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第2話 再就職先
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元同僚であるサラから勧められた俺の再就職先――それはまさかの王立魔剣学園寮の管理人だった。
「先月までやっていた管理人さんが高齢を理由に退職されて、未だに後任が決まっていないのよ。今は教員で回しているけど、さすがに難しくなってきたから」
「いやいや、ちょっと待ってくれ。俺なんかに王立学園寮の管理人なんて務まると思えないのだが?」
王立魔剣学園といえば、地位や種族に関係なく、優れた人材を育成する教育機関――そんな将来有望な若者たちが集う場に、くたびれた二十代後半のしがない冒険者である俺なんかが行っても役に立てるとは思えない。
だが、サラの勧誘熱は衰える素振りを見せない。
「でも環境としては快適よ? 管理人用の小屋は生活するのに不自由ない広さがあるし、おまけに学生食堂で三食付き。いろいろと覚えなくちゃいけないルールはあるけど……それでも給金も考慮したら十分だと思うわ」
……サラの言う通り、再就職先としてはこれほど魅力のある職場もない。
何より食と住が確保されているというのが素晴らしい。給料から家賃やら食費は引かれるのだろうけど、それでもありがたい限りだ。
さらに、ここでミアン様が説得に加わった。
「私もあなたを管理人にするよう口添えするつもりでいます」
「えっ!? ミ、ミアン様もですか!?」
「あなたは暴走する馬車から身を挺して守ってくださいました。いざという時ほど、人間の本質が出る――それがお父様の口癖でもあるんです」
お父様って……ローランズ家の当主か。噂では相当のヤリ手らしいが……なるほど。長い貴族人生から得られた知識ってことらしいけど、個人的には的を射ていると思う。
「サラ先生から聞いた人柄と、こうして顔を合わせながお話をした結果――あなたになら学園寮の管理人を任せられると思っています」
公爵家のご令嬢からもこうしてお墨付き……どうやら、サラの様子を見る限り、それだけじゃないようだ。
「私としては、あなたの育成スキルも非常に重要な役割を果たせると思うの」
「俺の育成スキルが? ……まさか、それで生徒を育成してくれと?」
「さすがにそれは学園長の判断を仰がないと何とも言えないわね。でも、弱点や適性を見抜く能力は、【星鯨】にいた頃から群を抜いていたじゃない」
それが育成スキルの良い点でもある。
実際に戦闘し、得られる経験値を増やして個人の力を強化していく――それが世間一般の抱く育成スキルの姿だろう。
だが、実際の育成スキルはそれだけにとどまらない。
中でも、俺がもっとも得意としていたのはその適性判断だ。
剣術でも魔法でも、自分に向いている分野というものが存在している。多くの者がそれをしっかりと把握しきれていないため、うまく成長しきれないのだ。
だが、おれの育成スキルであればそれを的確に捉え、相手に伝えることができる。
【星鯨】の面々も、そうやって長所を伸ばして成長していったのだ。
サラが俺に求めているのはその部分だろう。
直接指導するのは何かと問題が出てくる――だが、俺が生徒の得意な分野を把握していれば正しく力を伸ばせるというわけだ。
「俺の育成スキルが……また誰かの役に立てるのか……?」
これまでの話を振り返ると、そんな答えに行き着く。
……どうやら、その見立ては間違いではないようだ。
「自信を持って。あなたの持つ育成スキルはとても素晴らしいものだわ。その真価を理解できないブリングたちにはもったいないくらいよ」
「サラ……」
かつて、ともに【星鯨】のメンバーとして危険なダンジョンに潜っていた仲間からの温かい言葉……そういえば、最近はこういうふうに声をかけられる機会も減っている気がする。
そんな状態で面と向かいハッキリと言われたものだから、思わずドキッとしてしまった。
「ありがとう、サラ。おかげで少し自信が出てきたよ」
「それじゃあ!」
「もっと詳しい話を聞かせてほしい。学園寮の件……真剣に考えたいと思うんだ」
「もちろんよ!」
俺が管理人となることに前向きであることを知ったレシュマは笑顔で言う。隣でお茶をすするミアン様も満足げな表情だ。
とりあえず、この日はこれで解散という運びとなった。
