視付きでの軟禁。実家には相応の処罰が下った。
しかし、婚約者の後釜に座ろうとする令嬢たちは後を絶たなかった。上辺だけの労わりやトリスティナの死を悼む言葉。無碍にも出来ず、ローガンは日に日に心労を重ねていった。
その頃から不思議な事が起き始めた。
貴族学院に通う令嬢に不運な出来事が連続して起きたのだ。
突然側の窓ガラスが割れて肌を切ったり、何もないところで足を引っ掛けて転んだり、外を歩いていたら上から鉢植えが落ちてきたり。
最初の数件のうちは本人の不注意か、単なる偶然だと思われていた。それが何十件と続くと、流石におかしいと誰もが思い始めた。
トリスティナの死の真相を知る者は、彼女の無念が招いた呪いではないかと噂した。または、病んで領地で静養中の令嬢の怨念が引き起こした怪異ではないか、と。そんな非現実的な話を信じる者はいなかった。
だが、そうでなければ説明がつかない。
何故なら、それらの事件は全てローガンに近付こうとした令嬢に起きていたからだ。
噂が広まるにつれ、徐々にローガンに近付く令嬢は減っていった。中には、多少怖い目に遭っても懲りずに何度もアタックしてくる者もいた。その令嬢が貴族学院の大階段の一番上から突き飛ばされ、下まで転がり落ちて大怪我を負った時、学院の生徒たちは悟った。
──ローガンに近付くと死ぬ、と。
それ以降、令嬢たちは貴族学院から去り、それぞれ領地に引っ込んだ。男子生徒には何の被害もないのでそのまま残り、女子生徒だけが居なくなった。
王都を去る際に、このことを口外しないようにと王宮から異例の通達が出た。これが更に噂の信憑性を高める原因となってしまった。
「……その言い方だと、最初の事件までローガン様のせいみたいに聞こえない?」
「実際そうとも言えるかも~。トリスティナ様だって、ローガン様に見初められなければこんなことにはならなかったでしょうし」
「そんな、」
相手の身分や立場に関係なく惹かれ合う。それのどこが悪かったのだろう。少なくとも、髪を切られたり、命を落とさねばならぬほど罪深いことではなかったはずだ。
「というワケでぇ、アイデルベルド王国の令嬢たちは誰もローガン様と結婚したがらなくなっちゃったんですって。王妃サマになりたくても、危険と隣り合わせじゃ元も子もないもの」
「だからブリムンド王国にお相手を探しに来たのね」
「現国王陛下の体調が思わしくないそうだから、尚更焦っていたのかもしれないわ~」
アイデルベルドの国王の体調まで情報を得ていると知って、エリルはやや引いた。よく考えてみれば、今聞いた話は全て王宮から箝口令が敷かれている、謂わばトップシークレット。
何処から機密情報を入手したというのか。
「ミント、一体どうやって……」
「言ったでしょ~? 人の口には戸が立てられないって。貴族学院の職員や、ご遺体を搬送した業者、葬儀に関わった神官、それぞれの貴族家の下働き。当時のことを知っていて、口封じされていない人物なんてたくさんいるわ~」
もしかしたら、この同僚が一番怖いのかもしれない。エリルはそう思った。
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