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北方領ペルゼミネ編
第81話 ペルゼミネ到着
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ハーネイ渓谷を抜けた先にある小さな村――ダキル村で一泊することとなった。
すでに北方領ペルゼミネの国境は越えているが、本来ならここからさらに進んだ場所にあるもう少し規模の大きな村で宿を手配していた。だが、予定よりも進行に遅れが生じ、やむなくこの村で夜を過ごす運びとなったのである。
――が、数人の竜騎士だけは泊まらずそのまま進んだ。
命令違反ではなく、先にペルゼミネ入りさせて事情を説明するためだ。
「この人数だと野宿になるのか」
「宿屋には入りきれませんから仕方ありませんね」
「いえいえ、あなた方には宿屋を手配しているであります」
半ばあきらめかけていたところへファネルがそう伝えてくれる。しかし、
「え? 俺たちだけ?」
「ありがたいけど、なんだか悪いわ」
「我らは慣れておりますから」
ファネルの言う通り、竜騎士たちは村へ着くやいなやすぐさまテントの準備を始めた。そのテントも、旧レイノア王都奪還作戦の際に使用したものとは異なり、動物の毛で作られた代物だった。
「我が竜騎士団自慢の防寒性抜群テントでありますよ」
自慢げに語るファネル。
その後ろでは竜騎士たちがせっせとテントを設営していく。それが終わると今度は火を起こし、調理を開始した。宿屋の宿泊部屋の準備が整うまで、外でその様子を眺めていた颯太たちだったが、
「……なんだか、みんな生き生きとしてない?」
「今回の面子って、野営が趣味みたいな人の集まりだからねぇ……」
「なるほど。元気になるわけですね」
長旅になると見越しての人選なのだろう。
嬉々として野営に励む竜騎士たち。
たしかに、その表情は趣味を楽しんでいるという感じを受ける。
ポカンとその手際よい作業を見守っていた颯太たちのもとへ、1人の竜騎士が湯気の立つコルヒーの入ったコップを人数分持ってきてくれた。
「どうぞお飲みください。温まりますよ」
「あ、ありがとう」
支給された防寒具はフード付きのコートに手袋。そしてこの温かいコルヒー。さらに首を持ち上げて空を見れば、
「おぉ……」
たまらず、感嘆の声が漏れた。
白い吐息の向こう側に広がるのは、真っ黒なキャンパスに光り輝く宝石を散りばめたような満点の星空。
ハルヴァにいた時も夜空を見上げなかったわけじゃないし、その時も「凄い星空だ」と感心したものだ。
しかし、ペルゼミネは空気が澄んでいるのか、さらにハッキリと星の瞬きが視認できた。
星座には詳しくないので、星の並びが前にいた世界と同一であるか判断はできないが、その美しさは間違いなくこちらの世界の方が上だと思う。
「寒さも忘れる星空だな」
急遽泊まることになったダキル村で夜を越え――翌日早々に出発。
冷える気候はそのままだが、雪は止んでいる分、昨日よりも進みやすくなっていた。
そのまま北へ直進。
山を一つ越え、足を踏み入れるのをためらうほど美しい雪原を越えて行くと、
「! あれがペルゼミネの王都か!?」
窓から見える光景に、颯太はたまげた。
王都の規模がハルヴァよりも遥かに上だというのは聞いていたが、
「まさかここまで大きいとは……」
建物一つ一つのサイズがハルヴァよりもずっとデカい。
それに比例するかのように、人の数も桁違いだ。
舞踏会の日のハルヴァ王都に匹敵する人数なのだが、ブリギッテ曰く、これがペルゼミネでは一般的なのだと言う。
大きさもさることながら、颯太が目を引いたのは雪の中を走る鉄の塊――その形状から蒸気機関車のように見える。
颯太は隣に座るカレンにたずねた。
「あそこにあるのは?」
「トーレという乗り物ですね。貨物や人の運搬に使われるそうです」
地面に敷かれた鉄製のレールに駅のような建物もある。
それはまさに、颯太の知る「鉄道」そのものと言えた。
「ハルヴァではあれを造らないのか?」
「トーレを運用しているのはペルゼミネのみですね」
「どうして? 便利そうなのに」
「魔鉱石を動力としているそうですが、それ以外の詳細な情報は明かされていません。国家機密というヤツですね」
