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番外編  西の都の癒しツアー?

第149話  交流

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 リー学園長と談笑していた颯太のもとを訪ねてきたひとりの男がいた。
 長身痩躯で肩に大きな鳥を乗せたその男は、

「久しぶりだな、ソータ」
「オーバさん!」

 ペルゼミネで顔を合わせた竜医のオーバであった。

「話は聞いているぞ。学園長の娘でうちのクラスの生徒であるシャオ・ラフマンとお見合いをするそうだな」
「え? うちの生徒って……」
「ああ、俺はこの学園の竜医学専攻クラスの教師もやっているんだ」

 竜医という仕事をしながら、人材育成も任されているオーバ。兼業は大変だろうが、そうした仕事が次世代の力を育てるのだろうと感心する。

「おや? ソータ殿はオーバ先生と顔見知りでしたか」

 親しげに話しているふたりに興味を持ったリーがたずねる。

「ええ。ペルゼミネの一件で知り合いました」
「おおっ! あの謎の流行病の時か!」

 どうやらペルゼミネでの一件も知れ渡っているらしい。

「そうだ。オーバ先生、ソータ殿に学園を案内してあげてください」
「わかりました」
「いいんですか?」
「もちろんだ」

 お見合いの話はひとまず置いてくとして、この学園には関心を持っていた。自分が住んでいた世界の――日本の学園とどう違うのか、興味は尽きない。
 ただ、護衛役の騎士たちの存在を忘れるわけにはいかない。

「ジェイクさん」
「わかっているよ。おまえが行くなら俺もついていくさ」

 さすがに騎士全員で学園を練り歩くわけにはいかないので、代表してジェイクと数人の騎士が同行することとなった。

 ――それでも、武装した騎士を引き連れた颯太は学園内で非常に目立っていた。すれ違う生徒には何やらひそひそと話しをしていてなんだか居心地が悪い。

「うちの生徒たちがすまないね」
「い、いえ」
「みんなソータが来て驚いているんだよ」
「はあ。――は?」

 思わず、聞き返してしまった。
 自分が来ているから驚いているとオーバは言ったが、それだと、

「あの、オーバさん」
「なんだい?」
「アークス学園の生徒は……僕のことを知っているんですか?」

 自意識過剰な発言と捉えられても仕方がないと腹を括った質問だったが、オーバから返ってきた答えは意外なものだった。

「当然じゃないか。君の活躍はダステニアにも轟いているよ」
「……と、いうと?」
「ペルゼミネの件もそうだが、禁竜教なる組織から命を賭けてハルヴァを守り、魔族や獣人族とも死闘を繰り広げたと」
「…………」

 なんとなく、嫌な予感はしていたが――颯太の活躍はだいぶ盛られて伝えられているようだった。

「その際に襲って来た獣人族はこのダステニア出身のダヴィドだったらしいな。うちの国の者が迷惑をかけたようですまないな」
「あ、あの、その話なんですが――」
「ソータさん!」

 少し訂正した方がよいのではと思ったその時、颯太に話しかけてきたのはこの学園の制服を身にまとった16歳くらいの少年だった。

「あなたの活躍に感動しました! 自分も、将来は竜医として1匹でも多くのドラゴンたちを救いたいと思います!」
「あ、ああ、が、頑張ってね」

 少年の火傷しそうなほどの熱が込められた瞳に照らされた颯太は、ぎこちない笑顔で返事をするのが精一杯だった。
 それを皮切りに、颯太のもとへ次から次へと生徒たちが押し寄せて来る。

「ドラゴンを素手で倒したって本当ですか!?」
「手で触れるだけでどんな病も癒せるって本当ですか!?」
「次期ハルヴァ国王筆頭候補って噂は本当ですか!?」

 目を輝かせながら、若い少年少女が颯太を囲む。

「こら! 客人に失礼だぞ! 次は竜舎で実習をするからすぐに準備に取り掛かれ!」

 オーバが一喝すると、生徒たちはおずおずと引き下がっていく。世界は違えど、先生からの雷は生徒にとって脅威であるのは変わらないらしい。

「重ね重ねすまない。うちの生徒たちが粗相を」
「ははは、元気があっていいじゃないですか」

 最初こそ戸惑ったが、若者の元気さに触れたことでちょっと元気になった颯太。しかし、どうにも彼らの言っていた噂の数々が気になってしょうがない。

「あの、さっきの子たちが言っていた話ですが……」
「ああ……気にしないでくれ。なんだかかなり屈折して伝わっているようだ。誤った情報はあとで正しておくよ」

 ここへ来てからずっと申し訳なさそうにしているオーバだった。
 
もしかしたら、シャオ・ラフマンも、そうした間違った噂を真に受けて自分に興味を持ったのかもしれない――そう感じた颯太は、オーバにシャオのことをたずねた。

「今回のお見合いをする相手のシャオという子はどんな子なんですか?」
「そうだな……優しくて純粋な子だ。竜医を志望しているが、弱ったドラゴンに寄り添って回復するまで一緒にいる――そんな子だよ」
「へぇ……」
 
 ドラゴンに携わる仕事をしている身としては、大変共感できるし感心してしまう。

「あの子は以前、君をハルヴァの舞踏会で見かけたそうだ」
「舞踏会? ……来ていたのか」

 颯太がマーズナー・ファームで社交界デビューに向けて特訓し、挑んだ人生初の舞踏会。あの会場に、シャオも来ていたようだ。

「君が傷ついたドラゴンに語りかけていたところを目撃したらしくてね。その時の一生懸命な態度に心惹かれたと話していたよ」
「あの時か……」
「彼女が君の話をする時は本当に嬉しそうなんだ。いつもはおとなしくて言葉数の少ない子なんだが、君の話題が上がるととても饒舌になる。本当に、君を慕っているんだなというのが伝わってくるんだよ。だから、今回のお見合い話も、我々からすればそれほど驚くような話ではなかったんだ」

 ナインレウスに襲われたベイリーとレイエス――そして、彼らのパートナーである騎士たちを救出した颯太。王都に戻って来た時にはほとんどの国の人間がすでに帰国をしていたが、シャオはまだハルヴァ城内に残っており、そこで懸命に負傷したドラゴンや騎士たちを励ます颯太の姿を目撃していたのだ。

 どうやら、シャオはその時の颯太の姿に心がときめいた。つまり、

「まとめると――シャオの一目惚れというヤツだな」
「…………」

 颯太は黙りこくったまま、天を仰いだ。
 一目惚れをされる側になるなんて、夢にも思っていなかった。
 ――だが、

「ということは……」

 これは政略結婚でもなんでもない。
 本気のお見合いというこ――か。

「? どうかしたか、ソータ。顔が赤いようだが」
「……なんでもないです」

 年甲斐もなく赤くなる頬を隠すように手で覆い、颯太は平静を保とうと必死に心を落ち着かせていた。
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