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第35話 アルのピンチ
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行方をくらましたアルを捜して森の中をさまよっていると、何かを発見したリリアンがその場所を指さして叫んだ。
そこに横たわっていたのは――アルだった。
「アル!」
まったく動く気配のないアル。
もしかしたらという最悪のケースが頭をよぎる中、全力で近づいて声をかけてみる――が、返事はない。
「エ、エルカ様……」
俺の呼びかけに対し、まったく反応しないアルの姿を目の当たりにしたリリアンの顔が青ざめる。最初は俺もアルが死んでしまったのかと肝を冷やしたが、
「大丈夫だ。息をしている……死んではいないよ。気を失っているだけだ」
「よ、よかった……」
ホッと安堵した途端、リリアンは脱力。その場にペタンとへたり込んでしまった。
……確かに、死んではいない。
それどころか目立った外傷もないため、怪我もなく無事だろう。
――ならば、なぜここで気を失っていたのか。
気になった俺はアルから事情を聞くために起こし続けた。すると、
「う、うぅ……」
ようやく意識を取り戻したアルだが、どうも様子がおかしい。立ち上がろうとするも足元がおぼつかず、ふらついていた。怪我をしているわけでもないのに、まるで長時間にわたる戦いを終えたばかりのように疲れ切っているようだ。
「だ、大丈夫か?」
アルの大きな体をなんとか支えつつ、尋ねてみる。しばらくはまともに話せていなかったのだが、呼吸を整えてなんとか声が出るようになってきた。
この状況から、俺はアルの身に起きた事態について大体の察しがつく。
「毒にやられたのか?」
「そう……だ……」
絞りだすように、アルは俺の言葉を肯定する。
……おかげで、誰にやられたのかハッキリした。
「相手はヌシだな?」
「…………」
今度は声を出せなかったようで、静かに頷くことで返事をする。
「ヌシ……アルのように、飛び抜けた力を持ったモンスターのことですよね?」
「そうだ。その中で毒を使う者といえば――毒蜘蛛のパーディか」
「っ!?」
パーディの名前を出すと、アルはビックリしたようでカッと目を見開いていた。口をパクパクと動かして何か言いたそうにしているが、恐らく「なぜヤツを知っているのか」ってところかな。
それに対する答えは決まっている。
「俺は予言者だぞ? これくらいお見通しだ」
笑いながらサムズアップすると、アルは一瞬キョトンと目を丸めるが、すぐに呆れたような苦笑いを浮かべた。とりあえず、命に別状はなさそうなのでひと安心。
……ただ、これからについては一度態勢を立て直す必要があるだろう。
「アル、一旦村へ戻ろう。パーディとは話をしたいところではあるけど……今接触するのは得策ではないと俺は判断する。――どうだろう?」
「…………」
こちらの問いかけに、アルは無言のまま頷く。
今はなんともなくても、今後のために毒による痺れを解消するために解毒薬を飲ませる必要があるだろう。
それも考慮して、俺たちは魔境村へと戻った。
村へ着くと、ぐったりしているアルの様子を心配して村民たちが集まってきた。
みんな総じてふらつくアルの身を案じており、毒による軽度の麻痺であると告げると、それを聞いた一部の村人が解毒薬を調達すると駆けだしていった。
すでに村ではいくつかの建物が完成しており、そこで暮らし始めている者たちもいる。こうして見ると、かなり村としての形はできてきているな。もうちょっと手直しをしたい部分はあるにしろ、当初の想定を遥かに超えたクオリティになっている。
……だからこそ、残り三体となったヌシとの交渉は成功させ、アルのような友好的関係を築いていきたいと強く思っていた。
だが、アルがそのうちの一体である毒蜘蛛のパーディにやられたとなると……予想してはいたが、かなり険しいものとなりそうだ。
そもそも、アルのように理解ある存在が異例なだけで、他の三体はモンスターらしい思考の持ち主と言っていい。まあ、企画会議でそう決まったわけだし、そもそも俺も賛成しちゃったからなぁ……あの時に転生すると分かっていたら、もっと違った設定にしたのだけど。
って、後悔しても遅い。
俺はふらつくアルをなんとか屋敷まで連れてくる。
パーディとどんな話をしたのか聞きたいところだが、しばらくは難しいだろう。今は村人が持ってきてくれる解毒薬を待つとしよう。
屋敷へとたどり着いた俺たちを待っていたのは、イベーラたちリドウィン魔境調査団のメンバーだった。
どうやら、今日はダンジョン探索には出ずに準備をしていたようだが、フラフラになっているアルを発見するとこちらも心配そうに駆け寄る。
「一体何があったんですか!?」
「落ち着いて、イベーラ。アルは命に別状はないものの、毒にやられたんだ」
「ど、毒!?」
強張った表情で聞き返してくるイベーラ。
かなりショッキングだったみたいだな。
俺たちは屋敷の庭でアルを横たわらせ、休ませる――と、村人のひとりが解毒薬を持って戻ってきた。
「エルカ様! こいつを飲めばたちまち楽になりますぞ!」
薬売りの商売を生業としているイヴァンさんが、薬の入った瓶をブンブン振りながら駆け寄る。
早速それを受け取ると、アルに飲むよう促す。
イヴァンさんの話では即効性があるらしいので、飲めばすぐに何かしらの反応が出るというのだが……
「どうだ、アル」
「っ! 驚いたな……あっという間に痺れが取れてきたぞ」
本当にすぐ治ったな。