「魔鉱石……そんな物もあるのか」
「ハルヴァでは採掘されませんし、そもそもあれの年間維持費だけでハルヴァの国家予算がほとんど消し飛びますよ」
「そ、そんなにか……」
同じ4大国家という括りに収まっているとはいえ、技術的な面でも経済的な面でも、ペルゼミネはハルヴァの遥か先を進んでいる国だということだ。
颯太としてはもっといろいろと見て回りたかったが、今回は観光で来たわけではない。こちらが王都へ近づくと、ペルゼミネ側からも接触があった。
「あちらに馬を寄せてください」
誘導係のペルゼミネ兵に王都検査場へと案内され、ハルヴァの竜騎士たちが続々とペルゼミネ入りを果たしていく。馬や武器を持たない颯太たちは一足早く王都へと入ると、ある建物へと連れてこられた。
4階建ての石造り――ここに、ペルゼミネ国内で流行している病への対策を練るため、4大国家の竜医が集うことになっているらしい。
そこへ入ると、白皙の美青年が颯太たちを待ち構えていた。
「遠路遥々お疲れ様」
物腰柔らかく、穏やかな笑みをたたえるその青年。
彼がペルゼミネの竜医なのだろうか。
そんな彼と、颯太の視線がぶつかり合った時――異変は起きた。
「あら、ハルヴァの竜医さんは女性だと聞いていたのに、随分と私好みの殿方がいらっしゃったわね」
「……え?」
颯太はもちろん、ブリギッテとカレンも固まる。
特徴的な青い長髪をサラッとかき上げたイケメン竜医だが、まさかのオネェ口調だった。
「あ、あの、あなたは?」
「やだ、私ったら、まだ自己紹介が済んでいなかったわね。私はペルゼミネ代表の竜医で名前はマシュー・マクレイグ。性別は男。好きな性別も男よ♪」
バチッとウィンクを決めるマシュー。
口調だけでなく中身もオネェだった。
熱っぽいウィンクの餌食となった颯太は、思考停止。変わって、ブリギッテが気を取り直して、たずねる。
「あ、あの、他の国の竜医の人は?」
「すでに準備万端よ。あとはあなたたちだけだったの」
いきなり真剣な表情になるオネェ系竜医のマシュー。
ということは、ダステニアとガドウィンの竜医はもう到着しているのか。待たせてしまうなんて悪いことをしてしまった。
「さあ、こっちだ」
マシューの後につき、建物2階にある部屋へ。
そこには、ダステニアとガドウィンから来たと思われる2人の竜医の姿があった。
すでに北方領ペルゼミネの国境は越えているが、本来ならここからさらに進んだ場所にあるもう少し規模の大きな村で宿を手配していた。だが、予定よりも進行に遅れが生じ、やむなくこの村で夜を過ごす運びとなったのである。
――が、数人の竜騎士だけは泊まらずそのまま進んだ。
命令違反ではなく、先にペルゼミネ入りさせて事情を説明するためだ。
「この人数だと野宿になるのか」
「宿屋には入りきれませんから仕方ありませんね」
「いえいえ、あなた方には宿屋を手配しているであります」
半ばあきらめかけていたところへファネルがそう伝えてくれる。しかし、
「え? 俺たちだけ?」
「ありがたいけど、なんだか悪いわ」
「我らは慣れておりますから」
ファネルの言う通り、竜騎士たちは村へ着くやいなやすぐさまテントの準備を始めた。そのテントも、旧レイノア王都奪還作戦の際に使用したものとは異なり、動物の毛で作られた代物だった。
「我が竜騎士団自慢の防寒性抜群テントでありますよ」
自慢げに語るファネル。
その後ろでは竜騎士たちがせっせとテントを設営していく。それが終わると今度は火を起こし、調理を開始した。宿屋の宿泊部屋の準備が整うまで、外でその様子を眺めていた颯太たちだったが、
「……なんだか、みんな生き生きとしてない?」
「今回の面子って、野営が趣味みたいな人の集まりだからねぇ……」
「なるほど。元気になるわけですね」
長旅になると見越しての人選なのだろう。
嬉々として野営に励む竜騎士たち。
たしかに、その表情は趣味を楽しんでいるという感じを受ける。
ポカンとその手際よい作業を見守っていた颯太たちのもとへ、1人の竜騎士が湯気の立つコルヒーの入ったコップを人数分持ってきてくれた。
「どうぞお飲みください。温まりますよ」
「あ、ありがとう」
支給された防寒具はフード付きのコートに手袋。そしてこの温かいコルヒー。さらに首を持ち上げて空を見れば、
