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第161話 バーネット商会の最後

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 バーネット商会の事務所から飛びだしてきたジェフ代表。
 涙目になって興奮している息子ラストンを視界に捉えた後で周囲を見回す。数人の騎士たちと、自身の商会が用意した武器を持った男たち――それで大体の事態を察知したようだ。

 だが、ジェフ会長が視界に俺を捕らえた瞬間、形相が一変する。

「貴様ぁ……ウィルム!」

 胸倉を掴もうとするジェフ代表に対し、スクートや騎士たちが間に入った。

「ジェフ代表、騎士団の詰所にてお話を伺いたい」
「は、話ですと?」

 さすがに相手が騎士団の人間となると、たとえ若い相手でも敬語を使う。この辺は徹底しているんだよな、この人。
 いつもならここで得意の話術を駆使し、なんとか逃げ道を見出すのが彼のやり口ではあるのだが、今回はさすがにラストンの行いが最悪すぎて退路すら断たれている状態だった。

「お、親父ぃ……」

 すがるような目で父親であるジェフ代表を見つめるラストン。
 これまでも何か自分に不利なことがあると、代表が金で解決してくれた。おかげでラストンの思考は「金で収まらない問題はない」という歪んだものとなっており、今もそれは変わっておらず、この場で騎士たちに大金をばら撒けが見逃してくれるとでも思っているのだろう。

 だが、ジェフ代表はさすがにそこまでボンクラではない。
 あの慎重で勘の良い代表のことだ。
 サーデル騎士団が自分たち商会をよく思ってはおらず、密かに調査し始めているという実態を把握していただろう。
 さらに立場を悪くしているのは俺たちの存在だろう。
 きっと、なぜこの場にいるのか――その理由についてもなんとなく察しがついているんじゃないかな。スクートたちがこちらサイドについているという現実もまた、ジェフ代表のあきらめにひと役買っていた。

「……引き際を見誤ったというわけか」

 力なく、ジェフ代表は呟いた。
 あの表情……きっと、もう商会は長くないと悟っていたようだな。最後の最後まで抵抗しようと抗ったが、なぜ今の状況に陥ったのかという肝心な部分が改善されていないので狂った歯車は元に戻らなかったのだ。

「洗いざらい話そう。バーネット商会はもう終わりだ」

 潔くすべてを白状すると語るジェフ代表。
 肩の荷がおりたというべきか……どこかその顔つきは晴れ晴れとしてみえた。
 しかし、この状況でもあきらめきれない者がひとり……

「――ざっけんなぁ!」

 怒りに震えるラストンだった。



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