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【最終章②】竜王選戦編
第214話 メアの想い
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「銀竜……」
雷竜エルメルガの全身を取り巻く電気は、その感情に呼応するかのように威力が不安定になっていた。
銀竜メアンガルドのの強い意志を真正面から食らう形となったエルメルガには明らかに動揺の色が見られた。戦うことへ吹っ切れたメアとは明らかに気迫が違う。全身を覆う冷気は凄まじく、足元がだんだんと凍りついていくのが目に見えて確認できるほどだった。
物を凍らせるメアの銀竜としての能力――だが、今のメアの全身から溢れる冷気は、むしろ闘志の炎と呼んだ方が適切だと思えるくらいであった。
「……イケるぞ」
颯太は静かに勝利を確信していた。
颯太だけではない。
ブリギッテもルコードも――多くの竜騎士たちがメアの勝利が揺るぎないものであると見ていた。
「ゆくぞ!」
「来るがいい! 何度だって跳ね返してみせる!」
メアは言葉の通り、雷竜の攻撃をことごとくさばいてみせる。
どれだけ威力を上げようとも、メアはエルメルガの一歩も二歩も先を進んでいた。
「ぐっ!?」
エルメルガ自身も、その力の差を感じ始めていた。
そして、
「はあっ!」
再び、メアの強烈な蹴りが決まる。氷で強化された分、先ほどよりも威力は数倍上。今度ばかりはさすがの雷竜もすぐには立ち上がれなかった。
「ぐぅ……」
明白。
自分と銀竜との間にある力の壁の高さは目に見えて明らかとなってきた。
その差はなんなのだ?
いくら自問自答しても答えは出ない。――だが、
「いいぞ、銀竜!」
「その調子だ!」
周りで盛り上がる騎士たちに、手を振って答えるメア。
その光景が答えだった。
「守りたいモノ、か……」
自身になくて銀竜にあるモノ。
その差をようやく理解したエルメルガは、同時にこの戦いの勝敗がわかってしまった――どちらが勝者で、どちらが敗者であるかを。
これ以上戦闘を続けても――それはメアも同じであった。
誰もがメアの勝利を疑わない。
そんな中で、銀竜メアンガルドは驚くべき行動を取る。
「……もうよせ、エルメルガ」
「何じゃと?」
「今のおまえでは我には勝てん。――薄々気がついているのだろう?」
「!?」
構えた拳を下げて、エルメルガに降伏を迫ったのだ。
「ど、どうした? あと少しだというのになぜメアンガルドは構えを解いたのだ?」
「メアは……エルメルガへ降伏をするよう説得しています」
「何!?」
颯太からメアの行動の真意を聞いたルコードは驚きに目を見開いた。
先ほどまで命のやりとりをしていた相手に対し、自らが圧倒的優位な立場であることを確信しておきながら、銀竜は降伏を迫ったのだ。
「だ、だが、この場合、竜王選戦はどうなる?」
「メアには竜王の座なんて興味がないんですよ。あるのは人間と竜人族が平和に暮らせる世界を迎えるためにどうするか――その一点のみです」
「なるほど……その考えがあるなら、あの雷竜を説得してこちら側に引き入れるというのは悪くない手だが……果たしてあの雷竜が応じるか?」
それについては颯太も不安だった。
メアの考えは理解できるし賛同する。
かつての自分がそうであったように、人間を毛嫌いする雷竜――だが、この世界には悪い人間ばかりではなく、メアがハルヴァで出会ったような、心優しい人々も存在している。メアはそのことをエルメルガにもわかってもらいたかった。
互いをライバル視しているものの、心の底から嫌っているわけではない――少なくともメア自身はそうであった。
そもそも、本当に嫌っているのなら、ここまでこだわる必要はない。前回の戦いで勝利していた時にきっちりととどめを刺していたはずだ。それをしなかったのは完全決着ではないからだが――嫌いな相手に対してそこまでする義理はないだろう。
メアの想いを受け取った颯太は、
「エルメルガ、俺たちと一緒に来い」
一歩前に出て雷竜へ語りかけた。
「た、タカミネ・ソータ!? よせ! 危険だ!」
