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第一章 風の国編
二十九.風の王との謁見
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翌日、レイ達は風の国の王の下へと向かっていた。
聳え立つ山の中腹、風の谷全体を見下ろす事の出来る場所に、その大きな宮殿はあった。
かつての兎耳族の祖先が建てたというキャロット宮殿。広い宮殿の敷地内に、兎耳族の王族や貴族、兎耳騎士団、王宮関係者が暮らしている。
風の勇者リーズ、元騎士団長の筋肉兎デラウェアに連れられ、広い宮殿の中を歩いていくレイとアン。細かな装飾が施された石柱、回廊の途中にシャンデリアや絵画、精霊を模した石像。宮殿と離宮の間には清浄な水が流れる庭園や王宮の者達が食べる野菜を作る農園まで併設されている。
時折すれ違う兵士が敬礼する様子を見て、レイは、風の勇者が有名人である事を改めて実感する。当然、勇者の隣に歩く筋肉兎を見て、脊髄反射のような面白い動きをする者もたくさん居た訳だが。
長い回廊を進み、重厚な扉を開ける。王の間へ入ると、兎耳族の王が出迎えてくれた。
「よくぞ来た。話は聞いておる。余は風の国現当主、ランス・シルバニア・グレイスフィールド七世だ」
風の王は、レイが想像していたよりも若い王だった。
宝石が散りばめられた冠の中から飛び出た兎耳と紅い宝石のような兎の円らな瞳。王家を彷彿とさせる豪華なマントに中央に翼を施した紋章の刺繍が施されたチュニック。王の隣に控える兎耳白髪の騎士も身分を感じさせる格好をしている。
「お初にお目にかかる。冒険者のレイ。戦闘スタイルは暗黒騎士だ。よろしく頼む」
「待て! 風の王の前だぞ! 言葉を慎み給え!」
いつもと変わらぬ口調のレイに、隣に立っていた騎士が怒号する。
「まぁまぁ、ティラミスちゃん。彼はこう見えてあの闇精霊ルシアと契約した存在。実力は本物よ~ん」
「なっ、なんだとっ!」
筋肉を動かしつつ片目を閉じるデラウェアの言葉に驚愕の表情となるティラミスと呼ばれた男。どうやら、レイが謁見する詳細を聞かされていなかったらしい。
「ティラミスよ。そういう事だ。リーズが契約しておる精霊シルフ殿の推薦もある。魔族進撃の防衛戦へ備え、彼を加えようと思うのだが、どうだ?」
「なっ、こんな素性も何も分からぬ男を信用しろと言うのですか!?」
彼の言い分は正論だ。実力も素性も分からない相手を信用しろと言う方が間違っている。通常なら、王の間へ通される事自体が稀なのだ。
「あんたの言い分は分かるさ。なら此処で、俺の力を披露してもいいんだぜ?」
「お前……正気か? 私は現兎耳騎士団隊長、ティラミス・ウイング・アルバフィールドだぞ?」
(成程、相手の実力は申し分なしって事だな)
【やる気ね、レイ】
「じゃあ、こうしましょう。レイちゃんが三分間、ティラミスちゃんの攻撃を全て受け切る事が出来たならば、防衛戦へ参加するってのはどう?」
「マ……いや、デラウェア。流石にそれは大丈夫か?」
デラウェアからの提案に驚いたのは風の勇者リーズだった。その場に居る誰もが目を丸くし驚いている。一人の青年を除いて。
「俺はその条件で構わないよ」
「レイ様……大丈夫ですか?」
「嗚呼、心配ない」
レイの横でそれまで黙っていたアンが心配そうに彼を見つめるも、レイの揺るぎない表情に安堵する。
「では、この場に居る者が立会人として、レイ殿へ試練を与える者とする」
かくして、現兎耳騎士団騎士団長による試練が始まったのだった――
聳え立つ山の中腹、風の谷全体を見下ろす事の出来る場所に、その大きな宮殿はあった。
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風の勇者リーズ、元騎士団長の筋肉兎デラウェアに連れられ、広い宮殿の中を歩いていくレイとアン。細かな装飾が施された石柱、回廊の途中にシャンデリアや絵画、精霊を模した石像。宮殿と離宮の間には清浄な水が流れる庭園や王宮の者達が食べる野菜を作る農園まで併設されている。
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長い回廊を進み、重厚な扉を開ける。王の間へ入ると、兎耳族の王が出迎えてくれた。
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「待て! 風の王の前だぞ! 言葉を慎み給え!」
いつもと変わらぬ口調のレイに、隣に立っていた騎士が怒号する。
「まぁまぁ、ティラミスちゃん。彼はこう見えてあの闇精霊ルシアと契約した存在。実力は本物よ~ん」
「なっ、なんだとっ!」
筋肉を動かしつつ片目を閉じるデラウェアの言葉に驚愕の表情となるティラミスと呼ばれた男。どうやら、レイが謁見する詳細を聞かされていなかったらしい。
「ティラミスよ。そういう事だ。リーズが契約しておる精霊シルフ殿の推薦もある。魔族進撃の防衛戦へ備え、彼を加えようと思うのだが、どうだ?」
「なっ、こんな素性も何も分からぬ男を信用しろと言うのですか!?」
彼の言い分は正論だ。実力も素性も分からない相手を信用しろと言う方が間違っている。通常なら、王の間へ通される事自体が稀なのだ。
「あんたの言い分は分かるさ。なら此処で、俺の力を披露してもいいんだぜ?」
「お前……正気か? 私は現兎耳騎士団隊長、ティラミス・ウイング・アルバフィールドだぞ?」
(成程、相手の実力は申し分なしって事だな)
【やる気ね、レイ】
「じゃあ、こうしましょう。レイちゃんが三分間、ティラミスちゃんの攻撃を全て受け切る事が出来たならば、防衛戦へ参加するってのはどう?」
「マ……いや、デラウェア。流石にそれは大丈夫か?」
デラウェアからの提案に驚いたのは風の勇者リーズだった。その場に居る誰もが目を丸くし驚いている。一人の青年を除いて。
「俺はその条件で構わないよ」
「レイ様……大丈夫ですか?」
「嗚呼、心配ない」
レイの横でそれまで黙っていたアンが心配そうに彼を見つめるも、レイの揺るぎない表情に安堵する。
「では、この場に居る者が立会人として、レイ殿へ試練を与える者とする」
かくして、現兎耳騎士団騎士団長による試練が始まったのだった――
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