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幼年期

#10 怖い奴

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兄さんは今日も仕事が終わってないらしく、ラストの5日目に行くことになった。

はぁ…明日は来れるんだろうな…

学校が終わり、すぐに工房へ向かう道を通り、工房に向かう。

工房に入り、下に居る土人族《ドワーフ》の人達を一瞥すると、すぐに違和感を感じた。
一人少ない、カーンさんが居ないのだ、どうしてだ?

そこで昨日、四爪の狼を出たとき感じた視線や殺気のようなものを思い出す。

まさか…そんなこと…あるはずが…。

しかし、その思考はすぐに捨てる、前世の世界だったら考えられなかっただろう、しかし、ここは違う。
ここは異世界だ、あり得るだろう。

額や頬を冷や汗が伝う。
もう手は手汗でグッショリだ。

探しに行かなきゃ…、とすぐに決意する、もしものことがあったら、兄さんに顔向けできない。

「…皆さん、今日はお休みにしましょう、もし、どうしてもしたいのでしたら、コレ《指導書》を使って自習しておいてください!!」

と指導書を渡し、俺は工房から出る。 

どこだ…?どこに居るんですか…カーンさん…

俺は全速力で街中を走り回る。

走りはじめて15分程たった頃、古びた酒場の跡地から声がした。

「クケケケ!この財布を返して欲しいんだろ?もっと速く動けよ土人族《ドワーフ》さんよ~ケケ」
「ギャハハハハ、全くおもしれえなぁ!」

土人族…まさか!そうに違いない!

俺はその声が聞こえた建物のドアを全力で開け放ち、カーンさんに呼び掛ける。

「カーンさん!」

建物の中には予想通りカーンさんが居た。

「レイさん!?ダメです、こっちに来たら…うぐっ」
「誰がしゃべっていいっつった」

カーンさんがうつ伏せのまま背中を踏まれる。

ざっと数えて10数人か…格好からして冒険者らしい、俺一人じゃカーンさんを守りながら戦うなんて無理だ、カーンさんを引っ張りながら逃げるのが吉だろう。

「んだこのガキ、ここはおめぇ見てえなガキが来るところじゃねえんだよ!!早くママんところに帰りな!!ギャハハハハ」

一斉に冒険者達が笑い声を上げる。
そこで俺の中の何かが千切れそうになったが、なんとか抑える。
ここで魔法をぶっぱなすなんてカーンさんを巻き込んでしまうことになるし、学校の外で攻撃魔法を使ってはいけないという校則にも違反してしまう。
とりあえず今はカーンさんを助けることを一番に考えよう。

小声で呪文を詠唱する。

「<速度の精霊よ 我の 足に宿れ>[速度上昇術《スピードステップ》]」

俺の足が緑色の魔方陣を纏い、俺の足のみ筋力を増幅させる。
その足でカーンさんを踏んでいる男に肉薄し、顎に思いっきり蹴りをお見舞いする。

「ハッ!」
「ふぇ…?うふごぁっ!!」

顎を粉砕された男はそのまま泡を吹きながら後ろに倒れる。
 
よし、これでカーンさんを抑えてた奴は居ないっ!速く!

そして、俺は素早くカーンさんの服の襟を掴み、脱出を試みる。
どうやらカーンさんは気を失っているようだ。

扉が目前に迫り、行けるっ!逃げれる!!、と思ったその時だった。

「ガキ風情が俺達から逃げれると思うなよ…?」
「は?」

次の瞬間、体が宙を舞い、地面にうつ伏せで叩き付けられた。

「あがっ!」

うつ伏せで叩き付けられたことにより、肺の中の空気が全て吐き出される。
息が出来ない…苦しい…

そして、休む暇を与えないように頭を掴まれ持ち上げられる。

「がぁっ!!」

痛い、痛い、痛い、痛い、痛い!!

