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第37話 悪くない田舎生活
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ミラッカには客室として用意していた部屋で夜を過ごしてもらうことになった。
「ひとりで寝るのは味気ないわね……エリナ、今日は久しぶりにふたりで寝ましょうか」
「一度も一緒に寝たことないんですけど!?」
「えっ……昔はあんなにも情熱的に私の体を求めてきたのに……?」
「やめてください! 先輩に誤解されるじゃないですか!」
少し暗い雰囲気となりかけていたが、それを察したミラッカが絶妙なボケ(?)で一気に明るさを取り戻す。
……もしかしたら単にエリナをいじりたいだけなのかもしれないが。
ともかく、明るい空気で一日を終えることができた。
◇◇◇
翌日。
俺とエリナはいつものように村人の農作業を手伝うため、まだ外が薄暗いうちに起きて準備を整える。
それを知らないミラッカは物音に気がついて部屋から出てきた。
「すまない、起こしてしまったか」
「早起きは慣れているけど、こんな早朝にどうしたの? 見回りをするような時間でもないと思うけど」
「これから畑のお手伝いに行くんです」
「は、畑?」
エリナの言葉の意図が読めずに聞き返すミラッカ。
騎士としては普通の疑問か。
「ミラッカはゆっくり支度をしてくれていいよ」
「いいえ、私も行くわ。準備をするから先に行っていて」
「あ、あぁ」
驚いた。
あのミラッカが進んで農作業をやると言いだすなんて。
とりあえず、俺とエリナはいつも通りに駐在所を出て畑へと向かう。
ちなみに、うちの畑――と言っても、村の人たちが所有する農地に比べたら家庭菜園程度のものだが、こちらもあとからしっかり作業していくつもりだ。
少しずつだが着実に成長しており、あと数週間も経てばトマトやピーマンができるはず。それから、鶏から卵も回収しておかないとな。
俺たちが農作業を始めてから三十分ほど経つと、準備を終えたミラッカが畑へと足早にやってくる。
「さあ、何でも任せて頂戴!」
ヤル気満々なのはいいのだが、経験上、収穫作業はかなりの体力消費が懸念されるため、彼女には収穫し終えた野菜の運搬を頼もうと思っている。これから王都へ向けて長距離移動をしなくてはいけないしな。
ちなみに、俺は収穫作業で汗を流す。
ここへ来て一ヶ月以上になると、最初の頃とは見違えるようにうまくなったと自分自身でもそう感じる。俺たち騎士が普段使っていない筋肉を酷使するため、慣れるまではなかなか大変なのだ。
手際よく収穫していき、それをエリナが箱詰めしていく。ミラッカにはその箱を指定した場所へ運ぶ仕事を依頼しておいた。
単調な作業の上に体力を大きく消耗するが、ミラッカは文句ひとつ言わずに黙々と作業をこなしていく。気がつけば、彼女の額からは大粒の汗が滴っていた。
「どうだ、ミラッカ。初めての農作業は」
「想像以上に重労働ね……彼らは毎日これを?」
「まあな。収穫は朝に行うけど、他にもいろんな作業があるから一日がかりだ」
「それは凄いわね。これから野菜を食べる際は今日という日を思い出すでしょうね」
「ははは、俺もまったく同じことを思ったよ」
当たり前のように食べている野菜だが、農家の人たちがこうやって大変な作業をしてくれているから食卓に並ぶのだ。以前の俺は、そんなこと考えもしなかったな。
日が昇り、辺りが明るくなってくる頃に作業は終了。
「お疲れ様、ミラッカ」
「そちらこそ。これを毎日やっているなんて……新しい鍛錬になりそうね」
「俺やエリナのやっているのはほんの一部だよ。この村の人たちは昼休憩を挟みつつもより体力を使う作業を暗くなるまでやっているからね」
「基礎体力は凄そうね。ここにベローズ副騎士団長がいたら片っ端からスカウトをしていきそうね」
そういえば、ベローズ副騎士団長は若手育成に力を入れていたな。
師匠の道場にも足繁く通っており、腕の立つ若者をチェック。俺もそんな視察の中で見いだされて騎士団に入ったのだ。
そんな話をしているうちに、村人たちがミラッカのもとへと集まってくる。
「今日はどうもありがとう」
「そんな、私なんてほとんど戦力になっていませんでしたよ」
「いやいや、手伝おうとしてくださる気持ちが嬉しいんじゃ」
ご老人の言葉に、集まった村人たちは「そうだそうだ」と頷いていた。
農作業が終わると、俺たちは駐在所へと戻ってくる。
「王都へ戻るんだよな?」
「えぇ。けど、その前にゲイリーと合流する手筈になっていると」
「ゲイリーか……あいつも元気でやっているのか?」
「いつも通りよ。逆にもうちょっと元気をなくして落ち着いてもらいたいくらいね」
「ははは、違いない」
世間話をした後で、荷物を手にしたミラッカを見送る。
「いろいろとありがとう。とても楽しかったわ」
「お礼を言うのはこっちの方だよ」
再会を願って握手を交わすと、今度はエリナの番だ。
「道中お気をつけて」
「大丈夫よ。モンスターが十体くらい襲ってきても軽く蹴散らしてやるわ」
「っ!? き、聞こえてたんですか!?」
なんだかこのふたり……王都にいた頃より仲良くなっていないか?
