上 下
29 / 57
カウドゥール

6世とナッちゃんで節分

しおりを挟む
「どうもこんにちは、Pお兄さんです。今回は2月3日という事で“地球”という世界の“日本”という地域での『節分』なる行事を行(おこな)ってみたいと思います」

 穏やかに微笑みながら、Pが手持ちの編みカゴに手をつっこみ、中に入っている“何か”をかき混ぜた。
 ……どうやら、会話から察するにカゴの中には“豆”が入っているらしい。
 
「人に豆をぶつけるだなんて、乱暴な行事ですねぇ」

 豆をぶつけられるためにPの向かいに立って、渋々身構えていた護衛兵・Znが呆れる。

「鬼は外、だなんてアイツでいいじゃないですか。あの黒髪赤瞳。お似合いじゃないですか。鬼、というかもう、あのクソ」

 Znが吐き捨てる。彼は、諸事情あってKが大嫌いである。

「Kさんに豆をぶつけるだなんて、可哀想だろ」
 Pがぷぅ、と憤る。

「……私は可哀想ではないのですか」

「うっせぇな。俺の幸せ・ゲン担ぎのために豆くらい黙って投げつけられてろよ」

 Pは屈託のない笑顔でそう言うと、目の前のZnに向かって、思いっきり“豆”を投げつけた。
 
 
 ところで、Znも“地球”という世界の“日本”の行事の事は、調べて知識として多少は知っている。
 ………我が王が自らに向かって投げた“豆”は、明らかに……
 
 
 
「~~~~マカダミアナッツ!」


 想像していたよりも明らかに大きい“モノ”が投げつけられたZnは、思わずこれを避けた。

「ちょ、何よけてんだよ。当たれよ。鬼。災厄」

「ちょっと待って下さい! 投げるのは大豆という、小さい豆でしょう!? 何ですか、マカダミアナッツって! でかいですよ! ……って、痛い!」

 喋り散らすZnに向かって、問答無用でPはマカダミアナッツを全力で投げた。

「でかい豆の方が効果ありそう」

「変わらねぇよ! やめろ! っつーか、マカダミアナッツなんていつ用意したんだよ! さっき、机の上にあった“大豆袋”はフェイクか、ちきしょう!」

「……そう? 仕方ないなぁ……」

 Znの必死のツッコミに、P様が舌打ちをしながら机の方に歩み寄り、何やら用意を始めた。ZnからはPの背中で、Pが何をしているのかが見えない。
 
  
 
 ふと、嗅ぎ覚えのある匂いがした。
 
 
 
「…………納豆はやめろよ………?」

 Pの背中に向かって、Znが呟く。
 それを受けたPが、いぶかしげに振り向いた。その顔は、苦悶に彩られており美しい。Pが振り向いたおかげで彼の手元が見えたが、そこにはやはり、納豆があった。

「……マカダミアナッツもダメ。納豆もダメ、ときたら一体どうしろというんだ……」

 美しい苦悶の表情から放たれる会話の内容ではない。
「……おとなしく大豆使えよ……」
「納豆も大豆だぞ……」
「やかましい」
「じゃあ、“コレ”はどうよ」

 Pが楽しそうに笑いながら、机の上にあった袋に手を伸ばした。
 
 
 
 あぁ。今年も安定の漫才やり取りだなぁ、と、Znは“投げつけられて床に落ちたソラ豆”を踏んづけて滑って転んだ状態で、天井を見上げたまま思った。
 
 ソラ豆は臭かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

処理中です...