114 / 168
第114話 騒ぎの原因
しおりを挟む
「はあ……一体なんだったんだ……」
大騒ぎが一段落ついた時にはすでに夜だった。
ダズたちが取り押さえつつ暴れまくっていた男は疲れ果てたのか、今はすっかり大人しくなっているが、食堂のイスに腰を下ろしてからまったく動かなくなってしまった。その様子を遠目から美弦と召喚獣アルベロスが監視している。
「悪かったな、ユージ」
ソファに背を預けて大きく息を吐いた優志のもとへ、大騒ぎの元凶である男を連れてきたダズが謝りながらやって来た。
「いや、気にしなくていいさ。でも、アドンがあそこまで取り乱すところは初めて見たよ」
実は、優志は大暴れしていた男をよく知っていた。
というのも、彼――アドンもまたダズたちと同じ冒険者であり、この店の常連客でもあったのだ。
「俺もだよ」
「原因はなんですか?」
優志はそこが気になっていた。
アドンは優秀な冒険者だ。
ダズほどキャリアがあるわけではないが、堅実な立ち回りをモットーとすることで常に結果を残し続けてきた。そのため、辛口評価で知られるフォーブの街の町長もアドンの実力を認めているほどである。
そんなアドンが、なぜあんな事態に陥ってしまったのか。
「どうぞ」
「お、すまないな」
リウィルからコーヒー牛乳を受け取ったダズへ、優志が質問する。
「ダンジョンで何があったんだ?」
「それがさっぱりなんだ……俺たちがいつも通りにダンジョンへ仕事に行くと、すでにあいつはそこにいたんだ」
「ふむふむ」
「で、何気なく『よお』と声をかけた途端、大声で泣き叫びながら手ぶらでモンスターに突撃していったんだ」
「へ?」
途中までは特におかしな点はなかったのに、突然わけわからん展開に迷い込んでいった。
「それにしても、武器をひとつも持たずにモンスターへ突っ込むなんて……自殺行為としか思えな――」
そこで、優志は言葉に詰まった。
『殺してくれぇ!』
脳裏にその言葉が甦ったからだ。
「自殺行為、か」
ダズも優志の言葉で思い出したようだった。
「最近、アドンに何か異変はあったか?」
「いや、そんな素振りは微塵もなかった。つい先日も、ダンジョン攻略のための情報交換をしたばかりだが……その時は普段と変わらぬ態度だったな」
「そうか……」
手がかりはなし。
こうなったら、意気消沈しているアドン本人から事情を聞き出さなければならない。このまま放っておいたら、また今回のような騒ぎを起こしてしまうかもしれない――優志はそれを危惧していたい。
その時、
「異変、か」
ふとそんなことを口走ったのはエミリーだった。
「なんだエミリー、何か知っているのか?」
ダズの問いかけに、エミリーは少しだけ間を置いてから再び口を開いた。
「関係性があるかどうかはわからないが、昨日の朝、私にこんなことをたずねてきたことがあった」
「たずねたこと?」
優志もエミリーとクレイグの間で起きたやりとりに興味を持った。
「ああ。なんでも、最近フォーブの街で見かけた女性に一目惚れをしたので声をかけたいのだが、第一声はどんなものがいいだろうかという内容だった」
「「一目惚れ?」」
優志とダズは同じタイミングで驚いた。
色恋沙汰とは無縁で、冒険こそが我が人生と言いきっていたあのアドンが、まさか一目惚れをしていたなんて。
「あんなに美しい女性をこれまで見たことがないとべた褒めしていたぞ」
「これで確定だな。あいつがあんなふうになった原因は、その一目惚れをした女にある」
「こっぴどく振られたってことかな」
可能性があるとすればそれが一番濃厚だ。
――と、優志の脳裏に一人の女の顔が浮かんだ。
グレイスだ。
優志も一目惚れとまではいかないが、「綺麗な女性だ」という好印象は抱いた。
もし、アドンも同じ――いや、むしろそれ以上にグレイスを思っていたのだとしたら。
「ダズ……もしかしたらって仮定の話しなんだけど」
「? なんだ?」
「俺はその一目惚れした女性を知っているかもしれない」
「! 本当か!」
「確証はないけど……俺も見たんだ、とんでもない美人を」
ただ、その女性はイングレール家とつながりのある人間かもしれない。とりあえず、余計なトラブルを避けるため、ガレッタがコールの魔鉱石で知らせてきたイングレール家の娘との結婚話については全面的に伏せておくことにした。
「優志が言うくらいだから相当な美人なんだろうな」
「? なんでそうなるんだ?」
「リウィルに美弦が常にそばにいるおまえなら、女性に対して相当目が肥えていると言えるからな」
たしかにリウィルと美弦は「美人」、「可愛い」という表現が合うだろう。ただ、だからと言ってダズの言ったように女性を見る目が鍛えられているかと言われると強く断言はしづらい優志だった。
そんなふうに食堂前で楽しく話していた一同の前に、
「本当なのか?」
突如、これまでに聞かない男の声がした。
その声の主こそ、
「! アドン?」
騒ぎの張本人であるアドンだった。
大騒ぎが一段落ついた時にはすでに夜だった。
ダズたちが取り押さえつつ暴れまくっていた男は疲れ果てたのか、今はすっかり大人しくなっているが、食堂のイスに腰を下ろしてからまったく動かなくなってしまった。その様子を遠目から美弦と召喚獣アルベロスが監視している。
「悪かったな、ユージ」
ソファに背を預けて大きく息を吐いた優志のもとへ、大騒ぎの元凶である男を連れてきたダズが謝りながらやって来た。
「いや、気にしなくていいさ。でも、アドンがあそこまで取り乱すところは初めて見たよ」
実は、優志は大暴れしていた男をよく知っていた。
