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第32話 親子の溝

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 ロミーナの母親――つまり、俺の義理の母親となる人物。
 名前は確かヘレナ様だったか。
 三人の娘がいるとは思えないくらい若々しく綺麗な女性だ。
 最初は娘を心配して部屋まで訪ねてきたのかと思ったのだが……どうもそんな感じじゃなさそうだな。

「あ、あの、ロミーナに何か?」
「別に。自分の部屋へ戻る途中よ」

 ただそれだけ。
 興味も関心もないって声と表情だ。
 ……いや、そう見えているだけで内心では娘をめちゃくちゃ心配しているというパターンだってあり得る。古典的なツンデレって可能性にも期待していたが、どうにもあの視線からはそんな母親らしい感情がなさそうに見える。

 そういえば、ふたりの姉は優秀なんだよな。
 あっちを可愛がって末っ子のロミーナはほとんど放置気味ってパウリーネさんが言っていたな。父親のカリング様は随分気にされていたようだけど、母親のヘレナ様はそうでもないってわけか。
 
 それを決定づけたのが、

「神聖なオルメド城をあの子の血で汚すような事態にならなくてよかったわ」
「っ!?」

 思わず殴りかかりそうになるのを必死にこらえた。
 ここで俺がこの人を殴ったところで何も解決しない。いや、それどころか事態は悪化するだけだ。
 
「何か?」
「い、いえ、何でもありません……」
「そう。では失礼するわ」
 
 ヘレナ様はそう言って立ち去っていく。
 あれは照れ隠しでもなんでもないな。
 本心からそう思っている――俺にはそう感じられた。
 
 原作【ブレイブ・クエスト】では登場どころか存在を匂わせるようなイベントもセリフも存在していない。なので、彼女がロミーナの破滅フラグである可能性も秘めているのだ。

 今後もヘレナ様の動向には注視する必要がありそうだな。
 十歳の俺にできることなんて限られているけど、それでもロミーナとの幸せな生活を守るため、努力は続けよう。もちろん、生産魔法を使って領地をさらに発展させていくという仕事も忘れない。

「……今日はこのままロミーナの部屋で寝ようかな」

 専用の部屋が用意されているものの、ヘレナ様に会い、ロミーナに対する態度を目の当たりにしたら……なんだかそばにいてあげたくなった。
 今回の件で見直してくれるかもしれないなんて思ったけど、そういうレベルの話じゃなさそうだな。

 しかし、どうしてあそこまでロミーナを嫌うのか。
 ただ魔法を制御できないだけというわけじゃない気がする。
 これはあくまでも根拠のない予感だけど、少し調べてみようかな。

 いろんな考えが頭の中を巡る中、俺は部屋へと戻る。
 明日、ロミーナが目覚めたらいっぱい話をしよう。
 今は無性に彼女としゃべりたい気分だった。
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