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第22話 編入試験
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カルドア王立魔剣学園への編入をかけて、リゲルはスミス副学園長と実戦形式の鍛錬を行うことになった。
急遽決まったこの対戦カードに、学園は騒然となる。
これから新学期が始まるという日なので、ほぼすべての学生が敷地内に揃っていた。その影響もあって、闘技場はこれまでにないほどの人でごった返している。
「なんだか大変なことになっているわね……」
「ああ……未だに信じられないよ」
俺はリゲルをサポートするため、戦闘が行われるステージの脇で見守っているのだが、そこへ話を聞きつけたサラがやってきた。
おまけに、なぜか闘技場に来るのを嫌がっていたラドルフも連れている。
「ラドルフ? どうしたんだ?」
「この吾輩を非常食呼ばわりしたヤツがスミス副学園長にボコボコにされるところを見に来たのにゃ」
……いい性格しているよ、ホント。
それと、スミス副学園長って相当強いらしい。元カルドア王国魔法兵団のエースという肩書があり、少数部隊を率いてワイバーンの討伐に成功した実績もあるという。
年齢的に、全盛期のような動きはできないのだろうが、あの威圧感を思い出すと油断はできない。もっとも、これについてはリゲルも肌で感じているはずだ。
闘技場でのルールにのっとり、両者の全身は魔法によるシールドで守られる。ダメージはその威力によって数値化され、先に規定値へ到達した者が敗者となる仕組みだ。
しかし、今回は突発的に行われる編入試験。
そのため、特別ルールが設けられることになった。
「私に勝てとは言わん。――一撃。一撃打ち込むことができれば合格としよう」
「分かった」
短く返事をしてから、リゲルは剣を抜いて構える。
「む?」
観戦している学生や職員の多くは気づいていないようだが……スミス副学園長は構えただけでリゲルの実力を把握したようだ。
それから、スミス副学園長の構えが変わる。
さっきまでより、彼の本気度が伝わってきた。
「スミス副学園長……なんだかいつもと雰囲気が違う気がする……たまに学生の鍛錬に付き合うことがあるけど、あそこまで緊迫した気配を出したことなんてなかったわ」
「最初は稽古をつけてやろうってくらいの気持ちだったんだろうけど、それだとあっさり決着がつくと思ったんじゃないかな」
「あっさりって……」
「もちろん、真正面からぶつかって戦った場合は副学園長の方が勝つだろう。――ただ、さっき言ったように、限られたルールの中で戦えばどうなるか分からないって話だよ」
彼は【星鯨】に入ってきた時からすでに完成していると言っていいほど、あらゆる面の資質が高かった。しかし、それはあくまでもポテンシャルのみの話。あの状態からさらに鍛錬を積み重ねていくことで、もっと高みへと行ける――リゲルと初めて会った時にそう感じたのを思い出した。
「どうした? 怖気づいたか?」
なかなか攻め込んでこないリゲルに対し、副学園長は挑発をかける。
どうやら、リゲルも副学園長が只者ではないと理解しているようだな。
迂闊に仕掛ければカウンターを食らう。
特に最初の一手は慎重にならざるを得ない。
「野性的だと思っていたが、なかなかに計算高いようだな。……しかし、それでは生き残れんぞ」
そう告げた直後、スミス副学園長が動く。
二メートル近い巨体でありながら、驚くほど俊敏な動き。リゲルは攻撃をうまくさばけてはいるものの、反撃できない防戦一方の状態だった。
……というか、この人って元魔法兵団所属のはずだから、本職は騎士ではなく魔法使いなんだよな。これもハンデのうちなのだろう。しかし、それでいてあの強さなのだから「凄い」のひと言だ。
攻撃に耐え続けるリゲルだが、決してやられっぱなしというわけじゃない。
はた目から見るとガードするのが精一杯に映るかもしれないが……彼は静かに機をうかがっている。
とはいえ、相手は副学園長で元魔法兵団のエース。
本職ではない剣術での戦いではあるが、そう簡単に隙を見せるとも思えない。
仮に、隙があったとしても、それは相手を逃げ場のない懐に誘い込むための罠である可能性もあった。
敵が強ければ強いほど、すべての行動が疑心暗鬼となる。
それは人間に限らず、モンスターとの戦闘でも同じことが言えた。
ダンジョンでは常に油断するなと口酸っぱく教えていたが……どうやら、その教えは彼の中に浸透しているようだ。
懐かしさに浸っていると、両者の戦いに大きな動きが見えた。
「ふん!」
副学園長が振り下ろした剣をギリギリまで引きつけて回避したリゲルは、その反動を利用して手元に攻撃を加える。
「うぐっ!?」
短いうめき声が聞こえたとほぼ同時に、副学園長の手にしていた剣が弧を描いて宙を舞い、地面に突き刺さった。
そして――
「俺の勝ちだ」
リゲルは静かに勝利宣言をするのだった。
※このあと21:00にも投稿予定!
