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第46話 トライオン家の未来
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恐らく、ドイル様も薄々感じてはいたのだろう。
人口減少が続くカーティス村――いや、それはアボット地方全体に波及する問題だ。
だから、ドイル様は先代当主から引き継いだ領地を自分の目で見定めるために、あちこち動きまくっていたんだな。なんとかしてこの領地を守ろうという領主としての素晴らしい心構えだと思う。
――だが、ここへ来て思わぬトラブルが彼を襲った。
持ち前の正義感が災いし、追われていた少女を助けようとして足を負傷。骨折とまではいかないが、しばらく安静にしていなくてはならない。
「本番はまだ先だが、すでに暗雲が立ち込めている状態だな……」
帰路を行く中、俺はどうしたものかと頭を悩ませる。
舞踏会までは残り一週間。
多少は痛みも引くだろうが、万全とまではいかないか。せめて一ヵ月あればなんとかなっただろうが……まあ、今さらそんなことを言っても遅い。可能な限りコンディションを整えて挑むしかないか。
屋敷へ報告に向かう前に、俺は駐在所へと立ち寄ろうとカーティス村へ。
すると、あっという間に村人たちに囲まれてしまった。
「ジャ、ジャスティンさん、領主様の怪我の具合はどうですか!?」
「舞踏会へは参加できますか?」
「何かお見舞いの品を送ろうと思うのですが」
どうやらすでにドイル様が負傷したという話が村中に広まっているようだ。この辺の情報伝達速度も田舎ならではというべきか――って、変なことに感心している場合じゃない。
「お、落ち着いてください」
洪水のような勢いで迫る村人たちを落ち着かせつつ、俺は自分が知り得る情報を話した。
とはいえ、それは他の村人が聞いた話とほぼ変わらないレベルであり、分かったことといえばドイル様が負傷したという事実だけだ。
「これから駐在所に寄ってから、お屋敷を訪ねますので」
「分かった。カーティス村の代表として、ドイル様に俺たちが心配していると伝えてくれ」
「もちろんです」
ガナン村長からそう託された俺は、とりあえず事情をエリナにも話しておくべきだろうと駐在所へ戻る。
「おかえりなさい、先輩」
「ああ。――でもまたすぐに出なくちゃいけなくなってな」
「もしかして、お屋敷ですか?」
「なんだ、エリナも噂を聞いていたのか」
「それもあるんですけど……ちょっと気になることがありまして――」
「そこから先は私がお話しましょう」
「うおっ!?」
突然、エリナ以外の声がして俺は思わず飛び退いた。
「い、今の声は……」
「驚かせてしまい、申し訳ありません」
さらに続けて声――その出所が駐在所の窓からだと気づいて振り返ると、そこには緑色の羽を広げる一羽の鳥がいた。
手乗りサイズのそいつはペコッと頭を下げて、
「申し遅れました。私は昨日付で新しくベローズ副騎士団長の使い魔となりました、ピータという者です」
そう名乗った。
人口減少が続くカーティス村――いや、それはアボット地方全体に波及する問題だ。
だから、ドイル様は先代当主から引き継いだ領地を自分の目で見定めるために、あちこち動きまくっていたんだな。なんとかしてこの領地を守ろうという領主としての素晴らしい心構えだと思う。
――だが、ここへ来て思わぬトラブルが彼を襲った。
持ち前の正義感が災いし、追われていた少女を助けようとして足を負傷。骨折とまではいかないが、しばらく安静にしていなくてはならない。
「本番はまだ先だが、すでに暗雲が立ち込めている状態だな……」
帰路を行く中、俺はどうしたものかと頭を悩ませる。
舞踏会までは残り一週間。
多少は痛みも引くだろうが、万全とまではいかないか。せめて一ヵ月あればなんとかなっただろうが……まあ、今さらそんなことを言っても遅い。可能な限りコンディションを整えて挑むしかないか。
屋敷へ報告に向かう前に、俺は駐在所へと立ち寄ろうとカーティス村へ。
すると、あっという間に村人たちに囲まれてしまった。
「ジャ、ジャスティンさん、領主様の怪我の具合はどうですか!?」
「舞踏会へは参加できますか?」
「何かお見舞いの品を送ろうと思うのですが」
どうやらすでにドイル様が負傷したという話が村中に広まっているようだ。この辺の情報伝達速度も田舎ならではというべきか――って、変なことに感心している場合じゃない。
「お、落ち着いてください」
洪水のような勢いで迫る村人たちを落ち着かせつつ、俺は自分が知り得る情報を話した。
とはいえ、それは他の村人が聞いた話とほぼ変わらないレベルであり、分かったことといえばドイル様が負傷したという事実だけだ。
「これから駐在所に寄ってから、お屋敷を訪ねますので」
「分かった。カーティス村の代表として、ドイル様に俺たちが心配していると伝えてくれ」
「もちろんです」
ガナン村長からそう託された俺は、とりあえず事情をエリナにも話しておくべきだろうと駐在所へ戻る。
「おかえりなさい、先輩」
「ああ。――でもまたすぐに出なくちゃいけなくなってな」
「もしかして、お屋敷ですか?」
「なんだ、エリナも噂を聞いていたのか」
「それもあるんですけど……ちょっと気になることがありまして――」
「そこから先は私がお話しましょう」
「うおっ!?」
突然、エリナ以外の声がして俺は思わず飛び退いた。
「い、今の声は……」
「驚かせてしまい、申し訳ありません」
さらに続けて声――その出所が駐在所の窓からだと気づいて振り返ると、そこには緑色の羽を広げる一羽の鳥がいた。
手乗りサイズのそいつはペコッと頭を下げて、
「申し遅れました。私は昨日付で新しくベローズ副騎士団長の使い魔となりました、ピータという者です」
そう名乗った。
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