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【最終章③】魔竜討伐編
第232話 切り札
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「ちいっ!」
イネスが舌打ちをする。
それは戦っているメアたち竜人族へ向けられたものではない。その視線は城の外へと注がれていた。
「なんだ?」
颯太は気になり、隙を見て城の窓から外の様子をうかがう。
外は依然としてシャルルペトラをランスローとアーティーが説得しているという構図が広がっていた――が、わずかに動きがあったようだ。
「? シャルルペトラが動かない?」
キルカたちを苦戦させていたシャルルペトラに動きが見られない。一体何が起きたのか――そう思った次の瞬間、周りの騎士たちから一斉に歓声があがった。
「な、何が起きた!?」
その大きな声の波は、戦闘中のメアたち竜人族にも届いていた。
イネスのあの舌打ちは明らかにこの歓声に関係しているに違いない。イネスとって不都合なことで竜騎士団が歓喜する――それはつまり、
「シャルルの洗脳が解けたのか!!」
颯太の言葉に、戦っている竜騎士や竜人族からも思わず笑みがこぼれた。あのシャルルペトラの洗脳が解ければ、こちら側についてくれるのは間違いない。だとすれば、この戦いはすでに大勢が決したも同然だ。
これで残る標的はイネスのみとなった。
「みんな! あと少しだ! イネスを討ち取れば俺たちの勝ちだ!」
疲弊している竜騎士や竜人族たちを鼓舞するように、颯太は腹の底から叫んだ。
「今の話を聞いたな! 残る敵はヤツのみだ!」
銀竜メアンガルドが。
「妾たちの手で決着をつけるとしようか!」
雷竜エルメルガが。
「やってみせる」
影竜トリストンが。
「同志たちよ! 血の一滴が枯れ果てるまで存分に戦おうぞ!」
鎧竜フェイゼルタットが。
「ひとりではなくみんなでの勝利……悪くない響きだ」
焔竜ニクスオードが。
持てる力のすべてを吐き出して、イネスへと立ち向かっていく。
「これが最後なんだ……ここでイネスを倒せれば……」
颯太の切なる願いを叶えんと、連合竜騎士団の竜人族たちが束になってイネスへと押し寄せていく。――だが、
「おおおおおおおおおおおおおっっ!!!!」
イネスの気迫に、竜人族たちの足が止まる。
何事かと目を凝らす颯太――よく見ると、イネスの体が徐々に変色していっている。さらにその体はだんだんと巨大化していき、
「お、おいおい!?」
やがては部屋に収まり切れず、城壁を突き破った。
「このままここにいたんじゃまずい……シャオ・ラフマンは!?」
「す、すでにこちらに保護しています」
「よし! 俺たちは一旦ここを出よう!」
「ならば我ら竜人族が支援する! ただちにこの部屋から脱出するのだ!」
「ありがとう、メア!」
メアたちの援護を受けながら、颯太たちは急いで城からの脱出を試みる。
イネスは人間形態からドラゴン形態へと変身しようとしているらしかった。それだけならばたいしたことではないのだが、問題はその大きさだ。
「まさかあそこまで巨大なドラゴンだったなんて……」
メアやノエルのドラゴン形態など比べ物にならぬ巨体――それこそ、レグジートに匹敵するほどの巨大さであった。
なおも巨大化が止まらないイネス。もはや城内に安全な場所はなく、颯太たちは城外へ出ることを余儀なくされていた。
「しかし……なんてデカさだ」
「ここまで大きいドラゴンは見たことがないのぅ」
フェイゼルタットとエルメルガが呆気に取られるほど、ドラゴン形態のイネスの大きさは尋常ではなかった。
「大きいから良いというわけでもあるまい」
「その通り」
「同感だね。それに、ここでのドラゴン化は僕らが城外に出て、キルカジルカたちと合流する手伝いをしたようなものだ」
意外にも、魔竜イネスの巨体を前にした竜人族たちは落ち着いていた。
油断しているわけではない。
彼女たちは冷静に状況を分析していた。
そして、
「あれだけ大きければ変身にも時間がかかる――だが、悠長にそんな時間を待ってやれるほどに我らは優しくはない。……今がヤツにとどめを刺す絶好のチャンスだ」
メアは仲間たちにそう告げた。
◇◇◇
「な、なんだ、あれは!?」
シャルルペトラの説得に成功したランスローたちは、オロム城から突き出る巨大なドラゴンの姿に度肝を抜かれた。
「な、なんてデカさだ!?」
「あの城よりデカいじゃねぇか!!」
動揺する騎士たち。
だが、ミラルダとルコードは違った。
「位置からして、あれはイネスのようですね」
「だろうな」
妙に冷静でいられるのは、目の前に現れたドラゴンがあまりに現実離れしたサイズだったせいだろうか。ともかく、ルコードは周囲の騎士たちに怪我人を連れて撤退するように指示を出すと、自身は愛竜に跨って剣を抜いた。
「おいおい、あんなのと戦う気か? 命知らずもそこまでいくと病気だぞ?」
茶化すように、ミラルダは言う。
だが、ルコードの目は真剣そのものであった。
「あれだけのサイズのドラゴン……のさばらせておくと我々人間は――いや、ドラゴン以外の種族はすべて絶えてしまうでしょう」
「すべては餌になるというわけか。……まあ、そうなるだろうな。だからって、むやみやたらに突っ込むのを得策とは言わんぞ」
「そのことについてですが――私に策があります」
突如ふたりの会話に入って来た第3の声。
明らかに女声のものだと思われるその声の主に、さすがのルコードとミラルダも驚きを隠せなかった。
「母を――いえ、魔竜イネスは私自らの手で仕留めてみせます」
