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カウドゥール
“護衛”Kさんと還暦近いP王
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人生とは不思議なものだ。
P6世は、しみじみとそう思った。
数十年前に、我が城に怒涛の如く転がりこんできて自首をしてきた連続殺人鬼が、今現在…………。
*******
「ほら、6世。足元に気をつけて下さい」
その殺人鬼が、我が城の正式な護衛兵服を着て、王である自分の背中を支えて「お気をつけ下ちゃい~(裏声)」とか抜かしている。
罪人を管理している地下牢までの通路を歩きながら、Pは急に今までのこの元・殺人鬼の変遷を思い出し、可笑しくなった。
「通路の埋め石、ちょっと外れていたり、ヒビが入っていたりしてません? 修繕工事しましょうよ」
元殺人鬼・Kが指差したその問題の箇所は、むしろ『呼び出された工事の人が「それくらい、てめぇでやれよ」と立腹するであろうレベルの微々たるもの』であった。
「………いつから君は、そんなに神経が繊細になったのだ」
P6世がじろりとKを睨む。
「いやいや! もうお前……失礼。6世も、もういいお年。いつ、どんなつまらない場所で足がもつれて転んで頭を打ってご逝去してしまうのか、と思うと……!」
「失礼だな。そんなに俺、もうろくしてねぇし」
Pは、もう還暦が近い年に達していた。そろそろ、自分の息子に王位を譲る準備もしている。
一方、Kは“案の定”いつまで経っても若々しく、昔の友人・Bいわく『上の下(ジョウノゲ)のイケメン』だった。
『不死だけど、不老ではないかもしれない。俺は老衰死に期待する!』と歪んだ希望に満ち溢れていた昔のKに、今のKの様を報告したら、ショックでどれくらいの高さの建物から飛び降りるのだろうか(でも死なない)。
ここ最近のKは、Pに対して異常に過保護だった。
たかが階段で「おぶりますよ」。
軽く咳をしたら「名医を呼べ!」。
ペンを落としたら「私が拾います!」……。
過保護になる“気持ち”はわからんでもなかったが、いい加減にしてほしいものだ。
「………Kさん。どれだけ心配しようが、時が経てば俺、死ぬからね?」
「にゃわぁ!!」
Pがさらりとそう言うと、Kが女々しい悲鳴を上げた。
「いや、いやいやいやいや。知ってるけど、知ってるけどね? ……ちょ、そんな事言うなよ。ウソでも『生きる!』って言えよ!」
「女々しいな。覚悟しとけよ」
KはPの前護衛であるZnの戦死後、“案外と難易度の高い”護衛試験を受け、見事に合格した。
あんなにも粗暴な男が、城で決められている指定の型の剣技をちゃんと覚えてきたのにも驚いたが、特に“買い物をする時に使うような簡単な計算すら出来なかったようなK”が頭脳試験を通った事に「世界が滅ぶのではないか」と不安になるくらい驚いた。
「そんな苦労をしてまで俺のそばにいたいの? やぁだ~、Pたん感激~」と、Kを茶化したところ「おぅ」と真面目に悲し気な顔で返されて、おちゃらけたこっちが恥ずかしくなった。
南東魔界魔王G様、Bくん、Lちゃん。
それにRちゃん。あと、ついでにナッちゃん。
それらが亡くなって相当参っており、Kが唯一、胸襟を開いて接する事ができるのが自分だけになったので「死んでほしくない」という気持ちはわからなくもないが、だからといってこの過保護は、ない。
ところで、Pは“そんな心配過敏症のKに伝えたら、ものすごい泣きつかれてマントをグシャグシャにされそうな”とある大事な報告を、まだKにしていなかった。
別に、いつ伝えたって構わないのだが、マントをグシャグシャにされるのはイヤなので、いまだに躊躇している。
まぁ、いつサプライズとして伝えようか、機を伺っているのもある。
水の入った花瓶を持っている時にでも伝えたら、まるでドラマのワンシーンのように花瓶を取り落とすだろうか。
