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第23話  温泉に入ろう!

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 丸一日をかけてなんとか形となった湯船。
 魔鉱石の効果ですでにきっちり固まっており、いつでも湯を張れる状態になっている。

「それじゃあ早速みなさんに入ってもらいましょう」
「おう!」

 本来は湯船の底にヒートの魔鉱石を仕掛けておく構造になっているが、まだ入手できていないので普通に火を起こしてそれを湯船の中へ入れる。
 これだけでもかなりの労力を要するので、可能な限り早くヒートの魔鉱石を手に入れなければと、お湯を用意して疲れ果てた優志は思うのだった。

 優志が苦労して用意した湯を張り、そこに手を入れる。
《癒しの極意》のスキルが発動したことにより、湯船の中のお湯は黄金色に輝き始めた。

「「「「「おおお!!!」」」」」

 歓声をあげる男たち。
 
 もしこれが成功したら、ただのお湯を効能付きの回復湯として大々的に宣伝ができる。それだけでなく、普通の水を回復水として売ることだって可能だ。
 商売のビジョンは無限に広がっていく。
 ――しかし、それを証明するためには目の前にいるマッチョマンたちの疲れを癒すことが重要だ。

「さあ、入ってみてくれ」

 優志がお湯へ浸かるよう願い出る。

 ちなみに、彼らの格好は全裸だ。

 リウィルと美弦のふたりには悪いが退場してもらった。今は宿屋の外で待機している。

「よし、俺から行こう」

 まず名乗りをあげたのはパーティーのリーダーであり、改装の現場を仕切ってくれたダズだった。

「あ、湯船に入る前に、まずは湯で軽く体を洗い流してくれ」
「体を? なぜだ?」
「俺のいた国ではそれがマナーなんだ。ここにはひとりで入るわけじゃなく、いろんな人が利用する公共の場だからね」
「なるほど。他者への配慮というわけか」
「そういうこと。ほら、こいつを使うといい」

 優志がダズへ渡したのは桶だった。
 もちろん、この世界に桶なんてものは存在しないため、街でそれっぽい形の入れ物を見つけてきて少し手を加えたものである。

「おお! これなら湯を掬いやすいな!」

 ダズは早速桶を使って体に湯をかける。
 そして、いよいよ湯船へと足を踏み入れた。

「そのままゆっくりと腰を落として肩まで湯に浸かるんだ」
「どれどれ……」

 優志の指示通りにダズは腰を落とし、肩までしっかりと湯に浸した。

「ん~? んおお!?」

 最初は湯に体を浸けるという未知の体験にわずかながら戸惑いの色をのぞかせていたダズであったが、体がその感覚と熱に慣れると徐々に顔が綻んでいった。
 手応えとしては上々と捉えてよさそうだ。

「どうだい、ダズ」
「こいつは……正直予想以上だぜぇ……」

 呆けた声色のダズに、パーティーの面々は顔を見合わせながらそれぞれが驚きのリアクションを取っていた。ダンジョンでモンスターと対峙する凛々しくも荒々しい冒険者のお手本のようなダズが、まるで無邪気な子どものように顔中を弛緩させているのだから無理もない話ではある。

「おまえらも入ってみろよ」
「で、では」

 ダズに誘われて次に入ったのは眼帯をつけたスキンヘッドの偉丈夫。彼もまたダズと同じ手順を辿って湯に浸かると、

「お、おぉ~……」

 気持ちの良さが伝わる息づかい。
 それに触発されて、残ったメンバーも次々に湯船へと入っていく。ダズの指示でここまで手伝って来た彼らであったが、その心の奥底では優志のスキルと癒し効果があるという風呂の存在に半信半疑だった。しかし、そんな疑念はとっくに瓦解し、今や我先にと勇んで湯船の中へと身を投じていく。

それと、これだけの大男が数人入っても、まだまだスペースには余裕がある。これならば相当な人数が入りそうだ。

「想像以上だな、こいつは」
「ああ。体の疲れが取れていくのがわかるよ」
「俺なんて膝の古傷の痛みまで飛んじまったぜ!」

 男たちは口々に優志のお手製温泉を絶賛した。

 そんな様子を見ながら、優志はスキルによる効能を分析していた。
 その結果、少なくとも筋肉痛、関節痛、切り傷、火傷――こういった辺りに絶大な効果をもたらすことが発覚する。それ以外にも、詳しい調査が必要だが、たとえば神経痛や打ち身などにも効果があるかもしれない。
 
「ユージ! こいつは間違いなく大ヒットするぜ!」
「お墨付きがもらえてよかったよ」
「しかし、裸でうろつくっていうのがなぁ……男はいいが、女は抵抗があるんじゃないか?」
「もちろん、風呂場は男女でわけるつもりさ」
「だよなぁ……てことは、他にも風呂を作らなくちゃいけないってわけか」
「そのつもりだよ」

 覗きなどの対策を考慮して、できれば男湯と離れた位置に作りたいと考えていた。この世界において、その辺の道徳的な判断がどこまでできるのか不透明だったためだ。もちろん、ダズたちのような善良な冒険者が多いのだろうが。

「おまえのスキルがあるとはいえ、湯に浸かるという行為がここまで気持ちのいいものだとは思わなかったな」
「俺たちの国の文化を気に入ってもらえてうれしいよ。しっかり休んでいてくれ。俺は外にいるリウィルたちに報告をしてくる」
「お~う」

 すっかり腑抜けた声で優志を送り出したダズ。
 そんな姿にも温泉の効果を感じつつ、外にいるふたりへ上々の結果を知らせた。

「やりましたね!」
「これでいつでもオープンできますね!」
 
 ふたりとも大いに喜んでくれたが、

「そんなにいいのなら……私も入ってみたいですね」
「あ、私も入ってみたいです!」

 ふたりからも入浴のリクエストがあった。

「じゃあ、ダズたちのあとで入ってみるか?」
「是非!」
「お願いします!」

 すっかり大人気となった優志温泉。


 初の温泉披露会は優志の想定以上に大好評を得る結果に終わったのであった。
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