12 / 24
第12話【幕間】星屑迷宮の冒険者たち
しおりを挟む
ハリスがストックウェル商会との商談を始めるより数週間前。
ノエイル王国南部。
そこには大陸一と噂される星屑迷宮と呼ばれるダンジョンが存在していた。
輝く星々を散らばらせた夜空のごとき広大さからそう名付けられたダンジョンには、各地から腕利きの冒険者たちが一攫千金を夢見て集まってくる。
そんな猛者揃いのパーティーが集う中、ひと際目立つのが獣人族のみで構成されている《鋼の牙》だ。
星屑迷宮の近くにあるテント群。
その一角に、《鋼の牙》の活動拠点となっているそこに、これまで多くのダンジョンで成果をあげてきたパーティーリーダーで虎の獣人族であるゾアンはいた。
魔力のない獣人族なので魔法こそ使えないが、人間よりも遥かに優れた身体能力と筋力を生かした格闘術で数多のモンスターを葬ってきたのだ。
そんな彼は治癒魔法使いで魔草薬師でもあるハリスに全幅の信頼を寄せており、仲間たちの怪我に効く魔草薬を完成させてくれと以前からお願いをしていた。
ハリスと彼の師匠であるグスタフはともに優れた治癒魔法使いであり、何より患者のことを第一に考えている姿勢をゾアンは気に入っている。
――だが、別れは突然やってきた。
ある日、ハリスが聖院を退職すると伝えに来たのだ。
話を聞く限りでは自主退職というわけではなく、因縁をつけられてのクビだった。
事実を知ったゾアンは激昂。
おまけに、ハリスの後でやってきた聖院の新しいトップことドレンツは、今後の治療についてこれまでとは比較にならないほどの法外な値段をふっかけてきたのだ。
あまりにも誠実さに欠ける対応に、ゾアンは怒りを通り越して呆れてしまう。
そんな中、ノエイル王国の辺境を治めるアントルース家から使いがやってきて、ハリスの今後について話がしたいと伝えてきたのだ。
《鋼の牙》へ直接依頼をしてくる貴族もいるため、リーダーのゾアンは何人かの貴族とは面識がある。しかし、アントルース家の関係者とは一度も会ったことがなかった。
本来ならスルーしているような案件だが、ハリスの名前を出されては放っておくわけにはいかない。
そう判断したゾアンは、旅の支度が整うまでの間、娘のジュリクにハリスの住んでいるデロス村へと向かわせることにしたのだ。
「――というわけだ。おまえは先行してハリスのもとを訪れ、あいつをいろいろとサポートしてやれ」
「分かりました」
ゾアンの娘のジュリクもまた父と同じ虎の獣人族で、褐色の肌に濃紺の瞳が印象的な少女であった。年齢は十四歳と若く、しかしそれでいて冒険者としての実績は十分。パーティーメンバーもこのままジュリクがリーダーを継いでくれたらと常々思っているほどだ。
しかし、人生の大半をダンジョンで過ごしてきたジュリクはまだまだ視野が狭い。
人間であり、おとなしいジュリクが気に入っている数少ない存在のハリスならば安心して彼女を任せられると思ったのだろう。
「ハリスは今いろいろと困っているはずだ。おまえの戦闘力がきっとあいつの助けになる」
「はい。それでは行ってまいります」
「おう」
感情の起伏が乏しく、ほとんど表情が変化しないジュリク。実の父親であるゾアンでさえ時折何を考えているか分からなくなるほどのポーカーフェイスだが、なぜかハリスは的確にジュリスの思考を読み取れるのだ。
「あいつが冒険者としてひと皮むけるきっかけになるかもしれん……そっち方面でも期待しているぜ、ハリス」
娘の出発を見送った後、ゾアンは「準備を急げ、野郎ども!」と仲間に指示を飛ばした。
ノエイル王立学園やストックウェル商会に続いて、新たな常連がアントルース家を目指して動きだす。
ノエイル王国南部。
そこには大陸一と噂される星屑迷宮と呼ばれるダンジョンが存在していた。
輝く星々を散らばらせた夜空のごとき広大さからそう名付けられたダンジョンには、各地から腕利きの冒険者たちが一攫千金を夢見て集まってくる。
そんな猛者揃いのパーティーが集う中、ひと際目立つのが獣人族のみで構成されている《鋼の牙》だ。
星屑迷宮の近くにあるテント群。
