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第ニ幕 王宮生活編
30 王子の本心
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「さてと、どういう事か説明して貰えるかしら?」
「すまない、国のために一生懸命な彼女が健気で、放っておけなかったんだ」
マーガレット王女は再びかつらを被り、王宮メイドとして部屋を去った。ワタクシもまだ着替えて居なかったため、自室へと戻り、元のワインレッドのゴシック風ドレスへと着替え、王子の部屋へと戻って来ていた。
ワタクシの着替えをするため、自室にて控えていたローザへ頼み、部屋には先程のアップルタルトと紅茶を持って来て貰っていた。
まぁ、沸点が高いままだと、まともな会話も出来なくなってしまうのでね。気持ちを落ち着かせるには、甘味成分、これに尽きるのよ。
「へぇー、じゃあイケメン王子様は健気な女の子が近寄って来たなら誰にでも腰を振るのかしら?」
「おい、ヴァイオレッタ。それは言い過ぎだ」
煽った事で流石に王子も頭に来たらしい。実際のところ、とっかえひっかえ自室へ女を連れ込む王子では困るので、王子の本心を聞きたいだけだったりする。
「で、本当のところはどうですの、腹黒王子さん。あなたの事だから国益と不利益を天秤にでもかけたんでしょう?」
「まぁ、今更お前に隠しても仕方あるまいな。そんなところだ」
ミュゼファイン王国の鉱山には、それほどの価値があるのだ。そして、ブラックシリウス国はクイーンズヴァレーにとっても脅威。つまり、ミュゼファインと国交を結ぶ事は悪い話ではない。王子はそう考えたのだろう。
「だからと言って、あの王女の色目に乗ったように見せたのは、仮に振りだとしてもいただけないわね」
「嗚呼、そうだな。これからは肝に銘じるとするよ」
だいたい生前の王子と王女の様子は、全く偽物に見えなかったのだ。偽物が本物になってしまっては、それこそ泥棒猫の思う壺。あの王女は、健気な仔猫を演じているだけで、実際は牙を隠した猛獣の可能性だってあるのだから。
「じゃあ、クラウン王子。一つお願いがありますわ」
「何だ、言ってみろ」
「来月行われる社交界。そこでワタクシを婚約者としてちゃんと紹介して下さるかしら?」
「いや、それは元々そのつもりだったぞ?」
「ええ、そうでしょうけど。そして、ワタクシと踊って下されば、それで今回の事は水に流しましょう」
「それだけでいいのか? ヴァイオレッタの事だ。高価な装飾品なんかを要求されるかと思ったぞ」
拍子抜けしたような表情をした王子は、アップルタルトの残りを口へ頬張る。そのタイミングでワタクシは紅いルージュを塗った口元を王子の口元へ近づける。
アップルタルトを口に含んだ王子の柔らかな部分は、とても甘い味がした。
「ふふふ、装飾品に目が眩んで、大切な物を失ってしまうような、そんな浅はかな女ではないわよ」
「それでこそ、俺の婚約者だ、ヴァイオレッタ」
王子はもう一度ワタクシの口元を奪おうと顔を近づけるが、ワタクシは王子の口元へ人差し指をそっと当て彼を制止し……。
「今日は駄目です。王子はちゃんと反省して下さい」
「ははは。すまなかった。今日は完敗だな。ヴァイオレッタ」
王子の謝罪を聞き遂げたワタクシは、素早く立ち上がり、『今日はこのあたりで自室へ戻ります。食器はワタクシのメイドへ片付けさせますわ』と言い残し、王子の部屋を出る。外で待機していたローザへ目配せすると、ローザは食器を片付けるため、王子の部屋へ。
そのまま早足でワタクシは自室へ戻り、部屋の鍵をかける。そして、鏡の前に立ち、誰も居ない事を確認して、ゆっくりと深呼吸し……。
――ぶっふぁあああ! ヴァイオレッタ様ぁあああああ! モブメイドはぁああ、緊張で心臓が飛び出るかと思いましたぁあああ!