首が体から抜けそうだった。
ここまで体のことを重いと感じたのは初めてだった。

そして、俺を持ち上げている男が俺に話しかける。

「良くもまぁ俺達の遊びの邪魔してくれたなぁ…?…そうだぁ…お前もアイツみたいに俺達のオモチャにしてやるよ、フハハハ!」

もう…意識が…

意識が朦朧とし、体から力が抜け、冒険者達の声が耳の中に反響する。
しかし、その笑い声がずっと響く訳ではなく、一人の男の声によって遮られた。

「おうおう…大の大人が子供に本気でキレちゃって~恥ずかしくねぇの?」

瞬間、殺気で空気が凍りついた。

数秒たってから俺を持ち上げている男が声の主に返事をする。

「あ?んだよ、お前もこいつみたいに俺達のオモチャになりに来たのか?全くご苦労なこって」

男が俺を声の主に見せつけながら得意気にケケケ、と笑う。

そして、声の主がこう男に告げる。

「お前らのオモチャ?誰がそんなものになるかよ…次オモチャになるのは…お前らだ」
「フフフ…ハハハハハハ!!臭いセリフ吐きやがって!!良いぜ!相手してやる!!」

そう言って、男は俺を放り投げる。

「ひかり…の…せん…し?」

放り投げられている間、俺が目にしたのは光の魔力を纏ったニム兄さんの姿だった。

そこで、俺は強い衝撃を頭に感じ、俺の意識は途切れた。
______________________________________

「フフフ…ハハハハハハ!!臭いセリフ吐きやがって!!良いぜ!相手してやる!!」

そう言い男はレイを放り投げる。

「おいおい、人の弟を投げんなよ…それとカーン…俺の弟子にも色々してくれちゃったようじゃねぇか、久しぶりに暴れさせてもらうぜ…[武装開放《ウエポンオープン》]」

瞬間、ニムの体に光属性の魔力が迸り、ニムの体を包み、防具を形成する。
そして、腰には魔力で形成された片手剣が装備されている。
ニムはその片手剣を勢い良く抜き構える。

「おいおい、そんな魔力を使っちゃ死んじまうぜ?」
「心配してくれるなんて、優しいねぇ、魔力の問題なら大丈夫だ、この魔工鎧《マジックアーマー》には魔石が埋め込まれてるから、魔力はそこから供給される、だから、お前らは俺の魔石を壊せば勝ちってこった」
「自分から弱点を教えるなんて、優しいねぇ…やれ!」

冒険者達は各々の武器を構え、ニムに肉薄する。
そこでニムがこう告げた。

「言い忘れてたが、この魔力の温度は1800℃だ」

武器がニムの光の防具に触れた瞬間、冒険者達の武器がドロドロになって融解した。

「なっ!?」

冒険者達が驚きの声を上げる。
その中の数人は恐れおののいたのか、建物からの脱出を図るが、ニムの光魔法により、足のふくらはぎを刺され行動不能にさせられた。
他の冒険者達も完全に戦意を喪失していた。
そこにニムが煽りを入れる。

「どうした?もう終わりかよ…つまらねぇなぁ?」

その煽りに反応したのは、さっきまでレイにキレていた奴だった。

「クソ…クソ!!クソクソクソ!!」

思い切りその男が拳をニムに降り下ろす。
その拳をニムはその拳を自らの何にも防がれていない拳で受け止め、こう唱える。

「[分解せよ]」

ニムの魔力が男の腕に急激に流れ込み段々と腫らしていく。
男は手を話そうとするが他人の魔力に犯された手は言うことを聞かない。
そして、二の腕近くまで腫れたその瞬間、腫れた部分が全て砂になり欠落する。
男の悲痛な悲鳴が建物の中に木霊する。

「ぁあああぁぁああぁあぐがぁぁあああうあぁあ!!俺の…腕が…いてぇええぇ!!」

やがて、痛みに耐えられなくなった男は失禁し、泡を吹き、気絶した。
その事を確認したニムは口を開き、警告する。

「今度こんなことをやった暁には…全員砂になってもらうから」

冷やかな殺気を帯びた言葉は室温を2℃程下げた気がした。

そして、冒険者達はその脅迫に涙目で何度も何度も頷いたのだった。
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