94 / 168
第94話 新たなる風呂
しおりを挟む
村人たちとの話し合いの末、まだ森は完全な姿へと回復しきってはいないが、優志の店のこともあって一旦戻ることとなった。
その際、村の若者たち数人が、優志の購入した檜を運搬するため同行。
再び険しい道のりを越えて、フォーブの街へと帰還した優志は、まず町長の家に寄って簡単な経過報告を行う。
村長は村の復興がうまく進んだことに喜んでいたが、それよりも、
「ユージ……君自身の体調はどうなんだ?」
と、優志の体を気遣った。
優志自身は気づいていなかったが、この時、あまり顔色が優れず、疲れたような様子だったと町長は語った。
「きっと、長旅だったからですね」
笑いながら優志は説明したが、やはりスキルの使い過ぎによる疲労が大きな要因だろうと思っていた。
以前、リウィルから聞いた話だと、スキルの使い過ぎで消滅するようなことはないとのことであったが、根拠のある話というわけではないのでそれに胡坐をかいて使いまくった挙句「やっぱり使えなくなりました」という間抜けなオチ避けるため、日頃から最低限の使用に控えておこうと心に誓った。
優志のスキルが使えなくなった途端に、あの店は存在意義をなくしてしまう。
それだけは絶対に起こしてはならないのだ。
店に戻った優志を、
「「おかえりなさい!」」
リウィルと美弦が元気よく出迎えてくれた。
「ただいま。留守中、何か変わったことはなかったか?」
「平常通りでしたよ。ね、リウィルさん」
「はい。これといったトラブルもなく、忙しいながらも楽しい毎日でした。……まあ、ユージさんがいなくて寂しかったといえばそうなんですが」
「? なんだって? 最後の方がよく聞こえなかったんだけど?」
「い、いえ、なんでもありませんから!」
「優志さんがいなくてとっても寂しかったそうですよ」
「! み、ミツルちゃん!?」
美弦からの予期せぬタレコミに対し、最初は顔を真っ赤にして否定しまくるも、
「あ、べ、別に、ユージさんに会いたくなかったわけじゃないんですよ!?」
と、しどろもどろになりながらフォローを入れ、さらにそこへ美弦が絡んでまた赤面――この賑やかなループを見ていると、今や美弦とリウィルは仲の良い可愛い姉妹という感じがしてなんとも微笑ましい。
「旦那、こっちの荷物はどうしますか?」
ふたりのやりとりを見ながら和んでいる℃、村の若者から呼び出された。すっかり手土産の檜の存在を忘れていた。
「何か持ち帰って来たんですか?」
優志が村の若者たちを引き連れて戻って来ていたことに気がついたリウィルがたずねる。
「ああ、ちょっと新しい試みをしようかなと思って」
「新しい試みって――この木でですか?」
リウィルからすればなんの変哲もない木に映ったようだが、同じく様子を見に来た美弦はすぐにその木の正体に気づく。
「これもしかして……檜ですか?」
「そうだ。――まあ、厳密に言ったら違うんだろうけど、俺たちの世界で言う檜に一番近い木ってとこかな」
「じゃあ、次に造るのは檜風呂ってことですね!」
「その通り!」
憧れの檜風呂設置にテンションの上がる優志は美弦と思わずハイタッチ。まだ若い美弦は檜風呂の良さを味わった経験こそないが、「檜風呂=豪華」という図式はなんとなく頭に入っているのでこちらもテンションが上がっていた。
「あのぅ……私も仲間に入れてくださいよぉ……」
ふたりの高いテンションについていけないリウィルが切実な思いを吐露する。
その泣き顔で自分が浮かれまくっていることに気がついた優志は「コホン」と軽く咳を挟んで説明を開始。
――およそ1時間後。
「なるほど……それが《ヒノキ》の魅力なんですね!」
優志の熱のこもった講義を聞き届けたリウィルは目を輝かせていた。
その横では先ほどまで優志と同様にテンションの高かった美弦がいたのだが、今は何やら怪訝な表情に変わっている。
「……あの、優志さん」