「ここは俺に任せてください、ルコード騎士団長」
止めようとするルコードを振り切って、颯太は前進。やがて、メアの隣へと並ぶ。このままではあの森の二の舞になりかねないが――エルメルガに動きはない。
「君と人間の間にどんな過去があったかはわからない。だけど、この場にいる者たちは全員本音を言うと君と戦いたくはないんだ。それは、君が強いからじゃない。メアが言っていたような未来を実現させるためにも、君をこれ以上傷つけたくはない」
「…………」
エルメルガは黙って颯太の言葉に耳を傾けている。
メアは、そんな大人しいエルメルガの態度を好機と見て、畳みかけるように続けた。
「エルメルガよ、我らにとっても人間にとっても、忌むべきはこの世界に不幸と混乱を招く魔族の方だ。魔族を駆逐するのに協力をしてほしい。――おまえが守るその建物の中に、魔族精製の魔法陣があるのだろう?」
メアの指摘は図星のようで、エルメルガは静かに頷いた。
「通してくれ。そして共に行こう。竜王選戦で命を賭けた戦いをするのではなく、友として互いを高め合うために戦う――それこそが、我らに相応しいあるべき姿だと思わないか?」
「っっ!?」
メアの最後の言葉が、エルメルガの心を撃ち抜いた。
同時に――エルメルガは自身の敗北を悟る。
「……妾の負けじゃ、銀竜よ。本当に強くなったのぅ」
「エルメルガ……」
「お主に追いつけ追い越せでこれまで生きてきたが……お主は妾とはまったく異なる新たな出会いを経て、さらに強くなっていたとはな……人間との友好的な関係か……」
エルメルガの全身からバチバチと音を立てていた電気が消え去る。
それから、チラリと颯太を一瞥して、
「妾にもできるかのぅ……銀竜のように」
「! できるさ!」
颯太はすぐさま答えた。
暗い洞窟から抜け出したメアのように、エルメルガもこれから「人と生きる」という新しい道を進むことができる。そして、颯太にはそれを応援できるレグジートからもらった「竜の言霊」という能力がある。
「俺たちと生きよう、エルメルガ」
颯太が伸ばした手を、エルメルガはしっかりと握り返した。
「和解成立……と見てよさそうだな」
ルコードの言葉を耳にした騎士たちは喜びを爆発させた。
「やったわね、メアちゃん!」
勝利の歓声に沸き上がる中、ブリギッテが成長したメアに抱きついて頭を撫でる。メアは身をよじりながらも嫌そうな顔はしていなかった。
「この空気……悪くはない」
雷竜が「ふっ」と小さく笑った――その直後、
ボオオン!
これまで耳にしたことがないような強烈な爆発音が響き渡る。
「な、何事だ!?」
ルコードが音のした方向――最後の城門の先にあるオロム城へ目を向けると、
「なんだ……あれは……」
その信じられない光景に目を疑うのだった。
雷竜エルメルガの全身を取り巻く電気は、その感情に呼応するかのように威力が不安定になっていた。
銀竜メアンガルドのの強い意志を真正面から食らう形となったエルメルガには明らかに動揺の色が見られた。戦うことへ吹っ切れたメアとは明らかに気迫が違う。全身を覆う冷気は凄まじく、足元がだんだんと凍りついていくのが目に見えて確認できるほどだった。
物を凍らせるメアの銀竜としての能力――だが、今のメアの全身から溢れる冷気は、むしろ闘志の炎と呼んだ方が適切だと思えるくらいであった。
「……イケるぞ」
颯太は静かに勝利を確信していた。
颯太だけではない。
ブリギッテもルコードも――多くの竜騎士たちがメアの勝利が揺るぎないものであると見ていた。
「ゆくぞ!」
「来るがいい! 何度だって跳ね返してみせる!」
メアは言葉の通り、雷竜の攻撃をことごとくさばいてみせる。
どれだけ威力を上げようとも、メアはエルメルガの一歩も二歩も先を進んでいた。
「ぐっ!?」
エルメルガ自身も、その力の差を感じ始めていた。
そして、
「はあっ!」
再び、メアの強烈な蹴りが決まる。氷で強化された分、先ほどよりも威力は数倍上。今度ばかりはさすがの雷竜もすぐには立ち上がれなかった。
「ぐぅ……」
明白。
自分と銀竜との間にある力の壁の高さは目に見えて明らかとなってきた。
その差はなんなのだ?