「おぉ……」
たまらず、感嘆の声が漏れた。
白い吐息の向こう側に広がるのは、真っ黒なキャンパスに光り輝く宝石を散りばめたような満点の星空。
ハルヴァにいた時も夜空を見上げなかったわけじゃないし、その時も「凄い星空だ」と感心したものだ。
しかし、ペルゼミネは空気が澄んでいるのか、さらにハッキリと星の瞬きが視認できた。
星座には詳しくないので、星の並びが前にいた世界と同一であるか判断はできないが、その美しさは間違いなくこちらの世界の方が上だと思う。
「寒さも忘れる星空だな」
急遽泊まることになったダキル村で夜を越え――翌日早々に出発。
冷える気候はそのままだが、雪は止んでいる分、昨日よりも進みやすくなっていた。
そのまま北へ直進。
山を一つ越え、足を踏み入れるのをためらうほど美しい雪原を越えて行くと、
「! あれがペルゼミネの王都か!?」
窓から見える光景に、颯太はたまげた。
王都の規模がハルヴァよりも遥かに上だというのは聞いていたが、
「まさかここまで大きいとは……」
建物一つ一つのサイズがハルヴァよりもずっとデカい。
それに比例するかのように、人の数も桁違いだ。
舞踏会の日のハルヴァ王都に匹敵する人数なのだが、ブリギッテ曰く、これがペルゼミネでは一般的なのだと言う。
大きさもさることながら、颯太が目を引いたのは雪の中を走る鉄の塊――その形状から蒸気機関車のように見える。
颯太は隣に座るカレンにたずねた。
「あそこにあるのは?」
「トーレという乗り物ですね。貨物や人の運搬に使われるそうです」
地面に敷かれた鉄製のレールに駅のような建物もある。
それはまさに、颯太の知る「鉄道」そのものと言えた。
「ハルヴァではあれを造らないのか?」
「トーレを運用しているのはペルゼミネのみですね」
「どうして? 便利そうなのに」
「魔鉱石を動力としているそうですが、それ以外の詳細な情報は明かされていません。国家機密というヤツですね」
「魔鉱石……そんな物もあるのか」
「ハルヴァでは採掘されませんし、そもそもあれの年間維持費だけでハルヴァの国家予算がほとんど消し飛びますよ」
「そ、そんなにか……」
同じ4大国家という括りに収まっているとはいえ、技術的な面でも経済的な面でも、ペルゼミネはハルヴァの遥か先を進んでいる国だということだ。
颯太としてはもっといろいろと見て回りたかったが、今回は観光で来たわけではない。こちらが王都へ近づくと、ペルゼミネ側からも接触があった。
「あちらに馬を寄せてください」
誘導係のペルゼミネ兵に王都検査場へと案内され、ハルヴァの竜騎士たちが続々とペルゼミネ入りを果たしていく。馬や武器を持たない颯太たちは一足早く王都へと入ると、ある建物へと連れてこられた。
4階建ての石造り――ここに、ペルゼミネ国内で流行している病への対策を練るため、4大国家の竜医が集うことになっているらしい。
そこへ入ると、白皙の美青年が颯太たちを待ち構えていた。
「遠路遥々お疲れ様」
物腰柔らかく、穏やかな笑みをたたえるその青年。
彼がペルゼミネの竜医なのだろうか。
そんな彼と、颯太の視線がぶつかり合った時――異変は起きた。
「あら、ハルヴァの竜医さんは女性だと聞いていたのに、随分と私好みの殿方がいらっしゃったわね」
「……え?」
颯太はもちろん、ブリギッテとカレンも固まる。
特徴的な青い長髪をサラッとかき上げたイケメン竜医だが、まさかのオネェ口調だった。
「あ、あの、あなたは?」
「やだ、私ったら、まだ自己紹介が済んでいなかったわね。私はペルゼミネ代表の竜医で名前はマシュー・マクレイグ。性別は男。好きな性別も男よ♪」
バチッとウィンクを決めるマシュー。
口調だけでなく中身もオネェだった。
熱っぽいウィンクの餌食となった颯太は、思考停止。変わって、ブリギッテが気を取り直して、たずねる。
「あ、あの、他の国の竜医の人は?」
「すでに準備万端よ。あとはあなたたちだけだったの」
いきなり真剣な表情になるオネェ系竜医のマシュー。
ということは、ダステニアとガドウィンの竜医はもう到着しているのか。待たせてしまうなんて悪いことをしてしまった。
「さあ、こっちだ」
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