上 下
1 / 46

─ 誰かの独白 ─

しおりを挟む


 まだ、まだ。
 もう少し近付いてから。

 ブロック塀の陰からチラリと覗けば、むこうから歩いてくるあの子が見えた。真新しいランドセルを重そうに背負う姿が可愛い。通りには他に誰もいない。どきどきする胸をおさえながら、今か今かとタイミングをはかる。

 びっくりするだろうか。
 大声を上げるかもしれない。
 腰を抜かすかもしれない。
 泣いちゃうかもしれないな。

 でも、きっと最後には「またやったな!」と言いながらぼくを小突いて笑うのだ。

 あと十歩近付いたら飛び出すと決めた。
 靴がアスファルトを擦る音を指折り数える。

 万に一つも気付かれないように。
 息を止めてその時を待った。






 ……まさか、あんなことになるなんて。

 ごめんなさい。
 ごめんなさい。
 ゆるして■■。







しおりを挟む

処理中です...