157 / 168
第157話 真田の狙い
しおりを挟む
「完全に意表を突いたつもりだったけど、さすがは騎士団を束ねるおふたりだ」
百戦錬磨のアデムとゼイロを敵に回したのだが、真田の態度に変化はない。
その目は他者を見下し、歪んだ口元はこれから起こす凶行――優志たちへの攻撃を暗示しているかのようであった。
「なぜだ! なぜ我らと敵対する!」
アデムが叫ぶ。
ゼイロは剣を構えたまま無言。
優志はすぐさま起き上がって美弦を背に回した。
「僕が理由を話して、それからどうする気ですか? 説得でもするつもりですか?」
大剣をまるで箸でも扱うかのように軽々と回転させ、呆れたように言い放つ真田。どうやら問答無用というわけらしい。
それでも、「勇者が敵に回った」という事実を受け入れられないアデムはさらに問う。
「君は……他の勇者たちと共に、魔王討伐のため戦うと誓ってくれた……その誓いは嘘だったのか!」
「あの時は確かに魔王討伐を本気で考えていたよ。――ただ、事情が変わったんですよ」
「事情が変わった? 一体なんのことだ!」
「これ以上の会話は無意味ですよ。だって、何を聞かれても答えるつもりは毛頭ありませんからね」
真田が勢いよく剣を振ると「ブン!」という風を斬る音がした。
魔獣との戦いにほとんどの戦力が割かれている中、この場にいるのはごく少数。ニックの説得に当たったアデムとゼイロ。そしてその右腕とも呼べる側近の兵士。そして優志と美弦のふたりだ。
「……美弦ちゃん」
「な、なんですか?」
「真田くんは……強いのか?」
優志が尋ねると、美弦は沈黙した。言葉を語らなくとも、その反応で大体の察しはつく。ところが、わずかな沈黙を破った美弦の口からとんでもない真実が告げられた。
「真田くんは……純粋な戦闘能力なら私たち転移勇者たちの中で間違いなく最強です」
「! さ、最強!?」
「恐らく……アデムさんとゼイロさんは――勝てません」
美弦はそう断言した。
それは当然、対峙している本人たちも承知しているだろう。
だが、そうであってもふたりは立ちはだかる。
勇者真田の真意を知るために。
「サナダくん……君の狙いはなんだい? なぜ、ミヤハラ・ユージに剣を向けた?」
激しい口調だったアデムとは対照的に、ゼイロは静かな口調で語りかける。
「ゼイロ副団長……先ほどの話を聞いていなかったんですか?」
「私はどうにも腑に落ちないんだ。覚えているかい? 君はこの世界に召喚された直後に気を失い、医務室へと運ばれた。そこで目を覚まし、初めて顔を合わせたのが私だ」
「……覚えていますよ」
わずかだが、真田に変化が見られた。
戸惑い――例えるなら、そんな感情が言葉の端々からにじみ出ている気がする。言い換えるならば、動揺しているとも表現できる。
「真田くんはゼイロ副騎士団長と仲が良かったのか?」
「仲がいいというよりも信頼をしていたといった方がいいかもしれません。召喚されてからしばらく経ってからなんですが、真田くんは『ゼイロさんみたいな人がクラスの担任だったらよかったのに』と呟いていました」
「そんなことが……」
美弦の証言から、ふたつの事実が分かった。
ひとつは真田がゼイロに対して好印象を抱いていること。
そしてもうひとつは――真田にとって、元いた世界の学校生活に、担任絡みで不満があっということ。
そのふたつを結び付けて真田の心中を探ろうとした優志であったが、それについて真田自らが真実を打ち明けた。
「……僕は力を手に入れた。この力を、僕は元の世界へ持ち帰ろうと思う。持ち帰って、今まで僕をみくびってきたヤツらに見せつけてやる!」
「!? 力を持ち帰るだと!?」
アデムからの要求には応えなかったが、ゼイロ相手では勝手が違うのか、自分の考えを素直に吐露してみせた。
しかし、それはあまりにも予想外の答えである。
「みくびってきたヤツら……もしかして……」
真田のいた世界に住んでいた優志と美弦にはなんとなく理解できた。
恐らく、真田は向こうの世界で何者かから酷い仕打ちを受けてきたのだ。
あの強大な力を元の世界でも使えるようになれば、以前のパワーバランスは逆転する。真田の狙いはそれだった。