“アイツ”の後釜として仕えているのだから、それくらいのリアクションはしてほしいものだ。
P6世は、しみじみとそう思った。
数十年前に、我が城に怒涛の如く転がりこんできて自首をしてきた連続殺人鬼が、今現在…………。
*******
「ほら、6世。足元に気をつけて下さい」
その殺人鬼が、我が城の正式な護衛兵服を着て、王である自分の背中を支えて「お気をつけ下ちゃい~(裏声)」とか抜かしている。
罪人を管理している地下牢までの通路を歩きながら、Pは急に今までのこの元・殺人鬼の変遷を思い出し、可笑しくなった。
「通路の埋め石、ちょっと外れていたり、ヒビが入っていたりしてません? 修繕工事しましょうよ」
元殺人鬼・Kが指差したその問題の箇所は、むしろ『呼び出された工事の人が「それくらい、てめぇでやれよ」と立腹するであろうレベルの微々たるもの』であった。
「………いつから君は、そんなに神経が繊細になったのだ」
P6世がじろりとKを睨む。
「いやいや! もうお前……失礼。6世も、もういいお年。いつ、どんなつまらない場所で足がもつれて転んで頭を打ってご逝去してしまうのか、と思うと……!」
「失礼だな。そんなに俺、もうろくしてねぇし」
Pは、もう還暦が近い年に達していた。そろそろ、自分の息子に王位を譲る準備もしている。
一方、Kは“案の定”いつまで経っても若々しく、昔の友人・Bいわく『上の下(ジョウノゲ)のイケメン』だった。
『不死だけど、不老ではないかもしれない。俺は老衰死に期待する!』と歪んだ希望に満ち溢れていた昔のKに、今のKの様を報告したら、ショックでどれくらいの高さの建物から飛び降りるのだろうか(でも死なない)。
ここ最近のKは、Pに対して異常に過保護だった。
たかが階段で「おぶりますよ」。
軽く咳をしたら「名医を呼べ!」。
ペンを落としたら「私が拾います!」……。
過保護になる“気持ち”はわからんでもなかったが、いい加減にしてほしいものだ。
「………Kさん。どれだけ心配しようが、時が経てば俺、死ぬからね?」
「にゃわぁ!!」
Pがさらりとそう言うと、Kが女々しい悲鳴を上げた。
「いや、いやいやいやいや。知ってるけど、知ってるけどね? ……ちょ、そんな事言うなよ。ウソでも『生きる!』って言えよ!」
「女々しいな。覚悟しとけよ」
KはPの前護衛であるZnの戦死後、“案外と難易度の高い”護衛試験を受け、見事に合格した。
あんなにも粗暴な男が、城で決められている指定の型の剣技をちゃんと覚えてきたのにも驚いたが、特に“買い物をする時に使うような簡単な計算すら出来なかったようなK”が頭脳試験を通った事に「世界が滅ぶのではないか」と不安になるくらい驚いた。
「そんな苦労をしてまで俺のそばにいたいの? やぁだ~、Pたん感激~」と、Kを茶化したところ「おぅ」と真面目に悲し気な顔で返されて、おちゃらけたこっちが恥ずかしくなった。
南東魔界魔王G様、Bくん、Lちゃん。
それにRちゃん。あと、ついでにナッちゃん。
それらが亡くなって相当参っており、Kが唯一、胸襟を開いて接する事ができるのが自分だけになったので「死んでほしくない」という気持ちはわからなくもないが、だからといってこの過保護は、ない。
ところで、Pは“そんな心配過敏症のKに伝えたら、ものすごい泣きつかれてマントをグシャグシャにされそうな”とある大事な報告を、まだKにしていなかった。
別に、いつ伝えたって構わないのだが、マントをグシャグシャにされるのはイヤなので、いまだに躊躇している。
まぁ、いつサプライズとして伝えようか、機を伺っているのもある。
水の入った花瓶を持っている時にでも伝えたら、まるでドラマのワンシーンのように花瓶を取り落とすだろうか。
“アイツ”の後釜として仕えているのだから、それくらいのリアクションはしてほしいものだ。
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