上 下
20 / 99

第20話 ペンバートン家の三姉妹

しおりを挟む
 中庭にいたのはロミーナのふたりの姉。

 長女のエクリア。
 そして次女のカテリノ。

 エクリアは全体的に落ち着いた雰囲気で、以前聞いた話によれば王立学園に通っており、優秀な成績をおさめているらしい。
 一方、カテリノは今年から学園に通いだしたばかりの新入生だが、剣の腕前は一級品だとパウリーネさんが語っていたな。

 どちらも申し分ない才能を持っている。
 けど、ロミーナだって負けないくらい魔法の才能は素晴らしいものがある。最近ではイルデさんから「いずれはあたしを超える魔法使いとなるだろうねぇ」って褒められていたし。

 自信をつけつつあるロミーナなら、以前とは違って姉たちを前にしても堂々と立ち振る舞えるはず――と、思っていたのだが、肝心のロミーナは顔が青ざめ、体がうまく動かせないようだ。

 これは……俺が思っていたよりもずっと根深いものがありそうだな。

「綺麗なドレスね。お父様に用意してもらったのかしら」

 静かに近づく長女エクリア。
 一瞬、ロミーナの方がビクッと強張ったのを見逃さなかった俺は、気がつくとふたりの間に割って入っていた。

「あら? あなたは……」
「は、はじめまして、アズベル・ウィドマークです」
「ウィドマーク? ――そう。あなたがウィドマーク家の……」

 そう語るエクリアは恐ろしく冷たい視線を俺に投げつける。
 毛ほども関心がないからさっさとどきなさい――口にはしていないが、間違いなくそう思っていると確信できるくらいの顔つきだった。そりゃロミーナもあんな顔になっちゃうよ。

「前よりも顔色がよくなったわね。お母様もお喜びになるわ」
「っ!?」

 お母様。
 エクリアがそう口にした途端、さっきよりもロミーナの表情が暗くなる。
 どうやら、ふたりの姉よりそっちの方がヤバそうだな。

「さて、久しぶりにあなたの顔が見られてよかったわ。そろそろ行きましょうか、カテリノ」
「はいですわ!」

 不敵な笑みを浮かべながら、カテリノを連れて去っていくエクリア。
 その場に残された俺たち三人。
 未だに震えているロミーナを見て――俺は彼女の手を握る。

「ア、アズベル……?」
「大丈夫だ、ロミーナ。今の君には俺がいる」

 真っ直ぐ目を見てそう告げると、強張っていたロミーナの表情が少しずつ柔らかなものへと変わっていく。

「ありがとう……アズベル」

 いつもの笑顔を見せてくれたロミーナは俺の手を強く握り返す。その仕草は、これから待ち構えている困難に対する決意表明のように思えた。

 ちょうどその時、うちのメイドのスザンナが「そろそろホールの方へ移動をお願いします」と呼びに来てくれた。

「行こう、アズベル」
「ああ」

 最終的にロミーナに引っ張られる形となったが、その際、パウリーネさんから「ありがとうございます」と小声でお礼を言われる。

 とりあえず、最悪の事態は回避できたかな?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

処理中です...