表紙へ
上 下
65 / 168
連載

【書籍第1巻発売記念SS】とあるメイドたちの華麗な一日

しおりを挟む
「それじゃあ、いってきます」
「夕方には戻ってきますから」
「かしこまりました。ロイス様もシルヴィア様もお気をつけて」

 同じメイドのエイーダとともに、主人であるロイスとシルヴィア、そして護衛を務めるダイールとレオニーの四人を見送る。
 このジェロム地方へと移住してからしばらく経つが、ここ最近はこのような朝を過ごすことが多くなった。

「それでは、私たちは私たちの仕事をしましょうか」
「はい!」

 屋敷メイドであるテスラとエイーダにとって、ここからが仕事の本格的なスタート。
 まずは洗濯、それから部屋の掃除、それらがひと通り片付く頃にはお昼近くになるため、自分たちの食事の用意。それを済ませると今度は庭の手入れを行い、ひと段落着いたらようやく休憩となる。
 
 当初、このハードなスケジュールはエイーダにとって厳しいだろうとテスラは想定していた。まだ自分がオルランド家にいた時に新入りメイドの教育係を任命されたこともあったが、中にはついていけずに辞める者も少なくない。

 だが、エイーダは違った。
 前向きな性格と父親譲り(?)の体力でこれを乗り切ったのである。正直言って、これまで見てきたどの新入りメイドたちよりも将来有望な人材だった。

「では、そろそろお茶にしましょうか」
「はーい!」

 テスラの呼びかけに元気よく返事をするエイーダ。
 その時、

「こんにちはー」

 玄関の方から女性の声がした。

「あら、来客のようですね」
「誰かな?」

 ふたりは来客を出迎えるため、玄関へと向かう。扉を開けると、そこにはよく見知った少女が立っていた。

「あっ、テスラさん」
「ユリアーネ様でしたか」

 近くで書店を運営しているユリアーネだった。彼女は領主であるロイスやその婚約者のシルヴィアと面識があり、親しい間柄。読書が趣味というロイスは、無属性魔法に関する魔導書や趣味で楽しむ小説をユリアーネの店でよく買っていた。
 そのつながりから、ユリアーネは屋敷を訪れる機会が多く、そのうちにテスラやエイーダとも仲良くなっていた。

「領主様に頼まれていた本が入荷したので持ってきたのですが……もう行っちゃったみたいですね」
「はい。ですので、こちらで預かっておきます」
「お願いします」

 ユリアーネから本を手渡された後、帰ろうとする彼女へ、

「あの、ユリアーネ様」
「はい?」
「よければこれから一緒にお茶などいかがですか?」
「私たちちょうど休憩に入るんだ! テスラさんの作ったおいしいケーキもあるよ!」
「!? ぜ、ぜひ! ちょっとお店を臨時休業にしてきます!」

 そう言うと、ユリアーネは全力疾走で店へと戻っていった。

 ――数分後。

 準備を整えて合流したユリアーネとともに、まったりとしたティータイムを楽しむ。女子三人が集まってのトーク――しかし、その内容はまるで女子らしくない、ロイドの領地運営に関するものが中心だった。

 そんな楽しい時間はあっという間に過ぎ、気がつくと夕暮れが迫っている。

「いけない! そろそろ戻らなくちゃ!」

 店へ戻るユリアーネを見送ると、タイミングを見計らったかのようにロイスたちが山の探索から戻ってきた。

「あれ? こんな時間に外にいるなんて……どうかしたの、ふたりとも」
「いえ、なんでもありませんよ。すぐに夕食の用意をいたします」

 テスラはわずかに微笑むと、エイーダと一緒に屋敷へと入っていく。
 メイドたちの一日は、まだ終わらない。
しおりを挟む
表紙へ

あなたにおすすめの小説

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです

珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。 老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。 そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。

勇者がパーティ―をクビになったので、山に囲まれた田舎でスローライフを始めたら……勇者だった頃よりもはるかに幸せなのですが?

シトラス=ライス
ファンタジー
魔王ガダム率いる魔族の脅威から、エウゴ大陸と民を守り続けてきた【黒の勇者バンシィ】  ある日彼は、国王と対魔連合上層部によって勇者の資格の剥奪をされてしまう。 更にネルアガマ王国の第二皇子【ユニコン=ネルアガマ】に聖剣さえも没収され、大半の力を失ってしまった。  彼は勇者として世界のための戦うことができなくなった……黒の勇者バンシィは【ノルン】と名前を変え、歴史の表舞台から姿を消す。そして王国の辺境"ヨーツンヘイム"に流れ着き、そこの"山林管理人"としての職を得る。 加えて以前助けた【村娘のリゼル】と共同生活を始め、第二の人生をスタートさせた。  着任当初はノルンへ不信感を抱いていたヨーツンヘイムの村人達だったが、彼の土地を思いやる気持ちと、仕事に一生懸命な姿を見て、心を開き始める。彼の活躍により寒村だったヨーツンヘイムは次第に豊さを取り戻してゆく。 そして仕事と同時にノルンは村娘のリゼルと心を通わせ、関係を深めて行くのだった。  一方その頃、ノルンから聖剣を奪い白の勇者となったユニコン=ネルアガマは己の行いに後悔をしていた。 更にノルンの仲間だった妹弟子の【盾の戦士ロト】や、“運命の三姫士(さんきし)"【妖精剣士ジェスタ】、【鉱人術士アンクシャ】、【竜人闘士デルタ】との関係を悪化させてゆく……  これは疲れ切った元勇者の癒しと再生と愛情の物語。 *ここまでが大体12話くらいまでのあらすじです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武
ファンタジー
All Free Online──通称AFOは、あらゆる自由が約束された世界。 主人公である少年は、チュートリアルを経て最速LvMAXを成しえた。 Q.有り余る力を何に使う? A.偽善の為に使います! これは、偽善を行いたい自称モブが、秘密だらけの電脳(異)世界を巻き込む騒動を起こす物語。 [現在修正中、改訂版にはナンバリングがされています] 現在ハーレム40人超え! 更新ノンストップ 最近は毎日2000文字の更新を保証 当作品は作者のネタが続く限り終わりません。 累計PV400万突破! レビュー・感想・評価絶賛募集中です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。