上 下
51 / 71
本編

51話:悲劇の詳細を教えてもらいました 3

しおりを挟む


 二年前の不幸な事件。
 ローガンは愛するトリスティナを失い、最後の別れも出来ないまま葬儀は終わった。

 トリスティナが自ら命を絶つ原因を作った令嬢は嫉妬で気が触れたとして貴族学院から去り、領地で静養することになった。それは表向きの名目で、実際は監視付きでの軟禁。実家には相応の処罰が下った。

 しかし、婚約者の後釜に座ろうとする令嬢たちは後を絶たなかった。上辺だけの労わりやトリスティナの死を悼む言葉。無碍にも出来ず、ローガンは日に日に心労を重ねていった。

 その頃から不思議な事が起き始めた。
 貴族学院に通う令嬢に不運な出来事が連続して起きたのだ。

 突然側の窓ガラスが割れて肌を切ったり、何もないところで足を引っ掛けて転んだり、外を歩いていたら上から鉢植えが落ちてきたり。
 最初の数件のうちは本人の不注意か、単なる偶然だと思われていた。それが何十件と続くと、流石におかしいと誰もが思い始めた。

 トリスティナの死の真相を知る者は、彼女の無念が招いた呪いではないかと噂した。または、病んで領地で静養中の令嬢の怨念が引き起こした怪異ではないか、と。そんな非現実的な話を信じる者はいなかった。

 だが、そうでなければ説明がつかない。
 何故なら、それらの事件は全てからだ。


 噂が広まるにつれ、徐々にローガンに近付く令嬢は減っていった。中には、多少怖い目に遭っても懲りずに何度もアタックしてくる者もいた。その令嬢が貴族学院の大階段の一番上から突き飛ばされ、下まで転がり落ちて大怪我を負った時、学院の生徒たちは悟った。



──ローガンに近付くと死ぬ、と。



 それ以降、令嬢たちは貴族学院から去り、それぞれ領地に引っ込んだ。男子生徒には何の被害もないのでそのまま残り、女子生徒だけが居なくなった。

 王都を去る際に、このことを口外しないようにと王宮から異例の通達が出た。これが更に噂の信憑性を高める原因となってしまった。






「……その言い方だと、最初の事件までローガン様のせいみたいに聞こえない?」
「実際そうとも言えるかも~。トリスティナ様だって、ローガン様に見初められなければこんなことにはならなかったでしょうし」
「そんな、」

 相手の身分や立場に関係なく惹かれ合う。それのどこが悪かったのだろう。少なくとも、髪を切られたり、命を落とさねばならぬほど罪深いことではなかったはずだ。

「というワケでぇ、アイデルベルド王国の令嬢たちは誰もローガン様と結婚したがらなくなっちゃったんですって。王妃サマになりたくても、危険と隣り合わせじゃ元も子もないもの」
「だからブリムンド王国にお相手を探しに来たのね」
「現国王陛下の体調が思わしくないそうだから、尚更焦っていたのかもしれないわ~」

 アイデルベルドの国王の体調まで情報を得ていると知って、エリルはやや引いた。よく考えてみれば、今聞いた話は全て王宮から箝口令かんこうれいが敷かれている、謂わばトップシークレット。

 何処から機密情報を入手したというのか。

「ミント、一体どうやって……」
「言ったでしょ~? 人の口には戸が立てられないって。貴族学院の職員や、ご遺体を搬送した業者、葬儀に関わった神官、それぞれの貴族家の下働き。当時のことを知っていて、口封じされていない人物なんてたくさんいるわ~」

 もしかしたら、この同僚が一番怖いのかもしれない。エリルはそう思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)お姉様を選んだことを今更後悔しても遅いです!

青空一夏
恋愛
私はブロッサム・ビアス。ビアス候爵家の次女で、私の婚約者はフロイド・ターナー伯爵令息だった。結婚式を一ヶ月後に控え、私は仕上がってきたドレスをお父様達に見せていた。 すると、お母様達は思いがけない言葉を口にする。 「まぁ、素敵! そのドレスはお腹周りをカバーできて良いわね。コーデリアにぴったりよ」 「まだ、コーデリアのお腹は目立たないが、それなら大丈夫だろう」 なぜ、お姉様の名前がでてくるの? なんと、お姉様は私の婚約者の子供を妊娠していると言い出して、フロイドは私に婚約破棄をつきつけたのだった。 ※タグの追加や変更あるかもしれません。 ※因果応報的ざまぁのはず。 ※作者独自の世界のゆるふわ設定。 ※過去作のリメイク版です。過去作品は非公開にしました。 ※表紙は作者作成AIイラスト。ブロッサムのイメージイラストです。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

あなたに愛や恋は求めません

灰銀猫
恋愛
婚約者と姉が自分に隠れて逢瀬を繰り返していると気付いたイルーゼ。 婚約者を諫めるも聞く耳を持たず、父に訴えても聞き流されるばかり。 このままでは不実な婚約者と結婚させられ、最悪姉に操を捧げると言い出しかねない。 婚約者を見限った彼女は、二人の逢瀬を両親に突きつける。 貴族なら愛や恋よりも義務を優先すべきと考える主人公が、自分の場所を求めて奮闘する話です。 R15は保険、タグは追加する可能性があります。 ふんわり設定のご都合主義の話なので、広いお心でお読みください。 24.3.1 女性向けHOTランキングで1位になりました。ありがとうございます。

婚約破棄されて捨てられたけど感謝でいっぱい

青空一夏
恋愛
私、アグネスは次期皇后として皇太子と婚約していた。辛い勉強に日々、明け暮れるも、妹は遊びほうけているばかり。そんな妹を羨ましかった私に皇太子から婚約破棄の宣言がされた。理由は妹が妊娠したから!おまけに私にその妹を支えるために側妃になれと言う。いや、それってそちらに都合良すぎだから!逃れるために私がとった策とは‥‥

無慈悲な悪魔の騎士団長に迫られて困ってます!〜下っ端騎士団員(男爵令嬢)クビの危機!〜

楠ノ木雫
恋愛
 朝目が覚めたら、自分の隣に知らない男が寝ていた。  テレシアは、男爵令嬢でありつつも騎士団員の道を選び日々精進していた。ある日先輩方と城下町でお酒を飲みべろんべろんになって帰ってきた次の日、ベッドに一糸まとわぬ姿の自分と知らない男性が横たわっていた。朝の鍛錬の時間が迫っていたため眠っていた男性を放置して鍛錬場に向かったのだが、ちらりと見えた男性の服の一枚。それ、もしかして超エリート騎士団である近衛騎士団の制服……!? ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結済み】妹の婚約者に、恋をした

鈴蘭
恋愛
妹を溺愛する母親と、仕事ばかりしている父親。 刺繍やレース編みが好きなマーガレットは、両親にプレゼントしようとするが、何時も妹に横取りされてしまう。 可愛がって貰えず、愛情に飢えていたマーガレットは、気遣ってくれた妹の婚約者に恋をしてしまった。 無事完結しました。

気弱な公爵夫人様、ある日発狂する〜使用人達から虐待された結果邸内を破壊しまくると、何故か公爵に甘やかされる〜

下菊みこと
恋愛
狂犬卿の妻もまた狂犬のようです。 シャルロットは狂犬卿と呼ばれるレオと結婚するが、そんな夫には相手にされていない。使用人たちからはそれが理由で舐められて虐待され、しかし自分一人では何もできないため逃げ出すことすら出来ないシャルロット。シャルロットはついに壊れて発狂する。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...