「皆まで言うな――美弦ちゃん」
優志には美弦の考えが手に取るように分かった。
檜風呂という言葉が脳裏を過った瞬間、優志にはある他の光景が浮かんでいたからだ。
「その顔は……優志さんも同じ考えなんですね?」
「きっとそうだろうな」
「じゃあ、ふたりで一緒に言いましょうか」
「そうしよう。――せーの!」
「「露天風呂!!!!」」
ピタリと合わさる元サラリーマンと元女子高生の声。
「ですよね! 檜風呂といったら露天風呂ですよね!」
「屋内の檜風呂っていうのもいいが、やはり風情を求めて露天檜風呂で攻めていくつもりではいるよ」
「ライアンさんが描いてくれたあの雄大な山もありますしね!」
「うん。ここからの景観は悪くないと思うんだ」
この店の立地は周囲に比べると高い位置にある。
ちょうど店の真裏からはフォーブの街を見下ろせる格好となるのだ。
「時間を見つけてクリフに話を持っていくつもりでいる」
「うわぁ~……今から完成が楽しみです!」
「……ねぇ、ロテンブロってなんですか?」
現代日本組と異世界組でテンションに凄まじい温度差が生じている中、店にひとりの客が入って来た。
その客とは、
「何やら盛り上がっているね。また何か企んでいるのかい?」
もはやこの店の常連客に名を連ねるベルギウスであった。
その際、村の若者たち数人が、優志の購入した檜を運搬するため同行。
再び険しい道のりを越えて、フォーブの街へと帰還した優志は、まず町長の家に寄って簡単な経過報告を行う。
村長は村の復興がうまく進んだことに喜んでいたが、それよりも、
「ユージ……君自身の体調はどうなんだ?」
と、優志の体を気遣った。
優志自身は気づいていなかったが、この時、あまり顔色が優れず、疲れたような様子だったと町長は語った。
「きっと、長旅だったからですね」
笑いながら優志は説明したが、やはりスキルの使い過ぎによる疲労が大きな要因だろうと思っていた。
以前、リウィルから聞いた話だと、スキルの使い過ぎで消滅するようなことはないとのことであったが、根拠のある話というわけではないのでそれに胡坐をかいて使いまくった挙句「やっぱり使えなくなりました」という間抜けなオチ避けるため、日頃から最低限の使用に控えておこうと心に誓った。
優志のスキルが使えなくなった途端に、あの店は存在意義をなくしてしまう。
それだけは絶対に起こしてはならないのだ。
店に戻った優志を、
「「おかえりなさい!」」
リウィルと美弦が元気よく出迎えてくれた。
「ただいま。留守中、何か変わったことはなかったか?」
「平常通りでしたよ。ね、リウィルさん」
「はい。これといったトラブルもなく、忙しいながらも楽しい毎日でした。……まあ、ユージさんがいなくて寂しかったといえばそうなんですが」
「? なんだって? 最後の方がよく聞こえなかったんだけど?」
「い、いえ、なんでもありませんから!」
「優志さんがいなくてとっても寂しかったそうですよ」
「! み、ミツルちゃん!?」
美弦からの予期せぬタレコミに対し、最初は顔を真っ赤にして否定しまくるも、
「あ、べ、別に、ユージさんに会いたくなかったわけじゃないんですよ!?」
と、しどろもどろになりながらフォローを入れ、さらにそこへ美弦が絡んでまた赤面――この賑やかなループを見ていると、今や美弦とリウィルは仲の良い可愛い姉妹という感じがしてなんとも微笑ましい。
「旦那、こっちの荷物はどうしますか?」
ふたりのやりとりを見ながら和んでいる℃、村の若者から呼び出された。すっかり手土産の檜の存在を忘れていた。
「何か持ち帰って来たんですか?」
優志が村の若者たちを引き連れて戻って来ていたことに気がついたリウィルがたずねる。
「ああ、ちょっと新しい試みをしようかなと思って」
「新しい試みって――この木でですか?」
リウィルからすればなんの変哲もない木に映ったようだが、同じく様子を見に来た美弦はすぐにその木の正体に気づく。