「力を持ち帰るなんて……できるわけがない!」
アデムの言葉に対して優志は無意識に頷いていた。
この世界から元の世界へは戻れない。
だから、召喚された勇者たちには事前にその旨を伝え、それでも転移し、勇者として戦ってくれる若者を募っていた。
それによって集められたのがあの七人なのだ。
「……サナダくん、いくら君が優れていようとも、決して元の世界へは戻れない。そんなことができる人間などこの世界に――」
「存在していますよ」
「「!?」」
真田の言葉を受けたアデムとゼイロは絶句。
そのリアクションに、優志は違和感を覚えた。
「そんなことあるはずがない!」という反応よりも「なぜ君がそのことを知っているんだ」というものに映ったからだ。
「まさか……」
真田が言っていることは事実なのか。
実は黙っていただけで、本当は帰る術があるというのか。
青ざめるアデムとゼイロを嘲笑うかのように、真田はさらに続ける。
「僕は気づいているんですよ? ――あなた方の秘密を」
「な、何のことだ?」
「とぼけても無駄ですよ、アデム団長」
クスクスと小さく笑いながら、真田はその秘密とやらを口にする。
「僕に真実を教えてくれたのは……あなたたちが召喚した八人目の勇者――いや、正確には一番目の勇者です」
百戦錬磨のアデムとゼイロを敵に回したのだが、真田の態度に変化はない。
その目は他者を見下し、歪んだ口元はこれから起こす凶行――優志たちへの攻撃を暗示しているかのようであった。
「なぜだ! なぜ我らと敵対する!」
アデムが叫ぶ。
ゼイロは剣を構えたまま無言。
優志はすぐさま起き上がって美弦を背に回した。
「僕が理由を話して、それからどうする気ですか? 説得でもするつもりですか?」
大剣をまるで箸でも扱うかのように軽々と回転させ、呆れたように言い放つ真田。どうやら問答無用というわけらしい。
それでも、「勇者が敵に回った」という事実を受け入れられないアデムはさらに問う。
「君は……他の勇者たちと共に、魔王討伐のため戦うと誓ってくれた……その誓いは嘘だったのか!」
「あの時は確かに魔王討伐を本気で考えていたよ。――ただ、事情が変わったんですよ」
「事情が変わった? 一体なんのことだ!」
「これ以上の会話は無意味ですよ。だって、何を聞かれても答えるつもりは毛頭ありませんからね」
真田が勢いよく剣を振ると「ブン!」という風を斬る音がした。
魔獣との戦いにほとんどの戦力が割かれている中、この場にいるのはごく少数。ニックの説得に当たったアデムとゼイロ。そしてその右腕とも呼べる側近の兵士。そして優志と美弦のふたりだ。
「……美弦ちゃん」
「な、なんですか?」
「真田くんは……強いのか?」
優志が尋ねると、美弦は沈黙した。言葉を語らなくとも、その反応で大体の察しはつく。ところが、わずかな沈黙を破った美弦の口からとんでもない真実が告げられた。
「真田くんは……純粋な戦闘能力なら私たち転移勇者たちの中で間違いなく最強です」
「! さ、最強!?」
「恐らく……アデムさんとゼイロさんは――勝てません」
美弦はそう断言した。
それは当然、対峙している本人たちも承知しているだろう。
だが、そうであってもふたりは立ちはだかる。
勇者真田の真意を知るために。
「サナダくん……君の狙いはなんだい? なぜ、ミヤハラ・ユージに剣を向けた?」
激しい口調だったアデムとは対照的に、ゼイロは静かな口調で語りかける。
「ゼイロ副団長……先ほどの話を聞いていなかったんですか?」
「私はどうにも腑に落ちないんだ。覚えているかい? 君はこの世界に召喚された直後に気を失い、医務室へと運ばれた。そこで目を覚まし、初めて顔を合わせたのが私だ」
「……覚えていますよ」
わずかだが、真田に変化が見られた。
戸惑い――例えるなら、そんな感情が言葉の端々からにじみ出ている気がする。言い換えるならば、動揺しているとも表現できる。
「真田くんはゼイロ副騎士団長と仲が良かったのか?」
「仲がいいというよりも信頼をしていたといった方がいいかもしれません。召喚されてからしばらく経ってからなんですが、真田くんは『ゼイロさんみたいな人がクラスの担任だったらよかったのに』と呟いていました」
「そんなことが……」
美弦の証言から、ふたつの事実が分かった。
ひとつは真田がゼイロに対して好印象を抱いていること。
そしてもうひとつは――真田にとって、元いた世界の学校生活に、担任絡みで不満があっということ。
そのふたつを結び付けて真田の心中を探ろうとした優志であったが、それについて真田自らが真実を打ち明けた。
「……僕は力を手に入れた。この力を、僕は元の世界へ持ち帰ろうと思う。持ち帰って、今まで僕をみくびってきたヤツらに見せつけてやる!」
「!? 力を持ち帰るだと!?」
アデムからの要求には応えなかったが、ゼイロ相手では勝手が違うのか、自分の考えを素直に吐露してみせた。
しかし、それはあまりにも予想外の答えである。
「みくびってきたヤツら……もしかして……」
真田のいた世界に住んでいた優志と美弦にはなんとなく理解できた。
恐らく、真田は向こうの世界で何者かから酷い仕打ちを受けてきたのだ。
あの強大な力を元の世界でも使えるようになれば、以前のパワーバランスは逆転する。真田の狙いはそれだった。
「力を持ち帰るなんて……できるわけがない!」
アデムの言葉に対して優志は無意識に頷いていた。
この世界から元の世界へは戻れない。
だから、召喚された勇者たちには事前にその旨を伝え、それでも転移し、勇者として戦ってくれる若者を募っていた。
それによって集められたのがあの七人なのだ。
「……サナダくん、いくら君が優れていようとも、決して元の世界へは戻れない。そんなことができる人間などこの世界に――」
「存在していますよ」
「「!?」」
真田の言葉を受けたアデムとゼイロは絶句。
そのリアクションに、優志は違和感を覚えた。
「そんなことあるはずがない!」という反応よりも「なぜ君がそのことを知っているんだ」というものに映ったからだ。
「まさか……」
真田が言っていることは事実なのか。
実は黙っていただけで、本当は帰る術があるというのか。
青ざめるアデムとゼイロを嘲笑うかのように、真田はさらに続ける。
「僕は気づいているんですよ? ――あなた方の秘密を」
「な、何のことだ?」
「とぼけても無駄ですよ、アデム団長」
クスクスと小さく笑いながら、真田はその秘密とやらを口にする。
「僕に真実を教えてくれたのは……あなたたちが召喚した八人目の勇者――いや、正確には一番目の勇者です」
1
お気に入りに追加
2,088
あなたにおすすめの小説
付与効果スキル職人の離島生活 ~超ブラックな職場環境から解放された俺は小さな島でドラゴン少女&もふもふ妖狐と一緒に工房を開く~
鈴木竜一
ファンタジー
傭兵を派遣する商会で十年以上武器づくりを担当するジャック。貴重な付与効果スキルを持つ彼は逃げ場のない環境で強制労働させられていたが、新しく商会の代表に就任した無能な二代目に難癖をつけられ、解雇を言い渡される。
だが、それは彼にとってまさに天使の囁きに等しかった。
実はジャックには前世の記憶がよみがえっており、自分の持つ付与効果スキルを存分に発揮してアイテムづくりに没頭しつつ、夢の異世界のんびり生活を叶えようとしていたからだ。
思わぬ形で念願叶い、自由の身となったジャックはひょんなことから小さな離島へと移住し、そこで工房を開くことに。ドラゴン少女やもふもふ妖狐や病弱令嬢やらと出会いつつ、夢だった平穏な物づくりライフを満喫していくのであった。
一方、ジャックの去った商会は経営が大きく傾き、その原因がジャックの持つ優秀な付与効果スキルにあると気づくのだった。
俺がいなくなったら商会の経営が傾いた?
……そう(無関心)
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……
踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです
(カクヨム、小説家になろうでも公開中です)
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる