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4話・冷めた眼差し

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『カラオケ行くぞー!』

 土曜の午後、悪友のショウゴから誘いの電話がきた。『行かない?』じゃなくて『行くぞ!』と言われるのはいつものことだ。

「おまえと二人はヤだ。金ねーし」
『奢ってやっから! 女もいるぞ』
「マジで?」
『迎えに行くから支度しとけよ!』

 まだ行くと返事していないのに電話は切れた。
 ショウゴはいつもこうだ。一方的に話を進めて相手に有無を言わさない。それくらい強引でなければ、出不精で付き合いの悪い俺は外に出ないから丁度いいのかもしれない。

 三十分後に俺んちの前に大きなバンが横付けされた。遠慮なしに鳴らされるクラクションに急かされるように玄関から出る。

「早よ乗れよ」
「おう」

 しかし、助手席には既にマリが座っている。後ろのスライドドアを開けて乗り込むと、後部座席には更に二人の女の子の姿があった。

「あれ、ミノリちゃん?」
「こんにちは」

 マリの妹リエちゃんとミノリちゃんだ。
 思わず声を掛けると、彼女は気まずそうに小さな声で挨拶を返してきた。少し奥に詰めてもらい、隣に腰掛ける。休みだからか、今日は私服だ。Tシャツと膝上丈のキュロットスカート。飾り気はないけど、ミノリちゃんによく似合っている。

「なんだ、いつの間に仲良くなったんだ?」
「この前会っただろ。だから覚えてたんだよ」
「そーだったかァ?」

 運転しながら、ショウゴがからかうように聞いてくる。マリの家で引き合わせた張本人のくせに何言ってんだ。まさかミノリちゃんが週三で俺んちに遊びに来ているとは言えず、もっともらしい理由で質問を躱した。何にもやましいことはしてないけど、俺みたいな奴の家に入り浸ってるなんて知られたらミノリちゃんが変な誤解をされてしまう。

「プーさん、ヤンキーみたーい」
「うるせーな」
「上着暑くないのー?」
「別に」

 隣に座るリエが笑いながら上着を引っ張ってきた。明るい時間に外に出る時には大体長袖のシャツを上着代わりに羽織っている。このシャツが派手めな柄モノで、しかも髪は金髪でサングラスを掛けているから、傍から見た俺はどこに出しても恥ずかしくない田舎のヤンキーだ。

「ふふっ」
「……!」

 リエとのやり取りを奥の席で見ていたミノリちゃんが小さく笑った。
 良かった、怖がられてはないみたいだ。






 カラオケボックスでは、ショウゴがマリの肩を抱いて少し古いラブソングを歌った。歌詞に女性の名前が入るタイプの歌で、その名前部分を『マリ』に変えて。

「やぁだ、ショウゴったら!」

 自分の名前をラブソングに組み込まれたマリは満更でもなさそうな様子だった。照れてショウゴの胸板を叩きまくってはいるが、まあまあ良い雰囲気になっている。ていうか、ショウゴの狙いはマリか。コイツは体格もいいし社交的で友達も多く、女にモテる。今みたいに多少クサい真似をしても許されてしまうくらい。ヒョロくて無職の俺とは正反対だ。

 例えば、俺があんな風に替え歌で彼女の名前を入れて歌ったらどんな反応が返ってくるんだろう。そう思いながら何気なくミノリちゃんの方を見たら、ものすごく冷めた目でショウゴとマリを眺めていた。リエもだ。

 ……だよね。
 当人たち以外には薄ら寒いよな。
 うん、知ってた。
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