「これもしかして……檜ですか?」
「そうだ。――まあ、厳密に言ったら違うんだろうけど、俺たちの世界で言う檜に一番近い木ってとこかな」
「じゃあ、次に造るのは檜風呂ってことですね!」
「その通り!」
憧れの檜風呂設置にテンションの上がる優志は美弦と思わずハイタッチ。まだ若い美弦は檜風呂の良さを味わった経験こそないが、「檜風呂=豪華」という図式はなんとなく頭に入っているのでこちらもテンションが上がっていた。
「あのぅ……私も仲間に入れてくださいよぉ……」
ふたりの高いテンションについていけないリウィルが切実な思いを吐露する。
その泣き顔で自分が浮かれまくっていることに気がついた優志は「コホン」と軽く咳を挟んで説明を開始。
――およそ1時間後。
「なるほど……それが《ヒノキ》の魅力なんですね!」
優志の熱のこもった講義を聞き届けたリウィルは目を輝かせていた。
その横では先ほどまで優志と同様にテンションの高かった美弦がいたのだが、今は何やら怪訝な表情に変わっている。
「……あの、優志さん」
「皆まで言うな――美弦ちゃん」
優志には美弦の考えが手に取るように分かった。
檜風呂という言葉が脳裏を過った瞬間、優志にはある他の光景が浮かんでいたからだ。
「その顔は……優志さんも同じ考えなんですね?」
「きっとそうだろうな」
「じゃあ、ふたりで一緒に言いましょうか」
「そうしよう。――せーの!」
「「露天風呂!!!!」」
ピタリと合わさる元サラリーマンと元女子高生の声。
「ですよね! 檜風呂といったら露天風呂ですよね!」
「屋内の檜風呂っていうのもいいが、やはり風情を求めて露天檜風呂で攻めていくつもりではいるよ」
「ライアンさんが描いてくれたあの雄大な山もありますしね!」
「うん。ここからの景観は悪くないと思うんだ」
この店の立地は周囲に比べると高い位置にある。
ちょうど店の真裏からはフォーブの街を見下ろせる格好となるのだ。
「時間を見つけてクリフに話を持っていくつもりでいる」
「うわぁ~……今から完成が楽しみです!」
「……ねぇ、ロテンブロってなんですか?」
現代日本組と異世界組でテンションに凄まじい温度差が生じている中、店にひとりの客が入って来た。
その客とは、
「何やら盛り上がっているね。また何か企んでいるのかい?」
もはやこの店の常連客に名を連ねるベルギウスであった。
1
お気に入りに追加
2,092
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
付与効果スキル職人の離島生活 ~超ブラックな職場環境から解放された俺は小さな島でドラゴン少女&もふもふ妖狐と一緒に工房を開く~
鈴木竜一
ファンタジー
傭兵を派遣する商会で十年以上武器づくりを担当するジャック。貴重な付与効果スキルを持つ彼は逃げ場のない環境で強制労働させられていたが、新しく商会の代表に就任した無能な二代目に難癖をつけられ、解雇を言い渡される。
だが、それは彼にとってまさに天使の囁きに等しかった。
実はジャックには前世の記憶がよみがえっており、自分の持つ付与効果スキルを存分に発揮してアイテムづくりに没頭しつつ、夢の異世界のんびり生活を叶えようとしていたからだ。
思わぬ形で念願叶い、自由の身となったジャックはひょんなことから小さな離島へと移住し、そこで工房を開くことに。ドラゴン少女やもふもふ妖狐や病弱令嬢やらと出会いつつ、夢だった平穏な物づくりライフを満喫していくのであった。
一方、ジャックの去った商会は経営が大きく傾き、その原因がジャックの持つ優秀な付与効果スキルにあると気づくのだった。
俺がいなくなったら商会の経営が傾いた?
……そう(無関心)
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる