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第38話 街での1日
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運のいいことに、大都市ゴルトー到着初日に次の情報を得ることができたドミニク一行。
おかげで翌日には次の目的地へ向けて出発できる――はずだったが、
「せっかくこんな大きな都市へ来たのじゃから、街を見ていかんか?」
「賛成♪」
エヴァの提案に対し、真っ先に賛成したのは人間の暮らしに興味を持っている妖精のエニスだった。続いて、
「わ、私も……ちょっと見てみたいです」
「私も」
おずおずと手をあげたシエナに、瞳を輝かせるイリーシャ。
判断を委ねられているドミニクとしては、「イリーシャ自身が街を見たいと言うなら」という気持ちだった。
すでに両親の現在地について最終的な絞り込みは出来ている。
ラドム王国。
これまでの情報から、この国で、イリーシャの両親――ギデオンとヴェロニカは働いているのは間違いないだろう。
ただ、ラドムへの道のりは遠い。
そういったことを考慮すると、ここでラドムへの遠征に向けた物資を購入するというのも手だろう。資金にはまだ余裕もあるし、何よりここは、大陸でも屈指の大都市。ここならば大抵の物は揃う。
「よし! じゃあ今日一日は街を散策してみるか」
ドミニクがそう告げると、シエナたちは大喜び。
早速、周辺の店を見て回ることにした。
「わあ、これ可愛いです♪」
「うん。シエナによく似合う」
「こっちのはイリーシャに似合いそうよ!」
シエナ、イリーシャ、エニスの幼少組は雑貨屋で盛り上がっていた。
一方、ドミニクとアンジェはこれからの旅で必要になりそうな物資を購入。
「携帯食に飲み物、それからランドのご飯だな。……あとは?」
「資金が枯渇しても慌てないように、ダンジョンマップを用意しておきましょう」
「そうだな。この近辺は多いから、ラドムへ向かう前に立ち寄ってもいいけど」
「それがいいかもしれないですね」
難しい顔で話し合うふたり。
時々、三人娘のやりとりにほっこりとしつつ、買い出しを進めていった。
それからも、ドミニク一行は街の散策を満喫した。
いつもはダンジョンなど危険な場所へ向かうことが多いので、今みたいにのんびりと買い物を楽しむという感覚は久しぶりだった。
幼少組は雑貨屋でドミニクに買ってもらった小物を荷台で見せ合い楽しんでいる。
「さて、買い残しはないかな?」
「はい。あとは中継地点に選んだ街でも売っていると思うので」
「よし、なら今日はここらで引きあげるとするか」
事前に作成しておいた購入予定リストへ目を通し、漏れがないことを確認すると、ドミニクたちは宿屋へと戻った。
周りは徐々に暗くなり、発光石の埋め込まれた街灯の淡い光が石造りの道を柔らかく照らしている。
今日の楽しい思い出を振り返りながら歩いていると、
「もうやめてくれ!」
どこからともなく男の叫び声。
見ると、街の一部に人だかりができていた。
「な、なんだ?」
「何があったんでしょう……」
不安そうなアンジェと荷台に乗る子どもたち。
「ドミニクよ」
「えぇ……行ってみましょう。みんなはここにいてくれ」
アンジェたちにそこへとどまるよう指示を出したドミニクは、一般の人の目には映らない霊竜エヴァと共に声のした方を目指す。
人込みをかき分けて、ドミニクが見たものは、
「ハハハハハッ!」
高らかに笑い声をあげるのは、銀狐の現リーダー・ベイツ。
その足元では、
「うぅ……」
ドミニクたちに情報を提供したセルジオが血だらけで倒れていた。遠目からでも分かるほど外傷がひどい。返り血を浴びているところを見ると、ベイツにやられたのだろう。
「なんてことを!」
その惨たらしい光景にたまらずドミニクが叫ぶ。すると、その声を耳にしたベイツの視線が向けられる。
「おっ? いたな」
ドミニクを見つけるなり、ベイツの顔がニヤッと醜くゆがむ。
「わざわざ足を運んでくれるとはなぁ。捜す手間が省けたぜ」
どうやらベイツの狙いはドミニクらしい。
「あんたは証人だ」
「証人……?」
「そうだ。こいつが勝手に俺の情報を売りやがったみたいだなぁ……買ったんだろう? あのふたりの情報を」
ベイツは情報をもらう代わりに、ドミニクがセルジオへ報酬を渡したと思っているようだった。
しかし、セルジオはドミニクから金銭はおろか物品さえもらっていない。
「……そんなことのために」
握った拳が怒りで震える。
