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第166話 (悪い意味で)思い出の場所
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「ここへ来るのも久しぶりだな」
目の前にあるのはバーネット商会本店。
正直、もう二度と来ることはないだろうと思っていた場所だが、まさかこういう形で再び訪れることになるなんてな。
その商会だが、入る前から慌ただしいという状況が分かるくらいドタバタしていた。
たぶん、今頃になってジェフ代表やバカ息子ラストンの悪事がバレて捕まったという一報が届いたのだろう。
これは俺たちへの対応をやっている暇がないかもしれないぞ。
「な、なんだか凄い騒ぎですね……」
「商会にとっては一大事だからな。後継者を探すどころのレベルじゃないし、ここを見限って出ていく準備を進めているんじゃないか」
まだハッキリとした話は身柄を拘束しているサーデル国内でも発表になっていない。
だから残された面々としてもこれからどう商会を運営していくのかが不透明で混乱状態なのだろう。
基盤はあるのでそのまま誰かが続けてもいいと思うが……前任者の悪評が完全に風化するまでは業界での立場も最底辺になるだろうな。
ただでさえ、ジェフ元代表はその強引なやり口で敵を増やしてきたタイプ。
恨みを持つ者は多いだろうから、これを機に嫌がらせが発生してもおかしくはない。
しかし、この混乱状態の中で話を聞いてもらうのはなかなか大変そうだ。
何気なく辺りを見回していると、
「うん? あれは……」
商会時代に親しくしていたある人物を発見し、駆け寄っていく。
「ダン工房長!」
「えっ? ――あっ! ウィルムじゃないか!」
工房から出てきて部下と思われる数人に指示を出していたのは、俺もかつて大変世話になったダン工房長だった。
彼は主に工芸職人《クラフトマン》たちのまとめ役をしていた。
自身も腕の良い工芸職人《クラフトマン》であり、何軒もお得意様を抱えていたな。
「ひょっとして、バーネット商会の騒動を聞いて来たのか?」
「えぇ。何やら大変そうでしたし……それに……今回の件は俺のせいでもありますから」
バーネット商会がおかしくなったのは、俺が商会を辞めてからだ。
とはいえ、自分から辞めたのではなくクビという扱いだったが。
ともかく、自分がもっとうまく立ち回れていたら商会がこうなることもなかったし、余計な苦労もかけることはなかったのだ。
そこが今回の反省点かな。
せめてもの罪滅ぼしとして、俺は村での生活を提案しようとしたのだが、
「俺たち職人は理想の町づくりをするため、ここの工房を基盤にして再出発をすることにしたんだ」
「そ、そうなんですか?」
どうやら、すでに次へ進む方向を定めているらしかった。
目の前にあるのはバーネット商会本店。
正直、もう二度と来ることはないだろうと思っていた場所だが、まさかこういう形で再び訪れることになるなんてな。
その商会だが、入る前から慌ただしいという状況が分かるくらいドタバタしていた。
たぶん、今頃になってジェフ代表やバカ息子ラストンの悪事がバレて捕まったという一報が届いたのだろう。
これは俺たちへの対応をやっている暇がないかもしれないぞ。
「な、なんだか凄い騒ぎですね……」
「商会にとっては一大事だからな。後継者を探すどころのレベルじゃないし、ここを見限って出ていく準備を進めているんじゃないか」
まだハッキリとした話は身柄を拘束しているサーデル国内でも発表になっていない。
だから残された面々としてもこれからどう商会を運営していくのかが不透明で混乱状態なのだろう。
基盤はあるのでそのまま誰かが続けてもいいと思うが……前任者の悪評が完全に風化するまでは業界での立場も最底辺になるだろうな。
ただでさえ、ジェフ元代表はその強引なやり口で敵を増やしてきたタイプ。
恨みを持つ者は多いだろうから、これを機に嫌がらせが発生してもおかしくはない。
しかし、この混乱状態の中で話を聞いてもらうのはなかなか大変そうだ。
何気なく辺りを見回していると、
「うん? あれは……」
商会時代に親しくしていたある人物を発見し、駆け寄っていく。
「ダン工房長!」
「えっ? ――あっ! ウィルムじゃないか!」
工房から出てきて部下と思われる数人に指示を出していたのは、俺もかつて大変世話になったダン工房長だった。
彼は主に工芸職人《クラフトマン》たちのまとめ役をしていた。
自身も腕の良い工芸職人《クラフトマン》であり、何軒もお得意様を抱えていたな。
「ひょっとして、バーネット商会の騒動を聞いて来たのか?」
「えぇ。何やら大変そうでしたし……それに……今回の件は俺のせいでもありますから」
バーネット商会がおかしくなったのは、俺が商会を辞めてからだ。
とはいえ、自分から辞めたのではなくクビという扱いだったが。
ともかく、自分がもっとうまく立ち回れていたら商会がこうなることもなかったし、余計な苦労もかけることはなかったのだ。
そこが今回の反省点かな。
せめてもの罪滅ぼしとして、俺は村での生活を提案しようとしたのだが、
「俺たち職人は理想の町づくりをするため、ここの工房を基盤にして再出発をすることにしたんだ」
「そ、そうなんですか?」
どうやら、すでに次へ進む方向を定めているらしかった。
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