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第3章 交際開始
22話・知らない男の名前 *
しおりを挟む伊咲センパイのアパートに泊まることになり、風呂上がりに盛り上がっている真っ最中である。
「我慢してたからもう限界。挿れていい?」
「だから、なんで最大値の時に挿れようとする!」
めちゃくちゃ抗議されたけど聞く耳持たずにキスしたら大人しくなった。キス大好きだもんね。さっきまで吊り上がってた目がとろんとしてる。すぐ従順になっちゃうとこ最高に可愛い。
「ん、獅堂くんすき、もっと」
「ハハ、超エロい」
俺の首に腕を回し、更に深く口付けようとする伊咲センパイの股を開く。さっき散々慣らしたおかげで、最大値まで膨れ上がった俺のものがすんなり中へと飲み込まれていった。今回も事前にローションが仕込まれている。体内で温められた粘液が滑りを良くしてくれた。
「っ、あ、おっきい」
「すんません。痛くないっすか」
「ん。だいじょうぶ、動いていいよ」
僅かに口を離した隙に交わす会話が俺の理性を溶かしていく。いや、こうしているだけで理性や自制心なんてカケラも残ってない。ただひたすら目の前の愛しい人を触りまくって可愛がって気持ちよくさせて、ついでに自分も気持ちよくなりたいだけ。
「んん……ッ、ヤバい、もうイきそう」
さっきフェラされた時に出さなかったせいで我慢ができない。挿れたばかりだというのに、俺はゴムの中に精を吐き出した。体内で脈打つそれに気付いたのか、伊咲センパイが自分の下腹部を見下ろしている。
「出た?」
「はい、早くてすんません」
改めて聞かれると恥ずかしい。
一旦中から引き抜いてゴムを取り替えようとしたが、伊咲センパイの脚が俺の腰に絡みついて動けなくなった。
「そのまま入ってて」
「でも、ゴム替えないと」
「……やだ。離れないで」
「~~ッ!」
ぎゅうっと全身で抱きつかれ、上目遣いにおねだりされてしまえば逆らえない。
「このまま動いたら、ゴム破れちまいますよ。ナカに漏れちまうかも」
「いいから、おねがい」
こんなお願い断れるわけあるかと自分に言い訳をしながら、ゆるゆると腰を動かした。一度出したおかげで少しだけ落ち着きを取り戻している。ゴムが中で外れないように、万が一にも破れないように気を付けながら行為を続けた。
ゆるやかな動きでも気持ち良いようで、伊咲センパイは「あ、あっ」と小さく喘ぎながら俺の背に細い腕を回してしがみついてくる。肌が密着したところが熱い。いつもは微かな伊咲センパイの匂いが増し、鼻腔をくすぐる。今日は同じシャンプーを使ったはずなのに、彼から香るだけでどうしてこんなに情欲を掻き立てられるのだろう。
「し、獅堂くん、いく、いく」
「いいっすよ、ホラ、イって」
「んぅっ……!」
超至近距離で目を合わせたまま奥を抉るように突くと、伊咲センパイは身体を震わせて達した。ずっと俺の腹で擦られていたからか、今回はしっかり射精を伴っている。同時に後孔がきつく締まり、俺も数秒遅れて二度目の射精をした。
疲れたのか、伊咲センパイはベッドに転がったままウトウトし始めた。風呂に入り直す気力はないらしい。俺は洗面器にお湯を張り、濡らしたタオルをかたく絞って彼の身体を隅々まで拭いた。
事前にバスタオルを敷いてはいたが、ふたり分の汗や精液や漏れたローションなどでシーツも湿っている。伊咲センパイを横抱きにして一旦退かし、新しいシーツに入れ替えてから再び寝かせた。ここまでしても伊咲センパイは目覚めない。
「無理させちまったかな」
汚れものを軽く手洗いしてから洗濯機に突っ込み、スタートボタンを押す。寝室に戻ると、彼は安らかな寝息を立てていた。無防備な寝顔が可愛くて、枕元に腰を下ろして眺める。幸せ過ぎて死にそう。
「……伊咲」
普段は必ず『センパイ』を付けて呼ぶが、恋人になったのだから下の名前だけで呼びたい。でも、彼のほうが年上だからと我慢している。だから、先に伊咲センパイが寝てしまった時にこっそりこうして名前呼びをしていた。
すると、伊咲センパイの表情がゆるんだ。やわらかな微笑みを浮かべている。
呼び捨てしたのを聞かれたかと焦っていると、伊咲センパイは目を閉じたまま幸せそうに口元を綻ばせた。
「ナオヒサさん……」
眠る伊咲センパイの唇から漏れ聞こえたのは、俺の知らない男の名前だった。
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