62 / 63
第62話 光のドラゴン
しおりを挟む
※いよいよ次回最終回!
投稿は2月13日(土)の8:00を予定しています。
その13日(土)の正午から新連載を開始予定!
そちらもお楽しみに!
…………………………………………………………………………………………………
「えっ……お別れって……」
エヴァの放った言葉の意味がすぐに理解できず、呆然とするドミニク。
だが、近くで聞いていたギデオンが素早く反応する。彼には、エヴァが何をしようとしているか分かっているようだ。
「母さん!」
それに気づいた瞬間、ギデオンはエヴァを止めようとするが――すでに遅かった。
憑依を解いたエヴァは、チラリと視線を横へずらす。そこには、青い顔で倒れているヴェロニカと、かたわらに寄り添うイリーシャの姿があった。
「ギデオン、あのふたりを頼むぞ」
「えっ……」
「それからドミニク、お主には長々と付き合わせてしまって悪かったのぅ」
「そ、そんな……」
「――元気でな」
「「!?」」
最後に、エヴァは誇らしく笑った。
ここで、ドミニクもようやく悟る。
エヴァは命を――いや、すでに霊体となっているため命ではない。その存在のすべてをかけて何かをしようとしていた。
エヴァがしようとしていること。
それは紛れもなく、次元亀裂を修復することだろう。
「本来であれば、もうなくなっているはずの命……それが、この瞬間まで見届けることができた。ワシは幸せ者じゃよ」
噛みしめるように言うと、エヴァの全身が光に包まれる。
それは恐ろしく純度の高い魔力の結晶体。
生前のエヴァの持つ魔力の凄まじさが窺えた。
やがてその光は巨大なドラゴンの姿となり、雄々しく紫色の空を駆ける。
ドミニクとギデオンは立ち尽くしていた。
霊竜エヴァの、己の存在をかけた最後の魔法。
それを目に焼き付けようと、光の竜を見つめ続ける。
やがて、エヴァは亀裂に衝突。
その瞬間、強烈な閃光が視界を奪い、これまでに感じたことのない魔力が弾けた。
「ぐあっ!?」
突然襲い掛かる激しい横揺れと突風に、ドミニクは身を屈めて必死に踏ん張る。
だが、ついに耐えきれなくなり、意識を手放してしまうのだった。
どれほど気を失っていただろうか。
「あっ!」
おぼろげな意識で空を眺めていたドミニクは慌てて起き上がる。
周囲の景色――ひと言で例えるなら、それは「至って普通の森」。
つまり、魔界ではない。
「戻って……来たのか?」
しばらくボーっとしていたドミニクだが、すぐに次元亀裂のことを思い出して空を見上げる――そこに広がっていたのは、眩しいくらいの蒼穹だった。
「亀裂がない……やったんだ!!」
思わずガッツポーズが飛び出す。
だが、すぐに霊竜エヴァの最後の雄姿が脳裏をよぎり、喜びは失せた。
世界は救われた。
イリーシャは両親と再会を果たせた。
――しかし、霊竜エヴァは消滅した。
すでに肉体は滅びており、魂だけの存在となってドミニクたちの旅を支えていたエヴァ。
その最後の言葉は、とても満足げだった。
思い残したことはすべてなくなり、未来のためにその存在すべてを賭してこの世界を守ったのだ。
彼女こそ、英雄と呼ばれるに相応しい人物だと、ドミニクは心から思った。
「うん?」
エヴァとのことを思い出していると、どこかから声が聞こえる。
もしかしたら、魔界との亀裂がふさがる際に、モンスターが入り込んだ可能性もある。
今や憑依したエヴァの力はない。
それでも、ドミニクはモンスターが相手だった時のことを想定し、武器を構えて慎重に近づいていく。
そこには――
「ママ! パパ!」
「イリーシャ……」
「寂しい思いをさせてごめんなさいね……」
両親と抱き合って大泣きするイリーシャ。
「…………」
その光景を目の当たりにしたドミニクは、そっと剣を鞘へおさめた。
「よかったな、イリーシャ」
しばらくは親子水入らずにしてあげようと思い、隊長であるハインリッヒへ報告しようと歩き出した――と、前方からこちらへ向かって走ってくるいくつかの人影を発見する。
「「「「「「ドミニク(さん)!! イリーシャ!!」」」」」」
その人影の正体は――アンジェ、シエナ、エニスの三人に加えて、ハインリッヒと部下たちだった。
「やれやれ……」
せっかくの親子水入らずも、台無しになってしまいそうだ。
ドミニクは苦笑いを浮かべながらアンジェたちに歩み寄る。
こうして、次元亀裂は見事に消滅し、世界は救われたのだった。
――そして、二年の月日が経った。
投稿は2月13日(土)の8:00を予定しています。
その13日(土)の正午から新連載を開始予定!
そちらもお楽しみに!