まあ、もともと接点はあまりなかったのだろうが、ここへ来て一気に距離が縮まったように見えるな。まあ、先輩後輩の仲が良いのは喜ばしいことだよ。
「じゃあ、そろそろ行くわ」
ミラッカは俺たちに手を振って、カーティス村をあとにする。
できれば、次もまた笑顔で再会したいものだ。
「ひとりで寝るのは味気ないわね……エリナ、今日は久しぶりにふたりで寝ましょうか」
「一度も一緒に寝たことないんですけど!?」
「えっ……昔はあんなにも情熱的に私の体を求めてきたのに……?」
「やめてください! 先輩に誤解されるじゃないですか!」
少し暗い雰囲気となりかけていたが、それを察したミラッカが絶妙なボケ(?)で一気に明るさを取り戻す。
……もしかしたら単にエリナをいじりたいだけなのかもしれないが。
ともかく、明るい空気で一日を終えることができた。
◇◇◇
翌日。
俺とエリナはいつものように村人の農作業を手伝うため、まだ外が薄暗いうちに起きて準備を整える。
それを知らないミラッカは物音に気がついて部屋から出てきた。
「すまない、起こしてしまったか」
「早起きは慣れているけど、こんな早朝にどうしたの? 見回りをするような時間でもないと思うけど」
「これから畑のお手伝いに行くんです」
「は、畑?」
エリナの言葉の意図が読めずに聞き返すミラッカ。
騎士としては普通の疑問か。
「ミラッカはゆっくり支度をしてくれていいよ」
「いいえ、私も行くわ。準備をするから先に行っていて」
「あ、あぁ」
驚いた。
あのミラッカが進んで農作業をやると言いだすなんて。
とりあえず、俺とエリナはいつも通りに駐在所を出て畑へと向かう。
ちなみに、うちの畑――と言っても、村の人たちが所有する農地に比べたら家庭菜園程度のものだが、こちらもあとからしっかり作業していくつもりだ。
少しずつだが着実に成長しており、あと数週間も経てばトマトやピーマンができるはず。それから、鶏から卵も回収しておかないとな。
俺たちが農作業を始めてから三十分ほど経つと、準備を終えたミラッカが畑へと足早にやってくる。
「さあ、何でも任せて頂戴!」
ヤル気満々なのはいいのだが、経験上、収穫作業はかなりの体力消費が懸念されるため、彼女には収穫し終えた野菜の運搬を頼もうと思っている。これから王都へ向けて長距離移動をしなくてはいけないしな。
ちなみに、俺は収穫作業で汗を流す。
ここへ来て一ヶ月以上になると、最初の頃とは見違えるようにうまくなったと自分自身でもそう感じる。俺たち騎士が普段使っていない筋肉を酷使するため、慣れるまではなかなか大変なのだ。
手際よく収穫していき、それをエリナが箱詰めしていく。ミラッカにはその箱を指定した場所へ運ぶ仕事を依頼しておいた。
単調な作業の上に体力を大きく消耗するが、ミラッカは文句ひとつ言わずに黙々と作業をこなしていく。気がつけば、彼女の額からは大粒の汗が滴っていた。
「どうだ、ミラッカ。初めての農作業は」
「想像以上に重労働ね……彼らは毎日これを?」
「まあな。収穫は朝に行うけど、他にもいろんな作業があるから一日がかりだ」
「それは凄いわね。これから野菜を食べる際は今日という日を思い出すでしょうね」
「ははは、俺もまったく同じことを思ったよ」
当たり前のように食べている野菜だが、農家の人たちがこうやって大変な作業をしてくれているから食卓に並ぶのだ。以前の俺は、そんなこと考えもしなかったな。
日が昇り、辺りが明るくなってくる頃に作業は終了。
「お疲れ様、ミラッカ」
「そちらこそ。これを毎日やっているなんて……新しい鍛錬になりそうね」
「俺やエリナのやっているのはほんの一部だよ。この村の人たちは昼休憩を挟みつつもより体力を使う作業を暗くなるまでやっているからね」
「基礎体力は凄そうね。ここにベローズ副騎士団長がいたら片っ端からスカウトをしていきそうね」
そういえば、ベローズ副騎士団長は若手育成に力を入れていたな。
師匠の道場にも足繁く通っており、腕の立つ若者をチェック。俺もそんな視察の中で見いだされて騎士団に入ったのだ。
そんな話をしているうちに、村人たちがミラッカのもとへと集まってくる。
「今日はどうもありがとう」
「そんな、私なんてほとんど戦力になっていませんでしたよ」
「いやいや、手伝おうとしてくださる気持ちが嬉しいんじゃ」
ご老人の言葉に、集まった村人たちは「そうだそうだ」と頷いていた。
農作業が終わると、俺たちは駐在所へと戻ってくる。
「王都へ戻るんだよな?」
「えぇ。けど、その前にゲイリーと合流する手筈になっていると」
「ゲイリーか……あいつも元気でやっているのか?」
「いつも通りよ。逆にもうちょっと元気をなくして落ち着いてもらいたいくらいね」
「ははは、違いない」
世間話をした後で、荷物を手にしたミラッカを見送る。
「いろいろとありがとう。とても楽しかったわ」
「お礼を言うのはこっちの方だよ」
再会を願って握手を交わすと、今度はエリナの番だ。
「道中お気をつけて」
「大丈夫よ。モンスターが十体くらい襲ってきても軽く蹴散らしてやるわ」
「っ!? き、聞こえてたんですか!?」
なんだかこのふたり……王都にいた頃より仲良くなっていないか?
まあ、もともと接点はあまりなかったのだろうが、ここへ来て一気に距離が縮まったように見えるな。まあ、先輩後輩の仲が良いのは喜ばしいことだよ。
「じゃあ、そろそろ行くわ」
ミラッカは俺たちに手を振って、カーティス村をあとにする。
できれば、次もまた笑顔で再会したいものだ。
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