というのも、彼――アドンもまたダズたちと同じ冒険者であり、この店の常連客でもあったのだ。
「俺もだよ」
「原因はなんですか?」
優志はそこが気になっていた。
アドンは優秀な冒険者だ。
ダズほどキャリアがあるわけではないが、堅実な立ち回りをモットーとすることで常に結果を残し続けてきた。そのため、辛口評価で知られるフォーブの街の町長もアドンの実力を認めているほどである。
そんなアドンが、なぜあんな事態に陥ってしまったのか。
「どうぞ」
「お、すまないな」
リウィルからコーヒー牛乳を受け取ったダズへ、優志が質問する。
「ダンジョンで何があったんだ?」
「それがさっぱりなんだ……俺たちがいつも通りにダンジョンへ仕事に行くと、すでにあいつはそこにいたんだ」
「ふむふむ」
「で、何気なく『よお』と声をかけた途端、大声で泣き叫びながら手ぶらでモンスターに突撃していったんだ」
「へ?」
途中までは特におかしな点はなかったのに、突然わけわからん展開に迷い込んでいった。
「それにしても、武器をひとつも持たずにモンスターへ突っ込むなんて……自殺行為としか思えな――」
そこで、優志は言葉に詰まった。
『殺してくれぇ!』
脳裏にその言葉が甦ったからだ。
「自殺行為、か」
ダズも優志の言葉で思い出したようだった。
「最近、アドンに何か異変はあったか?」
「いや、そんな素振りは微塵もなかった。つい先日も、ダンジョン攻略のための情報交換をしたばかりだが……その時は普段と変わらぬ態度だったな」
「そうか……」
手がかりはなし。
こうなったら、意気消沈しているアドン本人から事情を聞き出さなければならない。このまま放っておいたら、また今回のような騒ぎを起こしてしまうかもしれない――優志はそれを危惧していたい。
その時、
「異変、か」
ふとそんなことを口走ったのはエミリーだった。
「なんだエミリー、何か知っているのか?」
ダズの問いかけに、エミリーは少しだけ間を置いてから再び口を開いた。
「関係性があるかどうかはわからないが、昨日の朝、私にこんなことをたずねてきたことがあった」
「たずねたこと?」
優志もエミリーとクレイグの間で起きたやりとりに興味を持った。
「ああ。なんでも、最近フォーブの街で見かけた女性に一目惚れをしたので声をかけたいのだが、第一声はどんなものがいいだろうかという内容だった」
「「一目惚れ?」」
優志とダズは同じタイミングで驚いた。
色恋沙汰とは無縁で、冒険こそが我が人生と言いきっていたあのアドンが、まさか一目惚れをしていたなんて。
「あんなに美しい女性をこれまで見たことがないとべた褒めしていたぞ」
「これで確定だな。あいつがあんなふうになった原因は、その一目惚れをした女にある」
「こっぴどく振られたってことかな」
可能性があるとすればそれが一番濃厚だ。
――と、優志の脳裏に一人の女の顔が浮かんだ。
グレイスだ。
優志も一目惚れとまではいかないが、「綺麗な女性だ」という好印象は抱いた。
もし、アドンも同じ――いや、むしろそれ以上にグレイスを思っていたのだとしたら。
「ダズ……もしかしたらって仮定の話しなんだけど」
「? なんだ?」
「俺はその一目惚れした女性を知っているかもしれない」
「! 本当か!」
「確証はないけど……俺も見たんだ、とんでもない美人を」
ただ、その女性はイングレール家とつながりのある人間かもしれない。とりあえず、余計なトラブルを避けるため、ガレッタがコールの魔鉱石で知らせてきたイングレール家の娘との結婚話については全面的に伏せておくことにした。
「優志が言うくらいだから相当な美人なんだろうな」
「? なんでそうなるんだ?」
「リウィルに美弦が常にそばにいるおまえなら、女性に対して相当目が肥えていると言えるからな」
たしかにリウィルと美弦は「美人」、「可愛い」という表現が合うだろう。ただ、だからと言ってダズの言ったように女性を見る目が鍛えられているかと言われると強く断言はしづらい優志だった。
そんなふうに食堂前で楽しく話していた一同の前に、
「本当なのか?」
突如、これまでに聞かない男の声がした。
その声の主こそ、
「! アドン?」
騒ぎの張本人であるアドンだった。
1
お気に入りに追加
2,088
あなたにおすすめの小説
付与効果スキル職人の離島生活 ~超ブラックな職場環境から解放された俺は小さな島でドラゴン少女&もふもふ妖狐と一緒に工房を開く~
鈴木竜一
ファンタジー
傭兵を派遣する商会で十年以上武器づくりを担当するジャック。貴重な付与効果スキルを持つ彼は逃げ場のない環境で強制労働させられていたが、新しく商会の代表に就任した無能な二代目に難癖をつけられ、解雇を言い渡される。
だが、それは彼にとってまさに天使の囁きに等しかった。
実はジャックには前世の記憶がよみがえっており、自分の持つ付与効果スキルを存分に発揮してアイテムづくりに没頭しつつ、夢の異世界のんびり生活を叶えようとしていたからだ。
思わぬ形で念願叶い、自由の身となったジャックはひょんなことから小さな離島へと移住し、そこで工房を開くことに。ドラゴン少女やもふもふ妖狐や病弱令嬢やらと出会いつつ、夢だった平穏な物づくりライフを満喫していくのであった。
一方、ジャックの去った商会は経営が大きく傾き、その原因がジャックの持つ優秀な付与効果スキルにあると気づくのだった。
俺がいなくなったら商会の経営が傾いた?
……そう(無関心)
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる