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【最終章②】竜王選戦編

第216話  《指揮官》高峰颯太

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「キルカ!」

 颯太がキルカの名を叫ぶが、吹っ飛ばされたキルカからの返事はない。
 
「こいつっ!」

 メアがキルカの仇を取らんとメアが仕掛けようとしたが、

「よせ!」
 
 制止したのはエルメルガだった。
 
「気をつけるのじゃ! あやつは――シャルルペトラは普通の竜人族を相手にするのとはわけが違う!」
「! やっぱりあいつがシャルルペトラか……」

 智竜シャルルペトラ。
 その実力は未知数でありながら、エルメルガの反応やこれまでの情報を合わせると相当強いというのは想像がついたが、よもやキルカを一撃で倒してしまうほどの実力者というのは想定外だった。

「今この場におる者たちで一斉にかからなければ――やられるのはこっちじゃ!」

 エルメルガの主張――それは決して大袈裟に聞こえなかった。それほどまでに、シャルルペトラの力は図抜けている。
 とはいえ、こちらにはメアをはじめ、合流した奏竜たちも合わせて多くの竜人族がいる。さらに、間もなく通常種を引き連れた竜騎士たちも到着する――それらすべてを同時に相手にするとなると、さすがにシャルルペトラでも苦戦は必至。

「まだまだ戦力は足りない状況か……」
「援軍なら間もなく到着するのです!」
「それまではうちらで時間を稼ぐとしますかね」

 そう言って、ローリージンとベイランダムが前に出る。
 2匹は自らランスロー到着までの時間稼ぎ役を買って出たのだ。

「おまえたち!? 危険じゃぞ!?」
「そんなことは百も承知なのです」
「それより、エルはさっさと諸悪の根源をなんとかしてきなさいよ」
「え?」

 ベイランダムの言う諸悪の根源――それは間違いなくイネスのことだろう。

「城内は複雑な構造になっているのです」
「そんな中、イネスのいる部屋まで案内できるヤツは――あんたしかいないでしょ? ――おまえもそう思うよな、ナインレウス」
「…………」
「頷いてばかりいないで少しは話しなさいよ」
「お主ら……」
  
 ローリージンとベイランダムとナインレウスの3匹はエルメルガに颯太たちを案内するよう願い出た。

「うちらの中で、イネスを止められそうなのはあんたとそこにいる銀竜くらいなんだから」
「ニクスたちのことも私たちに任せるのです」
「……わかった」

 動きを見せないシャルルペトラを警戒しつつ行われた話し合いの結論は出た。

「タカミネ・ソータさん――でしたよね?」
「な、何?」

 奏竜ローリージンが、颯太へ話しかける。

「ランスロー王子やフライア・ベルナールは今まで魔女イネスに操られ、各地で竜人族やドラゴンを襲撃していたようなのです。きっと、あのシャルルペトラもイネスに操られて正気を失っているのです」

 その点については颯太にも心当たりがあった。
 目の前にいるシャルルペトラには生気というか、自我が欠如しているように映った。それこそ、ローリージンが言ったように、誰かの指示を受けてその通りに行動しているロボットのような気さえしていたのだ。

「ランスロー王子たちが操られていた……」
「目的はさっぱりわからないけど、とにかく今は正気に戻ったみたいよ」
「じゃ、じゃあ――」
「だから、きっとシャルルペトラを説得してくれるはずなのです。あの人にとって、シャルルペトラは特別な存在なのです」

 ローリジンとベイランダムからもたらされた情報――ランスローが正気に戻ったということは、シャルルペトラを食い止めるのに朗報となる事実であった。
 さらに、

「……タカミネ・ソータよ」
「なんだ?」
「ここからは二手に分かれよう。妾がオロム城にいる魔女イネスのもとへとお主たちを案内する。魔法陣の破壊とシャルルペトラの足止めは他の竜人族と人間たちに任せ、妾たちは本命を討ちにいくのじゃ」
「し、しかし……」
「決断せよ。シャルルペトラ1匹に総崩れとなってはイネスを止めるどころではない」
「ソータ、エルメルガはなんと言ったのだ?」

 神妙な面持ちの颯太を見て、ルコードが声をかける。
 
「……時間がありません。ここは戦力を二分させようとエルメルガは提案しています」
「二分だと?」
「恐らく、あのシャルルペトラは操られています。――魔女イネスに」
「正気ではないということか」
「はい。ですので、俺と銀竜と雷竜――それと、何人かの騎士で魔女イネスを討ちに城内へ突入しようと」
「そうか。……君はどう見ている」
「俺ですか?」

 意見を求められた颯太は、間髪入れずに、

「その通りにすべきだと思います。……直感ですが」
「ならばそうしよう」

 正直に述べた颯太の決断に、ルコードも賛同した。

「し、しかし」
「竜人族との関わりについては我ら竜騎士団の思惑より君の直感の方が遥かに信用できるというものだ」
「ルコード騎士団長……」
「ここは我らに任せてもらおう。――竜人族たちと数名の騎士たちを君に預ける。君が指揮をとって魔女イネスを討ち取ってくれ」
「お、俺が……」

 事実上、魔女イネス討伐の指揮は颯太に委ねられることとなった。
 胸中を不安が渦巻く中、颯太についていく騎士たちは、

「あなたについていきます!」
「共に魔女イネスを打ち破りましょう!」

 初めて指揮をとるにも関わらず、これまでの功績から颯太へ信頼を寄せていた。さらに、同行する竜人族――メアとエルメルガは、

「頼んだぞ、ソータ」
「期待しておるからのぅ」

 そうエールを送った。

「……任せておけ!」

 プレッシャーをはねのけ、みんなの期待に応えるため、颯太は拳を握る。そこへ、

「間に合ったぜ!」

 飛び込むように颯太たちの前にやって来たのはイリウスだった。

「い、イリウス!? 一体どうしたんだ!?」
「ハドリーたちは鎧竜と焔竜の戦いで傷ついた兵士の手当てをしていてな」
「……その2匹の戦いの結果は?」
「鎧竜の勝ちだよ。俺と数匹のドラゴンが先行してこっちの援護をしに来たってわけだが……また新しい竜人族か。厄介そうな敵だな」
「ああ。――そうだ」

 鎧竜の勝利報告にホッとする颯太だが、すぐに自分に課せられた任務を思い出し、そして、

「イリウス、ここからは俺の足となってくれないか?」
「おまえの? 一体何があったんだよ」
「説明は進みながらする。……大役だぞ?」
「オーナー様にそう言われたんじゃあ、背中を貸さないわけにはいかないわな。――早く乗れよ」

 イリウスは事態を呑み込み、颯太へ背中に乗るよう促す。
 その鞍越しに感じる武骨な背中に腰を下ろすと、ルコードが近づいてきて、

「また生きて会おう。君とは一度、じっくり飲み交わしながら話をしたい」
「俺はお酒苦手なんですよ」
「奇遇だな。私もだ。ペルゼミネ産の特製のコルヒーでどうだろう?」
「そんな話を聞かされたら、絶対に生きて帰らないといけませんね」

 会話が終わると、颯太は深呼吸を挟んで、
 
「よし! 魔女イネスを討ち取るぞ! 全軍前進!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 馬車からイリウスに乗り換えた颯太と連合竜騎士団は、最後の戦いに挑むためオロム城内へと突き進んだ。
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