「なんだ? 何か文句でもあるのか?」
「大アリだ、このクソ野郎!」
ドミニクの怒りが爆発した。
おかげで翌日には次の目的地へ向けて出発できる――はずだったが、
「せっかくこんな大きな都市へ来たのじゃから、街を見ていかんか?」
「賛成♪」
エヴァの提案に対し、真っ先に賛成したのは人間の暮らしに興味を持っている妖精のエニスだった。続いて、
「わ、私も……ちょっと見てみたいです」
「私も」
おずおずと手をあげたシエナに、瞳を輝かせるイリーシャ。
判断を委ねられているドミニクとしては、「イリーシャ自身が街を見たいと言うなら」という気持ちだった。
すでに両親の現在地について最終的な絞り込みは出来ている。
ラドム王国。
これまでの情報から、この国で、イリーシャの両親――ギデオンとヴェロニカは働いているのは間違いないだろう。
ただ、ラドムへの道のりは遠い。
そういったことを考慮すると、ここでラドムへの遠征に向けた物資を購入するというのも手だろう。資金にはまだ余裕もあるし、何よりここは、大陸でも屈指の大都市。ここならば大抵の物は揃う。
「よし! じゃあ今日一日は街を散策してみるか」
ドミニクがそう告げると、シエナたちは大喜び。
早速、周辺の店を見て回ることにした。
「わあ、これ可愛いです♪」
「うん。シエナによく似合う」
「こっちのはイリーシャに似合いそうよ!」
シエナ、イリーシャ、エニスの幼少組は雑貨屋で盛り上がっていた。
一方、ドミニクとアンジェはこれからの旅で必要になりそうな物資を購入。
「携帯食に飲み物、それからランドのご飯だな。……あとは?」
「資金が枯渇しても慌てないように、ダンジョンマップを用意しておきましょう」
「そうだな。この近辺は多いから、ラドムへ向かう前に立ち寄ってもいいけど」
「それがいいかもしれないですね」
難しい顔で話し合うふたり。
時々、三人娘のやりとりにほっこりとしつつ、買い出しを進めていった。
それからも、ドミニク一行は街の散策を満喫した。
いつもはダンジョンなど危険な場所へ向かうことが多いので、今みたいにのんびりと買い物を楽しむという感覚は久しぶりだった。
幼少組は雑貨屋でドミニクに買ってもらった小物を荷台で見せ合い楽しんでいる。
「さて、買い残しはないかな?」
「はい。あとは中継地点に選んだ街でも売っていると思うので」
「よし、なら今日はここらで引きあげるとするか」
事前に作成しておいた購入予定リストへ目を通し、漏れがないことを確認すると、ドミニクたちは宿屋へと戻った。
周りは徐々に暗くなり、発光石の埋め込まれた街灯の淡い光が石造りの道を柔らかく照らしている。
今日の楽しい思い出を振り返りながら歩いていると、
「もうやめてくれ!」
どこからともなく男の叫び声。
見ると、街の一部に人だかりができていた。
「な、なんだ?」
「何があったんでしょう……」
不安そうなアンジェと荷台に乗る子どもたち。
「ドミニクよ」
「えぇ……行ってみましょう。みんなはここにいてくれ」
アンジェたちにそこへとどまるよう指示を出したドミニクは、一般の人の目には映らない霊竜エヴァと共に声のした方を目指す。
人込みをかき分けて、ドミニクが見たものは、
「ハハハハハッ!」
高らかに笑い声をあげるのは、銀狐の現リーダー・ベイツ。
その足元では、
「うぅ……」
ドミニクたちに情報を提供したセルジオが血だらけで倒れていた。遠目からでも分かるほど外傷がひどい。返り血を浴びているところを見ると、ベイツにやられたのだろう。
「なんてことを!」
その惨たらしい光景にたまらずドミニクが叫ぶ。すると、その声を耳にしたベイツの視線が向けられる。
「おっ? いたな」
ドミニクを見つけるなり、ベイツの顔がニヤッと醜くゆがむ。
「わざわざ足を運んでくれるとはなぁ。捜す手間が省けたぜ」
どうやらベイツの狙いはドミニクらしい。
「あんたは証人だ」
「証人……?」
「そうだ。こいつが勝手に俺の情報を売りやがったみたいだなぁ……買ったんだろう? あのふたりの情報を」
ベイツは情報をもらう代わりに、ドミニクがセルジオへ報酬を渡したと思っているようだった。
しかし、セルジオはドミニクから金銭はおろか物品さえもらっていない。
「……そんなことのために」
握った拳が怒りで震える。
「なんだ? 何か文句でもあるのか?」
「大アリだ、このクソ野郎!」
ドミニクの怒りが爆発した。
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