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第24話 商談

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 ダンジョンでの成果は上々だった。
 ――いや、上々どころかそれ以上だ。

 用意しておいた荷車いっぱいに詰め込まれた魔鉱石を持って魔境村へと帰還。みんなからも歓迎されたが、同時に不安に感じている面もあるようだ。
 それは魔鉱石をリドウィン王国調査団とどのように分けるのかという点だ。
 ただ、これについては俺に考えがあった。

 帰還して早々に屋敷で今後の話し合いを始める。
 だが、その話し合いは俺からの提案によりあっという間に終了した。

「こっちとしては、生活に必要な魔鉱石を確保できたらそれで大丈夫ですよ」
「えっ!?」

 この魔境に眠っているお宝はまだ他にあるし、魔鉱石はその効果を得られることができればそれ以上は望まない。それに、リドウィン王国と友好的な関係を築いておくのはこれからの生活にも大きな意味を持つだろう。
 恩を売るってつもりでもないけど、向こうに良い印象を与えておくのが得策ってヤツだ。

「本当に……よろしいのですか?」
「問題ありません。――この魔境には、きっともっと凄い物が潜んでいるはずですから」
「…………」

 魔鉱石に関して提案すると、イベーラは黙ってしまった。表情も険しく、何かを思案するように俯いている。
 恐らく、条件面に不満があるというわけじゃない。
 ただ、納得できないことがあるようだ。
 それについては俺もなんとなく想像がつく。まだ付き合い自体は数日だが、それまでの間に垣間見えた彼女の性格を考慮すると、すんなり受け入れないかもしれないという不安はあったのだが……どうやらそれが的中したようだ。

「私たちだけが恩恵を受けすぎている気がするのです」

 ……やっぱり、そう来たか。
 真面目すぎる性格だって印象を受けていたから、こうなるんじゃないかって頭の片隅に浮かんではいたんだよな。

 彼女が納得する交換条件――それについても事前に考えてはあった。

「なら、こうしませんか?」
「と、言いますと?」
「この魔境村には、今後移住してくる人が増えていくと予想されます。でも、資材や働き手が不足することも同時に懸念されます」
「なるほど……資材と働き手が交換条件ですか」

 さすがはイベーラ。
 こちらの狙いを素早く的確に察してくれたな。

「分かりました。あなたにはとてもお世話になりましたし、こちらとしても協力して魔境村と良好な関係を築いていきたいと思っています」
「それはありがたい」
「ですが……あなたの提案を実現させるためには、乗り越えなければならない課題がひとつだけあります」

 真剣な眼差しでそう語るイベーラ。
 恐らく、彼女の言う課題――俺と同じ考えだろうな。

「今回の魔鉱石獲得と、今のあなたの提案を――私たちリドウィンの国王陛下にお話しなければなりません。そのうえで、最終的な決断をしていただきます」
「……そうなるよな」

 ここまでの規模になったら、やはり国王の名前が出てくるだろう。

「リドウィンか……今まで一度も行ったことがないんだよな」
「とてもいいところですよ。あなたの住んでいたグローム王国と比べてしまうとかなり小さいですが」
「でも、風車があって酪農が盛んなリドウィンののんびりした雰囲気は、グロームにない良いところだと思いますよ」
「あら? 随分と詳しいんですね」
「あっ……ま、まあ、これも予言の力ですよ」

 リドウィン王国の設定は何度もチェックしたからな。こっちの世界に来てから一度も足を踏み入れていないけど、国の事情については把握している。

 しかし……リドウィン王、か。
 一応、こちらは設定だけ存在はしているが、【ホーリー・ナイト・フロンティア】には未登場となっている。周りの国との関係は良好なので、めちゃくちゃな条件を吹っ掛けてくるってことはないはずだ。

 とはいえ、こればっかりは会ってみなくちゃ分からないよな。

 イベーラたちリドウィン王国調査団のメンバーは、明日にも今回の報告を行うために一旦この場を離れるという。
 俺とリリアンのふたりも、それに同行することにした。


 話し合いが終わって村の方へ出てくると、今日もまた大宴会を開くために村人たちやメイドさんたちが用意を進めていた。
 俺もそこへ参加しようとしたのだが、

「随分と気前がいいのだな」

 その足を止めたのは三つ目の魔犬アルベロスだった。

「あの魔鉱石とやらが人間にとってかなり価値の高い物であるというのは君たちの話し合いを聞いていたら理解できた。それをあっさりと手放すような発言をした時は正気を疑ったぞ?」
「そんな大げさな」

 とぼけて答えたが……実際、俺のような提案をするヤツは極めて珍しいのだろうな。

「まあ、魔境にはまだまだお宝が眠っているようだし、俺はそっちを探すことにするよ」
「それもお得意の予言か?」
「まあね。――君と同じ、この魔境に住む他のヌシたちにも、リドウィン王国から戻ったら挨拶に行くつもりだ」
「っ!?」

 分かりやすく驚きの表情を浮かべるアル。
 彼と同じような役割を担っているキャラは他にもいる。
 ――ただ、相手はモンスターだ。
 アルは比較的話の通じるヌシだったが、残り三体のヌシはそう簡単にはいかない。問答無用で襲いかかってくるタイプだからなぁ……こんなことになるなら、もっと話の分かるヤツにしておくべきだった。

 とはいえ、まったく手も足も出ないってわけじゃない。それこそ、俺の予言という名の知識が武器となる。

「……他の連中が君の言うことを聞くとは思えないが?」

 心配そうに呟くアル。
 本当に優しいな。
 他のヌシもこの設定で行くべきだったよ……それだとゲーム自体が面白くなくなるだろうから企画は没になるだろうけど。

「だろうね。その辺はこれから君にも協力してもらって乗り越えていこうと思っているよ」
「俺がいたところで状況は変わらないと思うぞ? 他のヤツらと特別仲が良かったというわけではないからな」
「もちろん、それも分かっているさ」
「……それもまた予言というわけか」

 アルは「ふっ」とクールに笑うと、ゆっくりとその場に寝そべる。

「君が他のヌシたちとどう渡り合うか……楽しみに待っているよ」
「あぁ、任せてくれ」

 直接口にしていないが、「留守の間は任せろ」ってことらしい。
 アルが頼もしいのは疑いようのない事実。
 きっと守護者として村の力になってくれるはずだ。

 さて、宴会を楽しんだあとには明日の旅の準備もしておかないとな。
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