薬の効果に感心しつつも、これでようやく話ができると息を吐く。
「アル……森で何があったか、説明してくれるな」
「あぁ……」
少し落ち込んだ様子で、アルは静かに語り始めた。
そこに横たわっていたのは――アルだった。
「アル!」
まったく動く気配のないアル。
もしかしたらという最悪のケースが頭をよぎる中、全力で近づいて声をかけてみる――が、返事はない。
「エ、エルカ様……」
俺の呼びかけに対し、まったく反応しないアルの姿を目の当たりにしたリリアンの顔が青ざめる。最初は俺もアルが死んでしまったのかと肝を冷やしたが、
「大丈夫だ。息をしている……死んではいないよ。気を失っているだけだ」
「よ、よかった……」
ホッと安堵した途端、リリアンは脱力。その場にペタンとへたり込んでしまった。
……確かに、死んではいない。
それどころか目立った外傷もないため、怪我もなく無事だろう。
――ならば、なぜここで気を失っていたのか。
気になった俺はアルから事情を聞くために起こし続けた。すると、
「う、うぅ……」
ようやく意識を取り戻したアルだが、どうも様子がおかしい。立ち上がろうとするも足元がおぼつかず、ふらついていた。怪我をしているわけでもないのに、まるで長時間にわたる戦いを終えたばかりのように疲れ切っているようだ。
「だ、大丈夫か?」
アルの大きな体をなんとか支えつつ、尋ねてみる。しばらくはまともに話せていなかったのだが、呼吸を整えてなんとか声が出るようになってきた。
この状況から、俺はアルの身に起きた事態について大体の察しがつく。
「毒にやられたのか?」
「そう……だ……」
絞りだすように、アルは俺の言葉を肯定する。
……おかげで、誰にやられたのかハッキリした。
「相手はヌシだな?」
「…………」
今度は声を出せなかったようで、静かに頷くことで返事をする。
「ヌシ……アルのように、飛び抜けた力を持ったモンスターのことですよね?」
「そうだ。その中で毒を使う者といえば――毒蜘蛛のパーディか」
「っ!?」
パーディの名前を出すと、アルはビックリしたようでカッと目を見開いていた。口をパクパクと動かして何か言いたそうにしているが、恐らく「なぜヤツを知っているのか」ってところかな。
それに対する答えは決まっている。
「俺は予言者だぞ? これくらいお見通しだ」
笑いながらサムズアップすると、アルは一瞬キョトンと目を丸めるが、すぐに呆れたような苦笑いを浮かべた。とりあえず、命に別状はなさそうなのでひと安心。
……ただ、これからについては一度態勢を立て直す必要があるだろう。
「アル、一旦村へ戻ろう。パーディとは話をしたいところではあるけど……今接触するのは得策ではないと俺は判断する。――どうだろう?」
「…………」
こちらの問いかけに、アルは無言のまま頷く。
今はなんともなくても、今後のために毒による痺れを解消するために解毒薬を飲ませる必要があるだろう。
それも考慮して、俺たちは魔境村へと戻った。
村へ着くと、ぐったりしているアルの様子を心配して村民たちが集まってきた。
みんな総じてふらつくアルの身を案じており、毒による軽度の麻痺であると告げると、それを聞いた一部の村人が解毒薬を調達すると駆けだしていった。
すでに村ではいくつかの建物が完成しており、そこで暮らし始めている者たちもいる。こうして見ると、かなり村としての形はできてきているな。もうちょっと手直しをしたい部分はあるにしろ、当初の想定を遥かに超えたクオリティになっている。
……だからこそ、残り三体となったヌシとの交渉は成功させ、アルのような友好的関係を築いていきたいと強く思っていた。
だが、アルがそのうちの一体である毒蜘蛛のパーディにやられたとなると……予想してはいたが、かなり険しいものとなりそうだ。
そもそも、アルのように理解ある存在が異例なだけで、他の三体はモンスターらしい思考の持ち主と言っていい。まあ、企画会議でそう決まったわけだし、そもそも俺も賛成しちゃったからなぁ……あの時に転生すると分かっていたら、もっと違った設定にしたのだけど。
って、後悔しても遅い。
俺はふらつくアルをなんとか屋敷まで連れてくる。
パーディとどんな話をしたのか聞きたいところだが、しばらくは難しいだろう。今は村人が持ってきてくれる解毒薬を待つとしよう。
屋敷へとたどり着いた俺たちを待っていたのは、イベーラたちリドウィン魔境調査団のメンバーだった。
どうやら、今日はダンジョン探索には出ずに準備をしていたようだが、フラフラになっているアルを発見するとこちらも心配そうに駆け寄る。
「一体何があったんですか!?」
「落ち着いて、イベーラ。アルは命に別状はないものの、毒にやられたんだ」
「ど、毒!?」
強張った表情で聞き返してくるイベーラ。
かなりショッキングだったみたいだな。
俺たちは屋敷の庭でアルを横たわらせ、休ませる――と、村人のひとりが解毒薬を持って戻ってきた。
「エルカ様! こいつを飲めばたちまち楽になりますぞ!」
薬売りの商売を生業としているイヴァンさんが、薬の入った瓶をブンブン振りながら駆け寄る。
早速それを受け取ると、アルに飲むよう促す。
イヴァンさんの話では即効性があるらしいので、飲めばすぐに何かしらの反応が出るというのだが……
「どうだ、アル」
「っ! 驚いたな……あっという間に痺れが取れてきたぞ」
本当にすぐ治ったな。
薬の効果に感心しつつも、これでようやく話ができると息を吐く。
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