その一角に、《鋼の牙》の活動拠点となっているそこに、これまで多くのダンジョンで成果をあげてきたパーティーリーダーで虎の獣人族であるゾアンはいた。
魔力のない獣人族なので魔法こそ使えないが、人間よりも遥かに優れた身体能力と筋力を生かした格闘術で数多のモンスターを葬ってきたのだ。
そんな彼は治癒魔法使いで魔草薬師でもあるハリスに全幅の信頼を寄せており、仲間たちの怪我に効く魔草薬を完成させてくれと以前からお願いをしていた。
ハリスと彼の師匠であるグスタフはともに優れた治癒魔法使いであり、何より患者のことを第一に考えている姿勢をゾアンは気に入っている。
――だが、別れは突然やってきた。
ある日、ハリスが聖院を退職すると伝えに来たのだ。
話を聞く限りでは自主退職というわけではなく、因縁をつけられてのクビだった。
事実を知ったゾアンは激昂。
おまけに、ハリスの後でやってきた聖院の新しいトップことドレンツは、今後の治療についてこれまでとは比較にならないほどの法外な値段をふっかけてきたのだ。
あまりにも誠実さに欠ける対応に、ゾアンは怒りを通り越して呆れてしまう。
そんな中、ノエイル王国の辺境を治めるアントルース家から使いがやってきて、ハリスの今後について話がしたいと伝えてきたのだ。
《鋼の牙》へ直接依頼をしてくる貴族もいるため、リーダーのゾアンは何人かの貴族とは面識がある。しかし、アントルース家の関係者とは一度も会ったことがなかった。
本来ならスルーしているような案件だが、ハリスの名前を出されては放っておくわけにはいかない。
そう判断したゾアンは、旅の支度が整うまでの間、娘のジュリクにハリスの住んでいるデロス村へと向かわせることにしたのだ。
「――というわけだ。おまえは先行してハリスのもとを訪れ、あいつをいろいろとサポートしてやれ」
「分かりました」
ゾアンの娘のジュリクもまた父と同じ虎の獣人族で、褐色の肌に濃紺の瞳が印象的な少女であった。年齢は十四歳と若く、しかしそれでいて冒険者としての実績は十分。パーティーメンバーもこのままジュリクがリーダーを継いでくれたらと常々思っているほどだ。
しかし、人生の大半をダンジョンで過ごしてきたジュリクはまだまだ視野が狭い。
人間であり、おとなしいジュリクが気に入っている数少ない存在のハリスならば安心して彼女を任せられると思ったのだろう。
「ハリスは今いろいろと困っているはずだ。おまえの戦闘力がきっとあいつの助けになる」
「はい。それでは行ってまいります」
「おう」
感情の起伏が乏しく、ほとんど表情が変化しないジュリク。実の父親であるゾアンでさえ時折何を考えているか分からなくなるほどのポーカーフェイスだが、なぜかハリスは的確にジュリスの思考を読み取れるのだ。
「あいつが冒険者としてひと皮むけるきっかけになるかもしれん……そっち方面でも期待しているぜ、ハリス」
娘の出発を見送った後、ゾアンは「準備を急げ、野郎ども!」と仲間に指示を飛ばした。
ノエイル王立学園やストックウェル商会に続いて、新たな常連がアントルース家を目指して動きだす。
55
お気に入りに追加
111
あなたにおすすめの小説
騎士団の落とし物係
鈴木竜一
ファンタジー
エリート街道を進み続けていた騎士ブラント。彼は作戦中に功を焦るあまりモンスターからの攻撃で重傷を負い、剣を持つことができなくなってしまう。絶望するブラントへ追い打ちをかけるように、前線任務からは外され、落ちこぼれの集まりと言われている遺失物管理所――通称・落とし物係の所属となる。
これまでの厳しい職場環境とは違い、全体的にゆるゆるな遺失物管理所の実態を目の当たりにしたブラントは、なんとか前線任務に復帰すべく奮闘。しかし、ある分団の戦闘後の後始末としてアイテム回収の任務に就いた際、彼は戦いの場にそぐわない物を発見する。それは、のちに彼の人生を一変させることとなる《戦場の落とし物》であった。
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
付与効果スキル職人の離島生活 ~超ブラックな職場環境から解放された俺は小さな島でドラゴン少女&もふもふ妖狐と一緒に工房を開く~
