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第94話  新たなる風呂

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 村人たちとの話し合いの末、まだ森は完全な姿へと回復しきってはいないが、優志の店のこともあって一旦戻ることとなった。

 その際、村の若者たち数人が、優志の購入した檜を運搬するため同行。
 再び険しい道のりを越えて、フォーブの街へと帰還した優志は、まず町長の家に寄って簡単な経過報告を行う。
 村長は村の復興がうまく進んだことに喜んでいたが、それよりも、

「ユージ……君自身の体調はどうなんだ?」

 と、優志の体を気遣った。
 優志自身は気づいていなかったが、この時、あまり顔色が優れず、疲れたような様子だったと町長は語った。

「きっと、長旅だったからですね」

 笑いながら優志は説明したが、やはりスキルの使い過ぎによる疲労が大きな要因だろうと思っていた。
以前、リウィルから聞いた話だと、スキルの使い過ぎで消滅するようなことはないとのことであったが、根拠のある話というわけではないのでそれに胡坐をかいて使いまくった挙句「やっぱり使えなくなりました」という間抜けなオチ避けるため、日頃から最低限の使用に控えておこうと心に誓った。

 優志のスキルが使えなくなった途端に、あの店は存在意義をなくしてしまう。
 それだけは絶対に起こしてはならないのだ。

 店に戻った優志を、

「「おかえりなさい!」」

 リウィルと美弦が元気よく出迎えてくれた。

「ただいま。留守中、何か変わったことはなかったか?」
「平常通りでしたよ。ね、リウィルさん」
「はい。これといったトラブルもなく、忙しいながらも楽しい毎日でした。……まあ、ユージさんがいなくて寂しかったといえばそうなんですが」
「? なんだって? 最後の方がよく聞こえなかったんだけど?」
「い、いえ、なんでもありませんから!」
「優志さんがいなくてとっても寂しかったそうですよ」
「! み、ミツルちゃん!?」

 美弦からの予期せぬタレコミに対し、最初は顔を真っ赤にして否定しまくるも、

「あ、べ、別に、ユージさんに会いたくなかったわけじゃないんですよ!?」

 と、しどろもどろになりながらフォローを入れ、さらにそこへ美弦が絡んでまた赤面――この賑やかなループを見ていると、今や美弦とリウィルは仲の良い可愛い姉妹という感じがしてなんとも微笑ましい。

「旦那、こっちの荷物はどうしますか?」

 ふたりのやりとりを見ながら和んでいる℃、村の若者から呼び出された。すっかり手土産の檜の存在を忘れていた。

「何か持ち帰って来たんですか?」

 優志が村の若者たちを引き連れて戻って来ていたことに気がついたリウィルがたずねる。

「ああ、ちょっと新しい試みをしようかなと思って」
「新しい試みって――この木でですか?」

 リウィルからすればなんの変哲もない木に映ったようだが、同じく様子を見に来た美弦はすぐにその木の正体に気づく。

「これもしかして……檜ですか?」
「そうだ。――まあ、厳密に言ったら違うんだろうけど、俺たちの世界で言う檜に一番近い木ってとこかな」
「じゃあ、次に造るのは檜風呂ってことですね!」
「その通り!」

 憧れの檜風呂設置にテンションの上がる優志は美弦と思わずハイタッチ。まだ若い美弦は檜風呂の良さを味わった経験こそないが、「檜風呂=豪華」という図式はなんとなく頭に入っているのでこちらもテンションが上がっていた。

「あのぅ……私も仲間に入れてくださいよぉ……」
 
 ふたりの高いテンションについていけないリウィルが切実な思いを吐露する。
 その泣き顔で自分が浮かれまくっていることに気がついた優志は「コホン」と軽く咳を挟んで説明を開始。

 
 ――およそ1時間後。


「なるほど……それが《ヒノキ》の魅力なんですね!」

 優志の熱のこもった講義を聞き届けたリウィルは目を輝かせていた。
 その横では先ほどまで優志と同様にテンションの高かった美弦がいたのだが、今は何やら怪訝な表情に変わっている。

「……あの、優志さん」
「皆まで言うな――美弦ちゃん」

 優志には美弦の考えが手に取るように分かった。
 檜風呂という言葉が脳裏を過った瞬間、優志にはある他の光景が浮かんでいたからだ。

「その顔は……優志さんも同じ考えなんですね?」
「きっとそうだろうな」
「じゃあ、ふたりで一緒に言いましょうか」
「そうしよう。――せーの!」


「「露天風呂!!!!」」


 ピタリと合わさる元サラリーマンと元女子高生の声。

「ですよね! 檜風呂といったら露天風呂ですよね!」
「屋内の檜風呂っていうのもいいが、やはり風情を求めて露天檜風呂で攻めていくつもりではいるよ」
「ライアンさんが描いてくれたあの雄大な山もありますしね!」
「うん。ここからの景観は悪くないと思うんだ」

 この店の立地は周囲に比べると高い位置にある。
 ちょうど店の真裏からはフォーブの街を見下ろせる格好となるのだ。

「時間を見つけてクリフに話を持っていくつもりでいる」
「うわぁ~……今から完成が楽しみです!」
「……ねぇ、ロテンブロってなんですか?」
 
 現代日本組と異世界組でテンションに凄まじい温度差が生じている中、店にひとりの客が入って来た。
 その客とは、

「何やら盛り上がっているね。また何か企んでいるのかい?」

 もはやこの店の常連客に名を連ねるベルギウスであった。
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