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第50話 相談
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夜の学園街に繰り出した俺とサラは、以前訪れたあの食堂へと入る。
「おや、また来てくれたのかい」
中へ入ると、気さくな店主が声をかけてくれた。常連のサラはもちろんだが、俺のことも覚えていてくれたらしい。
前回と同じテーブル席に座ると、早速お酒と料理を注文。今回は少々真面目な話になると思うので、アルコールは控えめにしておく。
「あなたの方から誘ってくれるなんて思わなかったわ」
「えっ? そう?」
「なんだかんだ言って忘れられちゃうんじゃないかって」
「ははは、さすがにそれはないよ」
サラとの付き合いは長い。
それこそ、【星鯨】ではパーティー結成当初のメンバーを除くと一番長いんじゃないかな。俺が鍛えた若者たちとはその後なかなか顔を合わせることがなかったし。まあ、冒険者としての仕事が忙しいから、それは仕方がないんだけど。
「それで、何が気になっているの?」
「今年入った一年生についてなんだ」
俺が「一年生」というワードを出した途端、サラの動きがピタッと一瞬だけ止まる。どうやら、心当たりはあるらしい。
「あぁ……もしかして、ニコールの件?」
「やっぱり知っていたのか」
「職員は大体知っているわよ」
それもそうか。
滅多にある特性じゃないからなぁ。
「あなたもしかして……育成スキルでニコールに魔力を与えるつもり?」
「さすがにそこまで万能じゃないよ」
育成スキルは、あくまでも対象者が持つ資質を最大限に発揮できるようになるためのサポートがメイン。最初から持っていない力を引きださせることはできないのだ。
「やっぱりそううまくはいかないか」
「まあな。でも、あのままにはしておけないかなって」
「それはそうね。私は二年生の受け持ちだからそこまで詳しくはないけど……あの子、かなり複雑な生い立ちらしいの」
施設育ちって話だからなぁ。
ただ、さっきの言い方だと施設の人たちには感謝しているように思えた。脅迫されているわけでもなく、自分の意志で学園に入っている。学園で活躍できることが、自分を育ててくれた人たちへの恩返しだと思っていたのだろう。
――だが、魔力がないという事実を突きつけられ、自暴自棄になっていた。
なんとか踏みとどまれたように見えたが……問題はここからだ。
どうやって彼女に自信を持ってもらうか。
それも、見せかけだけではない。
キチンとした実績が生まれるよう、確かな力を身につけなくてはならなかった。
「魔力がなくてもできること、か……」
「まあ、無難なのは剣術を極めて騎士になるってところかしら」
「やっぱりそれしかないかな」
剣術をどこまで極められるのか――それにもよるな。
まだ学園も始まったばかりで、彼女の剣術の腕もよく分かっていないし。一度、育成スキルを使いながら試してみるか。
「そういえば、例の事件について何か進展はあったのか?」
ふと気になって、俺はダンジョンで起きた事件の真相について判明していることはないか尋ねてみる――すると、
「それが……意外なことが分かったの」
神妙な面持ちで、サラはそう語った。
「おや、また来てくれたのかい」
中へ入ると、気さくな店主が声をかけてくれた。常連のサラはもちろんだが、俺のことも覚えていてくれたらしい。
前回と同じテーブル席に座ると、早速お酒と料理を注文。今回は少々真面目な話になると思うので、アルコールは控えめにしておく。
「あなたの方から誘ってくれるなんて思わなかったわ」
「えっ? そう?」
「なんだかんだ言って忘れられちゃうんじゃないかって」
「ははは、さすがにそれはないよ」
サラとの付き合いは長い。
それこそ、【星鯨】ではパーティー結成当初のメンバーを除くと一番長いんじゃないかな。俺が鍛えた若者たちとはその後なかなか顔を合わせることがなかったし。まあ、冒険者としての仕事が忙しいから、それは仕方がないんだけど。
「それで、何が気になっているの?」
「今年入った一年生についてなんだ」
俺が「一年生」というワードを出した途端、サラの動きがピタッと一瞬だけ止まる。どうやら、心当たりはあるらしい。
「あぁ……もしかして、ニコールの件?」
「やっぱり知っていたのか」
「職員は大体知っているわよ」
それもそうか。
滅多にある特性じゃないからなぁ。
「あなたもしかして……育成スキルでニコールに魔力を与えるつもり?」
「さすがにそこまで万能じゃないよ」
育成スキルは、あくまでも対象者が持つ資質を最大限に発揮できるようになるためのサポートがメイン。最初から持っていない力を引きださせることはできないのだ。
「やっぱりそううまくはいかないか」
「まあな。でも、あのままにはしておけないかなって」
「それはそうね。私は二年生の受け持ちだからそこまで詳しくはないけど……あの子、かなり複雑な生い立ちらしいの」
施設育ちって話だからなぁ。
ただ、さっきの言い方だと施設の人たちには感謝しているように思えた。脅迫されているわけでもなく、自分の意志で学園に入っている。学園で活躍できることが、自分を育ててくれた人たちへの恩返しだと思っていたのだろう。
――だが、魔力がないという事実を突きつけられ、自暴自棄になっていた。
なんとか踏みとどまれたように見えたが……問題はここからだ。
どうやって彼女に自信を持ってもらうか。
それも、見せかけだけではない。
キチンとした実績が生まれるよう、確かな力を身につけなくてはならなかった。
「魔力がなくてもできること、か……」
「まあ、無難なのは剣術を極めて騎士になるってところかしら」
「やっぱりそれしかないかな」
剣術をどこまで極められるのか――それにもよるな。
まだ学園も始まったばかりで、彼女の剣術の腕もよく分かっていないし。一度、育成スキルを使いながら試してみるか。
「そういえば、例の事件について何か進展はあったのか?」
ふと気になって、俺はダンジョンで起きた事件の真相について判明していることはないか尋ねてみる――すると、
「それが……意外なことが分かったの」
神妙な面持ちで、サラはそう語った。
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