そう、先程の王子とのやり取り。幾ら以前よりも耐性が出来たとは言え、イケメンの顔が迫る度にヴァイオレッタの脳内に潜むモブメイドの羞恥心が爆発しそうになっていたのだ。
しかも今回、王子に主導権を握らせてはいけないと考えたヴァイオレッタを演じるモブメイドは、王子の唇を自ら奪いに行くという強硬手段に打ってでたのだ。
突然現れた泥棒猫。マーガレット王女と対峙する時も、絶対に負けてはいけないという強い意思で勝負に出たモブメイド。結果、マーガレット王女の社交界デビューフラグは回避へと近づいたと言えるだろう。
――それにしても、王子とのキス、甘かったなぁ……砂糖であまあまに、あまーく煮詰めた果物のような味だった……♡
それはあくまでアップルタルトの味ですわよとヴァイオレッタからの突っ込みが入ったような気がしたが、そこは置いておこう。
気持ちを落ち着かせたところで、色々と考える事があった。
生前、マーガレットが王子へ近づいたきっかけが国同士の国交を結ぶためだとすれば、王様や王妃様をも丸め込み、国同士の利権に政略結婚を利用した可能性もあるのだ。
「マーガレット王女にとって、ミュゼファイン王国にとって、ヴァイオレッタ、そして、カインズベリー侯爵家が邪魔だった。やはり、その可能性が高い。これは今のうちに背後の関係を調べておく必要があるわね」
部屋の前で警護をしている兵士を通じ、第3メイド、ブルームを呼んで貰うように伝える。後は内通者であった41番のピーチ。あの子は厨房で、王宮メイド姿のマーガレット王女と確かに会話をしていたのだ。つまり、王女と彼女は繋がっているのだ。
「さて、社交界まで、忙しくなりそうね」
やることは山積みだ。
でも、なんだか楽しくなって来た。モブメイドは最後までヴァイオレッタを演じ切ってみせるわよ。
「すまない、国のために一生懸命な彼女が健気で、放っておけなかったんだ」
マーガレット王女は再びかつらを被り、王宮メイドとして部屋を去った。ワタクシもまだ着替えて居なかったため、自室へと戻り、元のワインレッドのゴシック風ドレスへと着替え、王子の部屋へと戻って来ていた。
ワタクシの着替えをするため、自室にて控えていたローザへ頼み、部屋には先程のアップルタルトと紅茶を持って来て貰っていた。
まぁ、沸点が高いままだと、まともな会話も出来なくなってしまうのでね。気持ちを落ち着かせるには、甘味成分、これに尽きるのよ。
「へぇー、じゃあイケメン王子様は健気な女の子が近寄って来たなら誰にでも腰を振るのかしら?」
「おい、ヴァイオレッタ。それは言い過ぎだ」
煽った事で流石に王子も頭に来たらしい。実際のところ、とっかえひっかえ自室へ女を連れ込む王子では困るので、王子の本心を聞きたいだけだったりする。
「で、本当のところはどうですの、腹黒王子さん。あなたの事だから国益と不利益を天秤にでもかけたんでしょう?」
「まぁ、今更お前に隠しても仕方あるまいな。そんなところだ」
ミュゼファイン王国の鉱山には、それほどの価値があるのだ。そして、ブラックシリウス国はクイーンズヴァレーにとっても脅威。つまり、ミュゼファインと国交を結ぶ事は悪い話ではない。王子はそう考えたのだろう。
「だからと言って、あの王女の色目に乗ったように見せたのは、仮に振りだとしてもいただけないわね」
「嗚呼、そうだな。これからは肝に銘じるとするよ」
だいたい生前の王子と王女の様子は、全く偽物に見えなかったのだ。偽物が本物になってしまっては、それこそ泥棒猫の思う壺。あの王女は、健気な仔猫を演じているだけで、実際は牙を隠した猛獣の可能性だってあるのだから。
「じゃあ、クラウン王子。一つお願いがありますわ」
「何だ、言ってみろ」
「来月行われる社交界。そこでワタクシを婚約者としてちゃんと紹介して下さるかしら?」
「いや、それは元々そのつもりだったぞ?」
「ええ、そうでしょうけど。そして、ワタクシと踊って下されば、それで今回の事は水に流しましょう」
「それだけでいいのか? ヴァイオレッタの事だ。高価な装飾品なんかを要求されるかと思ったぞ」
拍子抜けしたような表情をした王子は、アップルタルトの残りを口へ頬張る。そのタイミングでワタクシは紅いルージュを塗った口元を王子の口元へ近づける。
アップルタルトを口に含んだ王子の柔らかな部分は、とても甘い味がした。
「ふふふ、装飾品に目が眩んで、大切な物を失ってしまうような、そんな浅はかな女ではないわよ」
「それでこそ、俺の婚約者だ、ヴァイオレッタ」
王子はもう一度ワタクシの口元を奪おうと顔を近づけるが、ワタクシは王子の口元へ人差し指をそっと当て彼を制止し……。
「今日は駄目です。王子はちゃんと反省して下さい」
「ははは。すまなかった。今日は完敗だな。ヴァイオレッタ」
王子の謝罪を聞き遂げたワタクシは、素早く立ち上がり、『今日はこのあたりで自室へ戻ります。食器はワタクシのメイドへ片付けさせますわ』と言い残し、王子の部屋を出る。外で待機していたローザへ目配せすると、ローザは食器を片付けるため、王子の部屋へ。
そのまま早足でワタクシは自室へ戻り、部屋の鍵をかける。そして、鏡の前に立ち、誰も居ない事を確認して、ゆっくりと深呼吸し……。
――ぶっふぁあああ! ヴァイオレッタ様ぁあああああ! モブメイドはぁああ、緊張で心臓が飛び出るかと思いましたぁあああ!
そう、先程の王子とのやり取り。幾ら以前よりも耐性が出来たとは言え、イケメンの顔が迫る度にヴァイオレッタの脳内に潜むモブメイドの羞恥心が爆発しそうになっていたのだ。
しかも今回、王子に主導権を握らせてはいけないと考えたヴァイオレッタを演じるモブメイドは、王子の唇を自ら奪いに行くという強硬手段に打ってでたのだ。
突然現れた泥棒猫。マーガレット王女と対峙する時も、絶対に負けてはいけないという強い意思で勝負に出たモブメイド。結果、マーガレット王女の社交界デビューフラグは回避へと近づいたと言えるだろう。
――それにしても、王子とのキス、甘かったなぁ……砂糖であまあまに、あまーく煮詰めた果物のような味だった……♡
それはあくまでアップルタルトの味ですわよとヴァイオレッタからの突っ込みが入ったような気がしたが、そこは置いておこう。
気持ちを落ち着かせたところで、色々と考える事があった。
生前、マーガレットが王子へ近づいたきっかけが国同士の国交を結ぶためだとすれば、王様や王妃様をも丸め込み、国同士の利権に政略結婚を利用した可能性もあるのだ。
「マーガレット王女にとって、ミュゼファイン王国にとって、ヴァイオレッタ、そして、カインズベリー侯爵家が邪魔だった。やはり、その可能性が高い。これは今のうちに背後の関係を調べておく必要があるわね」
部屋の前で警護をしている兵士を通じ、第3メイド、ブルームを呼んで貰うように伝える。後は内通者であった41番のピーチ。あの子は厨房で、王宮メイド姿のマーガレット王女と確かに会話をしていたのだ。つまり、王女と彼女は繋がっているのだ。
「さて、社交界まで、忙しくなりそうね」
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