鈴木竜一
ファンタジー
傭兵を派遣する商会で十年以上武器づくりを担当するジャック。貴重な付与効果スキルを持つ彼は逃げ場のない環境で強制労働させられていたが、新しく商会の代表に就任した無能な二代目に難癖をつけられ、解雇を言い渡される。
だが、それは彼にとってまさに天使の囁きに等しかった。
実はジャックには前世の記憶がよみがえっており、自分の持つ付与効果スキルを存分に発揮してアイテムづくりに没頭しつつ、夢の異世界のんびり生活を叶えようとしていたからだ。
思わぬ形で念願叶い、自由の身となったジャックはひょんなことから小さな離島へと移住し、そこで工房を開くことに。ドラゴン少女やもふもふ妖狐や病弱令嬢やらと出会いつつ、夢だった平穏な物づくりライフを満喫していくのであった。
一方、ジャックの去った商会は経営が大きく傾き、その原因がジャックの持つ優秀な付与効果スキルにあると気づくのだった。
俺がいなくなったら商会の経営が傾いた?
……そう(無関心)
お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26
魔剣学園寮の管理人は【育成スキル】持ち ~仲間たちからの裏切りにあって追いだされた俺は、再就職先で未来の英雄たちからめちゃくちゃ慕われる~
鈴木竜一
ファンタジー
大陸では知る者の少ない超一流冒険者パーティー【星鯨】――元は秀でた才能のない凡人たちの集いであったはずのパーティーがのし上がった背後には、育成スキルを使って仲間たちを強化し続けてきたルーシャスの存在があった。しかし、パーティーのリーダーであるブリングは新入りたちから慕われているルーシャスにいずれリーダーの座を奪われるのではないかと疑心暗鬼となり、彼を追放する。
フリーとなった後、戦闘力がないことが災いしてなかなか所属するパーティーが決まらなかったルーシャスであったが、ある出来事をきっかけに元仲間であり、現在は王立魔剣学園で剣術を教えているサラと再会を果たす。彼女から魔剣学園の学生寮管理人にならないかと誘われると、偶然助けた公爵家令嬢・ミアンからの推薦もあって就任が決定。もっふもふの猫型使い魔であるユーニオを新たな相棒とし、のんびりのどかな学園で第二の人生をスタートさせたのだった。
一方、ルーシャスを追いだしたブリング率いる【星鯨】には不穏な空気が漂いつつあった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません
魔境暮らしの転生予言者 ~開発に携わったゲーム世界に転生した俺、前世の知識で災いを先読みしていたら「奇跡の予言者」として英雄扱いをうける~
鈴木竜一
ファンタジー
「前世の知識で楽しく暮らそう! ……えっ? 俺が予言者? 千里眼?」
未来を見通す千里眼を持つエルカ・マクフェイルはその能力を生かして国の発展のため、長きにわたり尽力してきた。その成果は人々に認められ、エルカは「奇跡の予言者」として絶大な支持を得ることになる。だが、ある日突然、エルカは聖女カタリナから神託により追放すると告げられてしまう。それは王家をこえるほどの支持を得始めたエルカの存在を危険視する王国側の陰謀であった。
国から追いだされたエルカだったが、その心は浮かれていた。実は彼の持つ予言の力の正体は前世の記憶であった。この世界の元ネタになっているゲームの開発メンバーだった頃の記憶がよみがえったことで、これから起こる出来事=イベントが分かり、それによって生じる被害を最小限に抑える方法を伝えていたのである。
追放先である魔境には強大なモンスターも生息しているが、同時にとんでもないお宝アイテムが眠っている場所でもあった。それを知るエルカはアイテムを回収しつつ、知性のあるモンスターたちと友好関係を築いてのんびりとした生活を送ろうと思っていたのだが、なんと彼の追放を受け入れられない王国の有力者たちが続々と魔境へとやってきて――果たして、エルカは自身が望むようなのんびりスローライフを送れるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる