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第69話 最後の戦いに向けて

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 グローム側の増援部隊を打ち破った俺たちは、エクルド軍と合流。

「エルカ殿!」

 騎士たちは俺たちが駆けつけたことに感謝してくれた。自国よりも兵力で圧倒的に勝るグロームとの戦いは、エクルドの騎士たちにとって相当なプレッシャーだったらしい。
 それでも、国を守りたいという彼らの真摯な想いが、兵力差を弾き返したのだ。

 歓喜に湧き上がるエクルド軍だが、まだ油断はできない。
 長らくグロームで暮らしてきた俺やリリアンは、あの国の兵力がこの程度ではビクともしないことを知っている。

 今回はあくまでも一時撤退。
 これからさらに勢力を強めていくと思われるグロームに対抗するためにも、魔境へ攻め込もうとしている軍勢を押しのけなければ。

 その時、別の場所で戦っているエクルドの部隊から使いがやってきて、それぞれの戦況を報告していった。それによると、どこも優勢に戦いを進めているという。

 どうやら、グローム側の士気は高くないらしいな。
 これなら……なんとかなるかもしれない。

 問題は――

「グローム側の軍勢がエクルドと魔境周辺に兵を展開しているのはハッキリしましたが……きっと、そのどこかが本隊で指揮官がいるはずです」

 俺の推察を耳にしたエクルドの騎士たちは、一斉に頷いた。

「では、俺たちは一度魔境へ戻ります。体勢を立て直して、今度はこちらからグローム側へ仕掛けましょう」
「だ、大丈夫でしょうか……」
「今のまま時が経てば、彼らはさらに兵力をつぎ込んでくるはず。グローム本国にこの戦況が届くより前に、決着をつける必要があります」

 エクルドへの総攻撃は、果たしてグローム本国からの指示なのか――俺はそれがどうにも引っかかっていた。
 ただ、憶測で動いてはいざという時に対応できない。
 とにかく、今は敵の指揮官を見つけだし、事態の収束を計らなければ。


 俺たちは一度エクルドの部隊と別れ、魔境へと戻る。
 あっちの戦況も気になるが……ヌシに加えてスレイトンが連れてきた兵力が味方をしてくれたことで、あの場所での戦力自体は魔境組の方が勝っていると言っていい。

「さて……どうなっているか……」
「彼らが負けているとは思えませんが……」
「同感だな。パーディやゾウィルも参戦しているあの布陣で敗北など考えられない」
「だよな」

 リリアンもアルも、魔境組の勝利を確信しているようだ。
 もちろん、俺だってそのつもりでいる。

 ――で、実際はどうだったかというと、

「なんだ、随分早い帰りだったじゃないか」

 スレイトンたちが笑顔で俺たちを迎え入れてくれた。
 どうやら、全員の予想が見事に的中したらしい。

「押しのけたか、グロームの軍勢を」
「不思議なもので、ヤツら途中から引き返していってな。恐らく、別の場所が劣勢だという報告を受けてそちらの加勢に行ったんだろう」

 だが、結果としてエクルド側が苦境に立たされたという報告はなかった。
 となると、増援を送ったものの返り討ちにあったか。

「ヤツらは浮足だっている。攻め込むなら今だ」
「もちろん。――これで、終わりにするつもりだ」

 俺の言葉を受けて、全員から力強い雄叫びがあがる。
 魔境の守りはヌシたちと最低限の兵力で行い――俺たちはいよいよ黒幕討伐に向けてグロームの本隊を叩きに出陣する。
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