ルコードたちへ話しかけていたのはシャルルペトラであった。
イネスが舌打ちをする。
それは戦っているメアたち竜人族へ向けられたものではない。その視線は城の外へと注がれていた。
「なんだ?」
颯太は気になり、隙を見て城の窓から外の様子をうかがう。
外は依然としてシャルルペトラをランスローとアーティーが説得しているという構図が広がっていた――が、わずかに動きがあったようだ。
「? シャルルペトラが動かない?」
キルカたちを苦戦させていたシャルルペトラに動きが見られない。一体何が起きたのか――そう思った次の瞬間、周りの騎士たちから一斉に歓声があがった。
「な、何が起きた!?」
その大きな声の波は、戦闘中のメアたち竜人族にも届いていた。
イネスのあの舌打ちは明らかにこの歓声に関係しているに違いない。イネスとって不都合なことで竜騎士団が歓喜する――それはつまり、
「シャルルの洗脳が解けたのか!!」
颯太の言葉に、戦っている竜騎士や竜人族からも思わず笑みがこぼれた。あのシャルルペトラの洗脳が解ければ、こちら側についてくれるのは間違いない。だとすれば、この戦いはすでに大勢が決したも同然だ。
これで残る標的はイネスのみとなった。
「みんな! あと少しだ! イネスを討ち取れば俺たちの勝ちだ!」
疲弊している竜騎士や竜人族たちを鼓舞するように、颯太は腹の底から叫んだ。
「今の話を聞いたな! 残る敵はヤツのみだ!」
銀竜メアンガルドが。
「妾たちの手で決着をつけるとしようか!」
雷竜エルメルガが。
「やってみせる」
影竜トリストンが。
「同志たちよ! 血の一滴が枯れ果てるまで存分に戦おうぞ!」
鎧竜フェイゼルタットが。
「ひとりではなくみんなでの勝利……悪くない響きだ」
焔竜ニクスオードが。
持てる力のすべてを吐き出して、イネスへと立ち向かっていく。
「これが最後なんだ……ここでイネスを倒せれば……」
颯太の切なる願いを叶えんと、連合竜騎士団の竜人族たちが束になってイネスへと押し寄せていく。――だが、
「おおおおおおおおおおおおおっっ!!!!」
イネスの気迫に、竜人族たちの足が止まる。
何事かと目を凝らす颯太――よく見ると、イネスの体が徐々に変色していっている。さらにその体はだんだんと巨大化していき、
「お、おいおい!?」
やがては部屋に収まり切れず、城壁を突き破った。
「このままここにいたんじゃまずい……シャオ・ラフマンは!?」
「す、すでにこちらに保護しています」
「よし! 俺たちは一旦ここを出よう!」
「ならば我ら竜人族が支援する! ただちにこの部屋から脱出するのだ!」
「ありがとう、メア!」
メアたちの援護を受けながら、颯太たちは急いで城からの脱出を試みる。
イネスは人間形態からドラゴン形態へと変身しようとしているらしかった。それだけならばたいしたことではないのだが、問題はその大きさだ。
「まさかあそこまで巨大なドラゴンだったなんて……」
メアやノエルのドラゴン形態など比べ物にならぬ巨体――それこそ、レグジートに匹敵するほどの巨大さであった。
なおも巨大化が止まらないイネス。もはや城内に安全な場所はなく、颯太たちは城外へ出ることを余儀なくされていた。
「しかし……なんてデカさだ」
「ここまで大きいドラゴンは見たことがないのぅ」
フェイゼルタットとエルメルガが呆気に取られるほど、ドラゴン形態のイネスの大きさは尋常ではなかった。
「大きいから良いというわけでもあるまい」
「その通り」
「同感だね。それに、ここでのドラゴン化は僕らが城外に出て、キルカジルカたちと合流する手伝いをしたようなものだ」
意外にも、魔竜イネスの巨体を前にした竜人族たちは落ち着いていた。
油断しているわけではない。
彼女たちは冷静に状況を分析していた。
そして、
「あれだけ大きければ変身にも時間がかかる――だが、悠長にそんな時間を待ってやれるほどに我らは優しくはない。……今がヤツにとどめを刺す絶好のチャンスだ」
メアは仲間たちにそう告げた。
◇◇◇
「な、なんだ、あれは!?」
シャルルペトラの説得に成功したランスローたちは、オロム城から突き出る巨大なドラゴンの姿に度肝を抜かれた。
「な、なんてデカさだ!?」
「あの城よりデカいじゃねぇか!!」
動揺する騎士たち。
だが、ミラルダとルコードは違った。
「位置からして、あれはイネスのようですね」
「だろうな」
妙に冷静でいられるのは、目の前に現れたドラゴンがあまりに現実離れしたサイズだったせいだろうか。ともかく、ルコードは周囲の騎士たちに怪我人を連れて撤退するように指示を出すと、自身は愛竜に跨って剣を抜いた。
「おいおい、あんなのと戦う気か? 命知らずもそこまでいくと病気だぞ?」
茶化すように、ミラルダは言う。
だが、ルコードの目は真剣そのものであった。
「あれだけのサイズのドラゴン……のさばらせておくと我々人間は――いや、ドラゴン以外の種族はすべて絶えてしまうでしょう」
「すべては餌になるというわけか。……まあ、そうなるだろうな。だからって、むやみやたらに突っ込むのを得策とは言わんぞ」
「そのことについてですが――私に策があります」
突如ふたりの会話に入って来た第3の声。
明らかに女声のものだと思われるその声の主に、さすがのルコードとミラルダも驚きを隠せなかった。
「母を――いえ、魔竜イネスは私自らの手で仕留めてみせます」
ルコードたちへ話しかけていたのはシャルルペトラであった。
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