上 下
46 / 115

第46話 トライオン家の未来

しおりを挟む
 恐らく、ドイル様も薄々感じてはいたのだろう。
 人口減少が続くカーティス村――いや、それはアボット地方全体に波及する問題だ。

 だから、ドイル様は先代当主から引き継いだ領地を自分の目で見定めるために、あちこち動きまくっていたんだな。なんとかしてこの領地を守ろうという領主としての素晴らしい心構えだと思う。

 ――だが、ここへ来て思わぬトラブルが彼を襲った。
 持ち前の正義感が災いし、追われていた少女を助けようとして足を負傷。骨折とまではいかないが、しばらく安静にしていなくてはならない。

「本番はまだ先だが、すでに暗雲が立ち込めている状態だな……」

 帰路を行く中、俺はどうしたものかと頭を悩ませる。
 舞踏会までは残り一週間。
 多少は痛みも引くだろうが、万全とまではいかないか。せめて一ヵ月あればなんとかなっただろうが……まあ、今さらそんなことを言っても遅い。可能な限りコンディションを整えて挑むしかないか。


 屋敷へ報告に向かう前に、俺は駐在所へと立ち寄ろうとカーティス村へ。
 すると、あっという間に村人たちに囲まれてしまった。

「ジャ、ジャスティンさん、領主様の怪我の具合はどうですか!?」
「舞踏会へは参加できますか?」
「何かお見舞いの品を送ろうと思うのですが」

 どうやらすでにドイル様が負傷したという話が村中に広まっているようだ。この辺の情報伝達速度も田舎ならではというべきか――って、変なことに感心している場合じゃない。

「お、落ち着いてください」

 洪水のような勢いで迫る村人たちを落ち着かせつつ、俺は自分が知り得る情報を話した。
 とはいえ、それは他の村人が聞いた話とほぼ変わらないレベルであり、分かったことといえばドイル様が負傷したという事実だけだ。

「これから駐在所に寄ってから、お屋敷を訪ねますので」
「分かった。カーティス村の代表として、ドイル様に俺たちが心配していると伝えてくれ」
「もちろんです」

 ガナン村長からそう託された俺は、とりあえず事情をエリナにも話しておくべきだろうと駐在所へ戻る。

「おかえりなさい、先輩」
「ああ。――でもまたすぐに出なくちゃいけなくなってな」
「もしかして、お屋敷ですか?」
「なんだ、エリナも噂を聞いていたのか」
「それもあるんですけど……ちょっと気になることがありまして――」
「そこから先は私がお話しましょう」
「うおっ!?」

 突然、エリナ以外の声がして俺は思わず飛び退いた。

「い、今の声は……」
「驚かせてしまい、申し訳ありません」

 さらに続けて声――その出所が駐在所の窓からだと気づいて振り返ると、そこには緑色の羽を広げる一羽の鳥がいた。
 手乗りサイズのそいつはペコッと頭を下げて、

「申し遅れました。私は昨日付で新しくベローズ副騎士団長の使い魔となりました、ピータという者です」

 そう名乗った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜

長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。 コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。 ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。 実際の所、そこは異世界だった。 勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。 奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。 特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。 実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。 主人公 高校2年     高遠 奏    呼び名 カナデっち。奏。 クラスメイトのギャル   水木 紗耶香  呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。  主人公の幼馴染      片桐 浩太   呼び名 コウタ コータ君 (なろうでも別名義で公開) タイトル微妙に変更しました。

STORY BOXⅡ

ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
主に既存のオリキャラを主人公にしてお題にチャレンジします。 こちらは、続けずに短編です。 本編をご存知ないと、よくわからないお話もたまにはあるかもです… ※こちらのお題からのリクエスト募集中です。

異世界を【創造】【召喚】【付与】で無双します。

FREE
ファンタジー
ブラック企業へ就職して5年…今日も疲れ果て眠りにつく。 目が醒めるとそこは見慣れた部屋ではなかった。 ふと頭に直接聞こえる声。それに俺は火事で死んだことを伝えられ、異世界に転生できると言われる。 異世界、それは剣と魔法が存在するファンタジーな世界。 これは主人公、タイムが神様から選んだスキルで異世界を自由に生きる物語。 *リメイク作品です。

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

都合のいい女は卒業です。

火野村志紀
恋愛
伯爵令嬢サラサは、王太子ライオットと婚約していた。 しかしライオットが神官の娘であるオフィーリアと恋に落ちたことで、事態は急転する。 治癒魔法の使い手で聖女と呼ばれるオフィーリアと、魔力を一切持たない『非保持者』のサラサ。 どちらが王家に必要とされているかは明白だった。 「すまない。オフィーリアに正妃の座を譲ってくれないだろうか」 だから、そう言われてもサラサは大人しく引き下がることにした。 しかし「君は側妃にでもなればいい」と言われた瞬間、何かがプツンと切れる音がした。 この男には今まで散々苦労をかけられてきたし、屈辱も味わってきた。 それでも必死に尽くしてきたのに、どうしてこんな仕打ちを受けなければならないのか。 だからサラサは満面の笑みを浮かべながら、はっきりと告げた。 「ご遠慮しますわ、ライオット殿下」

生まれ変わり大魔法使いの自由気まま生活?いえ、生きる為には、働かなくてはいけません。

光子
ファンタジー
 昔むかしーーそう遠くない50年程前まで、この世界は魔王に襲われ、人類は滅亡の一手を辿っていた。  だが、そんな世界を救ったのが、大魔法使い《サクラ》だった。 彼女は、命をかけて魔王を封印し、世界を救った。  ーーーそれから50年後。 「……あ、思い出した」  すっかり平和になった世界。  その世界で、貧乏家庭で育った5人兄弟姉妹の真ん中《ヒナキ》は、財政難な家族を救う為、貴族様達金持ちが多く通う超一流学校に、就職に有利な魔法使いになる為に入学を決意!  女子生徒達の過度な嫌がらせや、王子様の意地悪で生意気な態度をスルーしつつ懸命に魔法の勉学に励んでいたら、ある日突然、前世の記憶が蘇った。  そう。私の前世は、大魔法使いサクラ。  もし生まれ変わったらなら、私が取り戻した平和を堪能するために、自由気ままな生活をしよう!そう決めていたのに、現実は、生きる為には、お金が必要。そう、働かなきゃならない!  それならせめて、学校生活を楽しみつつ、卒業したらホワイトな就職先を見付けようと決意を新たに、いつか自由気ままな生活を送れるようになるために、頑張る!  不定期更新していきます。  よろしくお願いします。

処理中です...