いくら自問自答しても答えは出ない。――だが、
「いいぞ、銀竜!」
「その調子だ!」
周りで盛り上がる騎士たちに、手を振って答えるメア。
その光景が答えだった。
「守りたいモノ、か……」
自身になくて銀竜にあるモノ。
その差をようやく理解したエルメルガは、同時にこの戦いの勝敗がわかってしまった――どちらが勝者で、どちらが敗者であるかを。
これ以上戦闘を続けても――それはメアも同じであった。
誰もがメアの勝利を疑わない。
そんな中で、銀竜メアンガルドは驚くべき行動を取る。
「……もうよせ、エルメルガ」
「何じゃと?」
「今のおまえでは我には勝てん。――薄々気がついているのだろう?」
「!?」
構えた拳を下げて、エルメルガに降伏を迫ったのだ。
「ど、どうした? あと少しだというのになぜメアンガルドは構えを解いたのだ?」
「メアは……エルメルガへ降伏をするよう説得しています」
「何!?」
颯太からメアの行動の真意を聞いたルコードは驚きに目を見開いた。
先ほどまで命のやりとりをしていた相手に対し、自らが圧倒的優位な立場であることを確信しておきながら、銀竜は降伏を迫ったのだ。
「だ、だが、この場合、竜王選戦はどうなる?」
「メアには竜王の座なんて興味がないんですよ。あるのは人間と竜人族が平和に暮らせる世界を迎えるためにどうするか――その一点のみです」
「なるほど……その考えがあるなら、あの雷竜を説得してこちら側に引き入れるというのは悪くない手だが……果たしてあの雷竜が応じるか?」
それについては颯太も不安だった。
メアの考えは理解できるし賛同する。
かつての自分がそうであったように、人間を毛嫌いする雷竜――だが、この世界には悪い人間ばかりではなく、メアがハルヴァで出会ったような、心優しい人々も存在している。メアはそのことをエルメルガにもわかってもらいたかった。
互いをライバル視しているものの、心の底から嫌っているわけではない――少なくともメア自身はそうであった。
そもそも、本当に嫌っているのなら、ここまでこだわる必要はない。前回の戦いで勝利していた時にきっちりととどめを刺していたはずだ。それをしなかったのは完全決着ではないからだが――嫌いな相手に対してそこまでする義理はないだろう。
メアの想いを受け取った颯太は、
「エルメルガ、俺たちと一緒に来い」
一歩前に出て雷竜へ語りかけた。
「た、タカミネ・ソータ!? よせ! 危険だ!」
「ここは俺に任せてください、ルコード騎士団長」
止めようとするルコードを振り切って、颯太は前進。やがて、メアの隣へと並ぶ。このままではあの森の二の舞になりかねないが――エルメルガに動きはない。
「君と人間の間にどんな過去があったかはわからない。だけど、この場にいる者たちは全員本音を言うと君と戦いたくはないんだ。それは、君が強いからじゃない。メアが言っていたような未来を実現させるためにも、君をこれ以上傷つけたくはない」
「…………」
エルメルガは黙って颯太の言葉に耳を傾けている。
メアは、そんな大人しいエルメルガの態度を好機と見て、畳みかけるように続けた。
「エルメルガよ、我らにとっても人間にとっても、忌むべきはこの世界に不幸と混乱を招く魔族の方だ。魔族を駆逐するのに協力をしてほしい。――おまえが守るその建物の中に、魔族精製の魔法陣があるのだろう?」
メアの指摘は図星のようで、エルメルガは静かに頷いた。
「通してくれ。そして共に行こう。竜王選戦で命を賭けた戦いをするのではなく、友として互いを高め合うために戦う――それこそが、我らに相応しいあるべき姿だと思わないか?」
「っっ!?」
メアの最後の言葉が、エルメルガの心を撃ち抜いた。
同時に――エルメルガは自身の敗北を悟る。
「……妾の負けじゃ、銀竜よ。本当に強くなったのぅ」
「エルメルガ……」
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それから、チラリと颯太を一瞥して、
「妾にもできるかのぅ……銀竜のように」
「! できるさ!」
颯太はすぐさま答えた。
暗い洞窟から抜け出したメアのように、エルメルガもこれから「人と生きる」という新しい道を進むことができる。そして、颯太にはそれを応援できるレグジートからもらった「竜の言霊」という能力がある。
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勝利の歓声に沸き上がる中、ブリギッテが成長したメアに抱きついて頭を撫でる。メアは身をよじりながらも嫌そうな顔はしていなかった。
「この空気……悪くはない」
雷竜が「ふっ」と小さく笑った――その直後、
ボオオン!
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