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第120話 事件の全容

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 場所を騎士団長の執務室へと移し、何が起きたのか改めて説明を受けることとなった。
 王都の大聖堂をめちゃくちゃにした犯人――それは、ごく普通の一般人であり、俺も面識がある。
 とはいえ、特別親しくしている間柄ではなく、王都で配達屋の仕事をしている若い兄ちゃんだ。彼のことを詳しく知っているわけじゃないが、少なくとも神聖な大聖堂をめちゃくちゃにするほど暴れるようなやんちゃではないはずだ。
 ラングトン騎士団長も、彼とは個人的な交流があるようで、とてもそのような事件を起こすような青年ではないと断言した。
 そこで気になるのが、事件を起こした時の青年の精神状態だ。

「大聖堂の関係者が言うには、突然フラッと現れ、手にしていたハンマーで辺りを破壊し始めたらしい。とても手が付けられる状態ではなく、仕方なく騎士団に要請をしたとのことだ」
「一体何があったんだ……」

 フラストレーションがたまって大暴れをしたってわけじゃなさそうなんだよな。
もちろん、彼のプライベートをくまなく調べたわけじゃないのでハッキリとは言い切れないのだが、ストレス解消にしてはあまりにも脈絡がなさすぎる。どういう思考をしたら、ハンマー片手に大聖堂で暴れてやろうって気になるのか。

 そこで浮上した仮説は――

「恐らくだが……彼は正気を失っていた可能性がある。原因については現在調査中だが、ついさっきまで現場にいたミネットから興味深い話を聞いた」
「ミネットが?」

 最初は関連性などなさそうに感じたが……彼女は国内最大級の商会を束ねるトップクラスの商人。ゆえに、かなりの情報網を抱えていると思われる。そうなると、セラノス王国としては頼りになる情報源になるだろう。

 そんなミネットからもたらされた情報とは――

「あれと似たような事件が近隣の国でも発生しているようだ」
「えっ?」

 かなり特異な事態だと思うのだが、どうも類似性のある出来事が近場で起きているらしい。

「現在ミネットにも動いてもらって調査を続けている」
「魔法絡みの可能性は?」
「大聖堂関係者の話では、青年のものとは異なる魔力を感知したという証言も得られているのだが……かなり微量だったらしく、いわゆる精神操作系の魔法が使用された痕跡と断定するには弱いって話だ」
「なるほど……」

 そもそも、精神操作系は禁忌魔法として扱われている。なので、魔法使いとしてかなりの腕前を持っていなければ使うことすら叶わないのだ。

「まもなく王聖六将が揃い踏みとなる。それまでに無用なトラブルは避けたいところではあるが……近隣諸国でも同様の事件が起きているとなれば、これは世界を巻き込んだ大きな混乱の一端とも捉えられる」
「放置しておくわけにはいかない案件か……」

 組織としての転換期に、狙いすましたかのような大事件の予兆。
 こいつは気合を入れて対応していかなくちゃならないな。
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