急遽決まったこの対戦カードに、学園は騒然となる。
これから新学期が始まるという日なので、ほぼすべての学生が敷地内に揃っていた。その影響もあって、闘技場はこれまでにないほどの人でごった返している。
「なんだか大変なことになっているわね……」
「ああ……未だに信じられないよ」
俺はリゲルをサポートするため、戦闘が行われるステージの脇で見守っているのだが、そこへ話を聞きつけたサラがやってきた。
おまけに、なぜか闘技場に来るのを嫌がっていたラドルフも連れている。
「ラドルフ? どうしたんだ?」
「この吾輩を非常食呼ばわりしたヤツがスミス副学園長にボコボコにされるところを見に来たのにゃ」
……いい性格しているよ、ホント。
それと、スミス副学園長って相当強いらしい。元カルドア王国魔法兵団のエースという肩書があり、少数部隊を率いてワイバーンの討伐に成功した実績もあるという。
年齢的に、全盛期のような動きはできないのだろうが、あの威圧感を思い出すと油断はできない。もっとも、これについてはリゲルも肌で感じているはずだ。
闘技場でのルールにのっとり、両者の全身は魔法によるシールドで守られる。ダメージはその威力によって数値化され、先に規定値へ到達した者が敗者となる仕組みだ。
しかし、今回は突発的に行われる編入試験。
そのため、特別ルールが設けられることになった。
「私に勝てとは言わん。――一撃。一撃打ち込むことができれば合格としよう」
「分かった」
短く返事をしてから、リゲルは剣を抜いて構える。
「む?」
観戦している学生や職員の多くは気づいていないようだが……スミス副学園長は構えただけでリゲルの実力を把握したようだ。
それから、スミス副学園長の構えが変わる。
さっきまでより、彼の本気度が伝わってきた。
「スミス副学園長……なんだかいつもと雰囲気が違う気がする……たまに学生の鍛錬に付き合うことがあるけど、あそこまで緊迫した気配を出したことなんてなかったわ」
「最初は稽古をつけてやろうってくらいの気持ちだったんだろうけど、それだとあっさり決着がつくと思ったんじゃないかな」
「あっさりって……」
「もちろん、真正面からぶつかって戦った場合は副学園長の方が勝つだろう。――ただ、さっき言ったように、限られたルールの中で戦えばどうなるか分からないって話だよ」
彼は【星鯨】に入ってきた時からすでに完成していると言っていいほど、あらゆる面の資質が高かった。しかし、それはあくまでもポテンシャルのみの話。あの状態からさらに鍛錬を積み重ねていくことで、もっと高みへと行ける――リゲルと初めて会った時にそう感じたのを思い出した。
「どうした? 怖気づいたか?」
なかなか攻め込んでこないリゲルに対し、副学園長は挑発をかける。
どうやら、リゲルも副学園長が只者ではないと理解しているようだな。
迂闊に仕掛ければカウンターを食らう。
特に最初の一手は慎重にならざるを得ない。
「野性的だと思っていたが、なかなかに計算高いようだな。……しかし、それでは生き残れんぞ」
そう告げた直後、スミス副学園長が動く。
二メートル近い巨体でありながら、驚くほど俊敏な動き。リゲルは攻撃をうまくさばけてはいるものの、反撃できない防戦一方の状態だった。
……というか、この人って元魔法兵団所属のはずだから、本職は騎士ではなく魔法使いなんだよな。これもハンデのうちなのだろう。しかし、それでいてあの強さなのだから「凄い」のひと言だ。
攻撃に耐え続けるリゲルだが、決してやられっぱなしというわけじゃない。
はた目から見るとガードするのが精一杯に映るかもしれないが……彼は静かに機をうかがっている。
とはいえ、相手は副学園長で元魔法兵団のエース。
本職ではない剣術での戦いではあるが、そう簡単に隙を見せるとも思えない。
仮に、隙があったとしても、それは相手を逃げ場のない懐に誘い込むための罠である可能性もあった。
敵が強ければ強いほど、すべての行動が疑心暗鬼となる。
それは人間に限らず、モンスターとの戦闘でも同じことが言えた。
ダンジョンでは常に油断するなと口酸っぱく教えていたが……どうやら、その教えは彼の中に浸透しているようだ。
懐かしさに浸っていると、両者の戦いに大きな動きが見えた。
「ふん!」
副学園長が振り下ろした剣をギリギリまで引きつけて回避したリゲルは、その反動を利用して手元に攻撃を加える。
「うぐっ!?」
短いうめき声が聞こえたとほぼ同時に、副学園長の手にしていた剣が弧を描いて宙を舞い、地面に突き刺さった。
そして――
「俺の勝ちだ」
リゲルは静かに勝利宣言をするのだった。
※このあと21:00にも投稿予定!
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