…………………………………………………………………………………………………
「えっ……お別れって……」
エヴァの放った言葉の意味がすぐに理解できず、呆然とするドミニク。
だが、近くで聞いていたギデオンが素早く反応する。彼には、エヴァが何をしようとしているか分かっているようだ。
「母さん!」
それに気づいた瞬間、ギデオンはエヴァを止めようとするが――すでに遅かった。
憑依を解いたエヴァは、チラリと視線を横へずらす。そこには、青い顔で倒れているヴェロニカと、かたわらに寄り添うイリーシャの姿があった。
「ギデオン、あのふたりを頼むぞ」
「えっ……」
「それからドミニク、お主には長々と付き合わせてしまって悪かったのぅ」
「そ、そんな……」
「――元気でな」
「「!?」」
最後に、エヴァは誇らしく笑った。
ここで、ドミニクもようやく悟る。
エヴァは命を――いや、すでに霊体となっているため命ではない。その存在のすべてをかけて何かをしようとしていた。
エヴァがしようとしていること。
それは紛れもなく、次元亀裂を修復することだろう。
「本来であれば、もうなくなっているはずの命……それが、この瞬間まで見届けることができた。ワシは幸せ者じゃよ」
噛みしめるように言うと、エヴァの全身が光に包まれる。
それは恐ろしく純度の高い魔力の結晶体。
生前のエヴァの持つ魔力の凄まじさが窺えた。
やがてその光は巨大なドラゴンの姿となり、雄々しく紫色の空を駆ける。
ドミニクとギデオンは立ち尽くしていた。
霊竜エヴァの、己の存在をかけた最後の魔法。
それを目に焼き付けようと、光の竜を見つめ続ける。
やがて、エヴァは亀裂に衝突。
その瞬間、強烈な閃光が視界を奪い、これまでに感じたことのない魔力が弾けた。
「ぐあっ!?」
突然襲い掛かる激しい横揺れと突風に、ドミニクは身を屈めて必死に踏ん張る。
だが、ついに耐えきれなくなり、意識を手放してしまうのだった。
どれほど気を失っていただろうか。
「あっ!」
おぼろげな意識で空を眺めていたドミニクは慌てて起き上がる。
周囲の景色――ひと言で例えるなら、それは「至って普通の森」。
つまり、魔界ではない。
「戻って……来たのか?」
しばらくボーっとしていたドミニクだが、すぐに次元亀裂のことを思い出して空を見上げる――そこに広がっていたのは、眩しいくらいの蒼穹だった。
「亀裂がない……やったんだ!!」
思わずガッツポーズが飛び出す。
だが、すぐに霊竜エヴァの最後の雄姿が脳裏をよぎり、喜びは失せた。
世界は救われた。
イリーシャは両親と再会を果たせた。
――しかし、霊竜エヴァは消滅した。
すでに肉体は滅びており、魂だけの存在となってドミニクたちの旅を支えていたエヴァ。
その最後の言葉は、とても満足げだった。
思い残したことはすべてなくなり、未来のためにその存在すべてを賭してこの世界を守ったのだ。
彼女こそ、英雄と呼ばれるに相応しい人物だと、ドミニクは心から思った。
「うん?」
エヴァとのことを思い出していると、どこかから声が聞こえる。
もしかしたら、魔界との亀裂がふさがる際に、モンスターが入り込んだ可能性もある。
今や憑依したエヴァの力はない。
それでも、ドミニクはモンスターが相手だった時のことを想定し、武器を構えて慎重に近づいていく。
そこには――
「ママ! パパ!」
「イリーシャ……」
「寂しい思いをさせてごめんなさいね……」
両親と抱き合って大泣きするイリーシャ。
「…………」
その光景を目の当たりにしたドミニクは、そっと剣を鞘へおさめた。
「よかったな、イリーシャ」
しばらくは親子水入らずにしてあげようと思い、隊長であるハインリッヒへ報告しようと歩き出した――と、前方からこちらへ向かって走ってくるいくつかの人影を発見する。
「「「「「「ドミニク(さん)!! イリーシャ!!」」」」」」
その人影の正体は――アンジェ、シエナ、エニスの三人に加えて、ハインリッヒと部下たちだった。
「やれやれ……」
せっかくの親子水入らずも、台無しになってしまいそうだ。
ドミニクは苦笑いを浮かべながらアンジェたちに歩み寄る。
こうして、次元亀裂は見事に消滅し、世界は救われたのだった。
――そして、二年の月日が経った。
0
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
異世界のんびり冒険日記
リリィ903
ファンタジー
牧野伸晃(マキノ ノブアキ)は30歳童貞のサラリーマン。
精神を病んでしまい、会社を休職して病院に通いながら日々を過ごしていた。
とある晴れた日、気分転換にと外に出て自宅近くのコンビニに寄った帰りに雷に撃たれて…
================================
初投稿です!
最近、異世界転生モノにはまってるので自分で書いてみようと思いました。
皆さん、どうか暖かく見守ってくださいm(._.)m
感想もお待ちしております!
拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~
荒井竜馬
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。
=========================
<<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>>
参加時325位 → 現在5位!
応援よろしくお願いします!(´▽`)
=========================
S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。
ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。
崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。
そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。
今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。
そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。
それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。
ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。
他サイトでも掲載しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜
西園寺若葉
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?
名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」
「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」
「それは貴様が無能だからだ!」
「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」
「黙れ、とっととここから消えるがいい!」
それは突然の出来事だった。
SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。
そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。
「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」
「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」
「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」
ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。
その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。
「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる