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第4話 挨拶回りを終えて
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アントルース家の屋敷を出て、過去に訪問診察を行った場所を巡って一ヵ月。
俺は約束通りデロス村へと戻ってきた。
ここも以前から訪問診察のために何度か訪れたことがある。
「変わらないなぁ、この村は」
遠くに見える風車を眺めながら呟く。
今は穀物の収穫時期らしく、いつもはのんびりしている村人たちがどことなく忙しないように映った。
俺はここから少し離れた位置にある森で新たな生活を始めようと考えている。
あの森にはだいぶ前に使われていた水車小屋があるらしく、かつてはそこで人も暮らしていたようだが、近年は空き家になっていると前の訪問診察の際に村長のラッセルさんから聞いていたので、それが残っていれば再利用したい。
というわけで、ラッセル村長の家を目指していたのだが、村人のひとりが俺の存在に気づいて声をかけてくる。
「せ、先生? ハリス先生ですよね? どうしてデロス村に?」
「ちょっと用事があってね。ここで暮らすための準備をしようとこれからラッセル村長の家に行くつもりなんだ」
「こ、ここで暮らす!?」
……しまった。
あまりにも迂闊だった。
一応、ベイリー様にはその旨を伝えてあるし、ラッセル村長にも話は通っているはず。
でも、まだ村民たちまでには届いていなかったようだ。
彼の叫び声を聞いた村人たちがだんだんと俺の来訪を知り、集まってきた。あまり騒ぎになると収拾がつかなくなる恐れが出てくる――が、それを防いだのは俺が捜しているラッセル村長であった。
「こらこら、あまり先生を困らせるんじゃないぞ」
獲物を狙う猛禽類のような鋭い目に輝くスキンヘッド。おまけにあの筋骨隆々とした鋼の肉体……一見すると村長には見えないのだが、彼は立派なこの村の長だ。
「待っていたぜ、ハリス。話はすでにベイリー様から聞いている」
「村の人たちにはまだ言っていなかったんですか?」
「おまえが挨拶をして回ったという場所にはたくさんの大物が暮らしているからな。そういった連中に破格の条件を積まれて向こうに居座るって可能性もなくはないと踏んで黙っておいたんだ。期待をさせておいて何もないっていうのが一番辛いからな」
なるほど。
ラッセル村長なりの優しさってわけか。
「だが、こうして戻ってきてくれて嬉しいよ」
「とどまってくれという誘いもいくつかありましたが、クビを宣告された時にすぐ思い浮かんだのがこの村の光景でしたので。ロザーラ様の容態が心配というのもありますし、魔草の研究という視点からもここが一番適していましたから」
あらゆる観点から総合的に判断した結果、俺は第二の居住地としてこのデロス村を選んだ。
ロザーラ様の件もあるけど、この村は若者が少なく、病を抱える高齢者が多い。そういった事情もあった。
「それで、住む家の話だが――」
「すでに決めています。森の中の水車小屋を利用しようかなと」
「水車? ああ、確かにあったな、そんなの。しかし、あれはもう何十年と使われていないボロ小屋だぞ?」
「俺ひとりが暮らすのなら、それくらいで十分ですよ。近くを流れる清流は魔草の栽培に必要ですし」
むしろそれが大事だったりするんだよな。
魔草は栽培するのに場所を選ばない。
必要なのは水と日光と少量の魔力のみ。
荒れた荒野でも成長が確認できた。おまけに多少の雨風や乾期でも乗り越えるタフさを持っている。これで抜群の治癒効果が見込めるというのだから研究しないわけにはいかない。
まあ、こうした万能性が広まってしまうと治癒魔法使いとしての地位が危ぶまれるから、ドレンツ院長はなんとしても研究から手を引かせようと躍起になっていたんだろうな。彼にまとわりつく甘いおこぼれ狙いの小悪党たちも結託し、グスタフ先生の遺志をなかったことにしようとしたのだ。
とはいえ、俺よりも先に辞めた三人の先輩たちが、魔草の研究自体も中止してしまったとは思えない。彼らは今も世界のどこかで魔草の研究を続けているはずだ。いつかどこかで再会できればいいのだが。
ちなみに、ラッセル村長からの呼びかけにより、今日の夜は俺の歓迎会を盛大に開いてくれるという。
