上 下
37 / 115

第37話 悪くない田舎生活

しおりを挟む
 ミラッカには客室として用意していた部屋で夜を過ごしてもらうことになった。

「ひとりで寝るのは味気ないわね……エリナ、今日は久しぶりにふたりで寝ましょうか」
「一度も一緒に寝たことないんですけど!?」
「えっ……昔はあんなにも情熱的に私の体を求めてきたのに……?」
「やめてください! 先輩に誤解されるじゃないですか!」

 少し暗い雰囲気となりかけていたが、それを察したミラッカが絶妙なボケ(?)で一気に明るさを取り戻す。
 ……もしかしたら単にエリナをいじりたいだけなのかもしれないが。
 ともかく、明るい空気で一日を終えることができた。


  ◇◇◇


 翌日。
 俺とエリナはいつものように村人の農作業を手伝うため、まだ外が薄暗いうちに起きて準備を整える。
 それを知らないミラッカは物音に気がついて部屋から出てきた。

「すまない、起こしてしまったか」
「早起きは慣れているけど、こんな早朝にどうしたの? 見回りをするような時間でもないと思うけど」
「これから畑のお手伝いに行くんです」
「は、畑?」

 エリナの言葉の意図が読めずに聞き返すミラッカ。
 騎士としては普通の疑問か。

「ミラッカはゆっくり支度をしてくれていいよ」
「いいえ、私も行くわ。準備をするから先に行っていて」
「あ、あぁ」
 
 驚いた。
 あのミラッカが進んで農作業をやると言いだすなんて。
 とりあえず、俺とエリナはいつも通りに駐在所を出て畑へと向かう。
 ちなみに、うちの畑――と言っても、村の人たちが所有する農地に比べたら家庭菜園程度のものだが、こちらもあとからしっかり作業していくつもりだ。

 少しずつだが着実に成長しており、あと数週間も経てばトマトやピーマンができるはず。それから、鶏から卵も回収しておかないとな。


 俺たちが農作業を始めてから三十分ほど経つと、準備を終えたミラッカが畑へと足早にやってくる。

「さあ、何でも任せて頂戴!」

 ヤル気満々なのはいいのだが、経験上、収穫作業はかなりの体力消費が懸念されるため、彼女には収穫し終えた野菜の運搬を頼もうと思っている。これから王都へ向けて長距離移動をしなくてはいけないしな。

 ちなみに、俺は収穫作業で汗を流す。
 ここへ来て一ヶ月以上になると、最初の頃とは見違えるようにうまくなったと自分自身でもそう感じる。俺たち騎士が普段使っていない筋肉を酷使するため、慣れるまではなかなか大変なのだ。

 手際よく収穫していき、それをエリナが箱詰めしていく。ミラッカにはその箱を指定した場所へ運ぶ仕事を依頼しておいた。
 単調な作業の上に体力を大きく消耗するが、ミラッカは文句ひとつ言わずに黙々と作業をこなしていく。気がつけば、彼女の額からは大粒の汗が滴っていた。

「どうだ、ミラッカ。初めての農作業は」
「想像以上に重労働ね……彼らは毎日これを?」
「まあな。収穫は朝に行うけど、他にもいろんな作業があるから一日がかりだ」
「それは凄いわね。これから野菜を食べる際は今日という日を思い出すでしょうね」
「ははは、俺もまったく同じことを思ったよ」

 当たり前のように食べている野菜だが、農家の人たちがこうやって大変な作業をしてくれているから食卓に並ぶのだ。以前の俺は、そんなこと考えもしなかったな。

 日が昇り、辺りが明るくなってくる頃に作業は終了。
 
「お疲れ様、ミラッカ」
「そちらこそ。これを毎日やっているなんて……新しい鍛錬になりそうね」
「俺やエリナのやっているのはほんの一部だよ。この村の人たちは昼休憩を挟みつつもより体力を使う作業を暗くなるまでやっているからね」
「基礎体力は凄そうね。ここにベローズ副騎士団長がいたら片っ端からスカウトをしていきそうね」

 そういえば、ベローズ副騎士団長は若手育成に力を入れていたな。
 師匠の道場にも足繁く通っており、腕の立つ若者をチェック。俺もそんな視察の中で見いだされて騎士団に入ったのだ。

 そんな話をしているうちに、村人たちがミラッカのもとへと集まってくる。

「今日はどうもありがとう」
「そんな、私なんてほとんど戦力になっていませんでしたよ」
「いやいや、手伝おうとしてくださる気持ちが嬉しいんじゃ」

 ご老人の言葉に、集まった村人たちは「そうだそうだ」と頷いていた。


 農作業が終わると、俺たちは駐在所へと戻ってくる。
 
「王都へ戻るんだよな?」
「えぇ。けど、その前にゲイリーと合流する手筈になっていると」
「ゲイリーか……あいつも元気でやっているのか?」
「いつも通りよ。逆にもうちょっと元気をなくして落ち着いてもらいたいくらいね」
「ははは、違いない」

 世間話をした後で、荷物を手にしたミラッカを見送る。

「いろいろとありがとう。とても楽しかったわ」
「お礼を言うのはこっちの方だよ」

 再会を願って握手を交わすと、今度はエリナの番だ。

「道中お気をつけて」
「大丈夫よ。モンスターが十体くらい襲ってきても軽く蹴散らしてやるわ」
「っ!? き、聞こえてたんですか!?」

 なんだかこのふたり……王都にいた頃より仲良くなっていないか?
 まあ、もともと接点はあまりなかったのだろうが、ここへ来て一気に距離が縮まったように見えるな。まあ、先輩後輩の仲が良いのは喜ばしいことだよ。

「じゃあ、そろそろ行くわ」

 ミラッカは俺たちに手を振って、カーティス村をあとにする。
 できれば、次もまた笑顔で再会したいものだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

魔剣学園寮の管理人は【育成スキル】持ち ~仲間たちからの裏切りにあって追いだされた俺は、再就職先で未来の英雄たちからめちゃくちゃ慕われる~

鈴木竜一
ファンタジー
 大陸では知る者の少ない超一流冒険者パーティー【星鯨】――元は秀でた才能のない凡人たちの集いであったはずのパーティーがのし上がった背後には、育成スキルを使って仲間たちを強化し続けてきたルーシャスの存在があった。しかし、パーティーのリーダーであるブリングは新入りたちから慕われているルーシャスにいずれリーダーの座を奪われるのではないかと疑心暗鬼となり、彼を追放する。  フリーとなった後、戦闘力がないことが災いしてなかなか所属するパーティーが決まらなかったルーシャスであったが、ある出来事をきっかけに元仲間であり、現在は王立魔剣学園で剣術を教えているサラと再会を果たす。彼女から魔剣学園の学生寮管理人にならないかと誘われると、偶然助けた公爵家令嬢・ミアンからの推薦もあって就任が決定。もっふもふの猫型使い魔であるユーニオを新たな相棒とし、のんびりのどかな学園で第二の人生をスタートさせたのだった。  一方、ルーシャスを追いだしたブリング率いる【星鯨】には不穏な空気が漂いつつあった。

『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行
ファンタジー
 ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...