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50話・異常な主張
しおりを挟む須崎の話した内容は、ミノリちゃんに恋するきっかけとして納得できるものだった。彼女の両親も今の話には感心したようで、先ほどまでの張り詰めた雰囲気ではなくなった。須崎に対する警戒がやや薄れたからだろう。
「というわけで、僕はミノリさんのことが本気で好きなんです!」
「いや、娘は何度も断ったそうだが」
「あなたの気持ちは分かるけど……」
どんなに良い話だとしても、ミノリちゃんが拒否している事実に変わりはない。お父さんもお母さんも、情に流されることなく須崎を諭そうとしている。
「何度か断られましたが、諦められないんです。お願いします、交際を許可して下さいッ!」
だが、須崎は全く引かなかった。
襖越しにも、客間にいるミノリちゃんと両親が戸惑っているのが伝わってくる。
「誰と交際するかは娘自身が決めることだ。私たちに言われても困る」
ここから須崎の暴走が始まった。
「いえっ、だからこそ先にご両親にお話しにきました。僕は高校卒業後に関東に行くので、ミノリさんにも付いてきてほしくて」
「は???」
聞いていた全員の目が点になる。
何を言ってるんだコイツは。
「先日の高校総体の表彰式の後、関東にある体育大学からスカウトされたんです。空手に力を入れてる大学で、スポーツ推薦枠でお話を貰いました。僕は推薦を受けるつもりです」
「そ、それはすごい話だと思うが……」
急に話が飛躍して、ミノリちゃんのお父さんはやや引いている。
卒業まで一年以上ある時期に大学から勧誘されたのは実際すごいことだと思う。須崎の言う大学はスポーツに疎い俺でも名前を知っているような超有名校だ。
周りの反応を全く気にすることなく、須崎は話を続ける。
「関東の大学に進学したら地元には滅多に帰ってこれないし、四年間も離れ離れなのは耐えられなくて。だから、ミノリさんにも僕が通う大学の近くにある学校に進学してもらおうと思いまして。コレなんですけど」
ガサガサと何かを取り出す音が聞こえる。おそらく須崎が持参した封筒の中身を出したんだろう。
「ミノリさんはデザインの勉強がしたいということなので、こちらの専門学校はどうでしょう。僕の大学から近いんです。ミノリさんの第一志望は県内にあるデザイン専門学校ですが、関東にある専門学校にも同様のカリキュラムがあって学費にもあまり差がありません。学生寮も充実していて女性の一人暮らしも安心──」
どうやら専門学校の資料を見せているらしい。これには客間にいる三人も、隣の居間で聞いている俺たちも唖然とした。
コイツは何を言ってるんだ?
進路に関わる話だから親に話を通しておこうというわけか。それ以前にミノリちゃんと交際すらしていないんだが、須崎の思考回路は一体どうなってるんだ?
「な、なんで私の進路希望知ってるの?」
震える声で尋ねるミノリちゃん。めちゃくちゃ怯えてるのが声だけで分かる。ルミちゃんが振り返って睨むと、リエはバツが悪そうに顔をそらした。またオマエの仕業か。
「僕はミノリさんがそばにいないとダメなんです。先日の試合も、ミノリさんが来てくれなかったから結果は三位止まりでした。近くで応援してもらえたら絶対優勝出来たんです!」
もしかして、以前出校日にミノリちゃんを連れ出したのは、高校総体会場に応援に来てほしいと頼むためだったのか。だとしても身勝手な言い分だ。ミノリちゃんが自発的に「応援したい」と思うならともかく、無理やり応援を強要するなんて。
この僅かな時間で須崎の異常性がハッキリした。
コイツはマジで頭がおかしい。
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