こういうノリのいいところも、この村を選んだ理由のひとつだったりするんだよな。
俺は約束通りデロス村へと戻ってきた。
ここも以前から訪問診察のために何度か訪れたことがある。
「変わらないなぁ、この村は」
遠くに見える風車を眺めながら呟く。
今は穀物の収穫時期らしく、いつもはのんびりしている村人たちがどことなく忙しないように映った。
俺はここから少し離れた位置にある森で新たな生活を始めようと考えている。
あの森にはだいぶ前に使われていた水車小屋があるらしく、かつてはそこで人も暮らしていたようだが、近年は空き家になっていると前の訪問診察の際に村長のラッセルさんから聞いていたので、それが残っていれば再利用したい。
というわけで、ラッセル村長の家を目指していたのだが、村人のひとりが俺の存在に気づいて声をかけてくる。
「せ、先生? ハリス先生ですよね? どうしてデロス村に?」
「ちょっと用事があってね。ここで暮らすための準備をしようとこれからラッセル村長の家に行くつもりなんだ」
「こ、ここで暮らす!?」
……しまった。
あまりにも迂闊だった。
一応、ベイリー様にはその旨を伝えてあるし、ラッセル村長にも話は通っているはず。
でも、まだ村民たちまでには届いていなかったようだ。
彼の叫び声を聞いた村人たちがだんだんと俺の来訪を知り、集まってきた。あまり騒ぎになると収拾がつかなくなる恐れが出てくる――が、それを防いだのは俺が捜しているラッセル村長であった。
「こらこら、あまり先生を困らせるんじゃないぞ」
獲物を狙う猛禽類のような鋭い目に輝くスキンヘッド。おまけにあの筋骨隆々とした鋼の肉体……一見すると村長には見えないのだが、彼は立派なこの村の長だ。
「待っていたぜ、ハリス。話はすでにベイリー様から聞いている」
「村の人たちにはまだ言っていなかったんですか?」
「おまえが挨拶をして回ったという場所にはたくさんの大物が暮らしているからな。そういった連中に破格の条件を積まれて向こうに居座るって可能性もなくはないと踏んで黙っておいたんだ。期待をさせておいて何もないっていうのが一番辛いからな」
なるほど。
ラッセル村長なりの優しさってわけか。
「だが、こうして戻ってきてくれて嬉しいよ」
「とどまってくれという誘いもいくつかありましたが、クビを宣告された時にすぐ思い浮かんだのがこの村の光景でしたので。ロザーラ様の容態が心配というのもありますし、魔草の研究という視点からもここが一番適していましたから」
あらゆる観点から総合的に判断した結果、俺は第二の居住地としてこのデロス村を選んだ。
ロザーラ様の件もあるけど、この村は若者が少なく、病を抱える高齢者が多い。そういった事情もあった。
「それで、住む家の話だが――」
「すでに決めています。森の中の水車小屋を利用しようかなと」
「水車? ああ、確かにあったな、そんなの。しかし、あれはもう何十年と使われていないボロ小屋だぞ?」
「俺ひとりが暮らすのなら、それくらいで十分ですよ。近くを流れる清流は魔草の栽培に必要ですし」
むしろそれが大事だったりするんだよな。
魔草は栽培するのに場所を選ばない。
必要なのは水と日光と少量の魔力のみ。
荒れた荒野でも成長が確認できた。おまけに多少の雨風や乾期でも乗り越えるタフさを持っている。これで抜群の治癒効果が見込めるというのだから研究しないわけにはいかない。
まあ、こうした万能性が広まってしまうと治癒魔法使いとしての地位が危ぶまれるから、ドレンツ院長はなんとしても研究から手を引かせようと躍起になっていたんだろうな。彼にまとわりつく甘いおこぼれ狙いの小悪党たちも結託し、グスタフ先生の遺志をなかったことにしようとしたのだ。
とはいえ、俺よりも先に辞めた三人の先輩たちが、魔草の研究自体も中止してしまったとは思えない。彼らは今も世界のどこかで魔草の研究を続けているはずだ。いつかどこかで再会できればいいのだが。
ちなみに、ラッセル村長からの呼びかけにより、今日の夜は俺の歓迎会を盛大に開いてくれるという。
こういうノリのいいところも、この村を選んだ理由のひとつだったりするんだよな。
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