サラはこれからミアン様を学園へと送り、それから学園長に話を持ちかけるという。
ちなみに、なぜ公爵家令嬢であるミアン様が王都にいたのかというと――単にお買い物がしたかっただけらしい。サラはそのお目付け役としてついてきたという。
「普段は学園の敷地内にある街で済ませるんだけど、ここにしかない限定商品があるとかで朝早くから一緒に行動しているの」
「なるほど――って、学園の敷地内に街?」
「えぇ。学園街と言って、いろんなお店が入っているわ」
お店の種類というより、学園の敷地内に街があるという事実に俺は唖然としていた。
そ、そんなに大規模なのか……恐るべし、学園街。
ともかく、サラは学園長の返事がどうであろうと、明日には俺の泊まる宿屋を訪ねると約束し、ミアン様を連れてベルテを去った。
「なんだか……今でもちょっと信じられないな」
学園長のひと言でこの話はあっさりと流れてしまうってことも十分考えられるのだが……そこはサラがなんとしそうな予感がしていた。昔から口がうまいからなぁ、あいつは。
「今日のところは大人しく宿へ戻るか……」
しばらくその場に立ち尽くしていた俺だったが、ダンジョンから戻ってきた冒険者たちで賑わいが出てきたのをきっかけに意識を取り戻し、宿へと戻ったのだった。
「先月までやっていた管理人さんが高齢を理由に退職されて、未だに後任が決まっていないのよ。今は教員で回しているけど、さすがに難しくなってきたから」
「いやいや、ちょっと待ってくれ。俺なんかに王立学園寮の管理人なんて務まると思えないのだが?」
王立魔剣学園といえば、地位や種族に関係なく、優れた人材を育成する教育機関――そんな将来有望な若者たちが集う場に、くたびれた二十代後半のしがない冒険者である俺なんかが行っても役に立てるとは思えない。
だが、サラの勧誘熱は衰える素振りを見せない。
「でも環境としては快適よ? 管理人用の小屋は生活するのに不自由ない広さがあるし、おまけに学生食堂で三食付き。いろいろと覚えなくちゃいけないルールはあるけど……それでも給金も考慮したら十分だと思うわ」
……サラの言う通り、再就職先としてはこれほど魅力のある職場もない。
何より食と住が確保されているというのが素晴らしい。給料から家賃やら食費は引かれるのだろうけど、それでもありがたい限りだ。
さらに、ここでミアン様が説得に加わった。
「私もあなたを管理人にするよう口添えするつもりでいます」
「えっ!? ミ、ミアン様もですか!?」
「あなたは暴走する馬車から身を挺して守ってくださいました。いざという時ほど、人間の本質が出る――それがお父様の口癖でもあるんです」
お父様って……ローランズ家の当主か。噂では相当のヤリ手らしいが……なるほど。長い貴族人生から得られた知識ってことらしいけど、個人的には的を射ていると思う。
「サラ先生から聞いた人柄と、こうして顔を合わせながお話をした結果――あなたになら学園寮の管理人を任せられると思っています」
公爵家のご令嬢からもこうしてお墨付き……どうやら、サラの様子を見る限り、それだけじゃないようだ。
「私としては、あなたの育成スキルも非常に重要な役割を果たせると思うの」
「俺の育成スキルが? ……まさか、それで生徒を育成してくれと?」
「さすがにそれは学園長の判断を仰がないと何とも言えないわね。でも、弱点や適性を見抜く能力は、【星鯨】にいた頃から群を抜いていたじゃない」
それが育成スキルの良い点でもある。
実際に戦闘し、得られる経験値を増やして個人の力を強化していく――それが世間一般の抱く育成スキルの姿だろう。
だが、実際の育成スキルはそれだけにとどまらない。
中でも、俺がもっとも得意としていたのはその適性判断だ。
剣術でも魔法でも、自分に向いている分野というものが存在している。多くの者がそれをしっかりと把握しきれていないため、うまく成長しきれないのだ。
だが、おれの育成スキルであればそれを的確に捉え、相手に伝えることができる。
【星鯨】の面々も、そうやって長所を伸ばして成長していったのだ。
サラが俺に求めているのはその部分だろう。
直接指導するのは何かと問題が出てくる――だが、俺が生徒の得意な分野を把握していれば正しく力を伸ばせるというわけだ。
「俺の育成スキルが……また誰かの役に立てるのか……?」
これまでの話を振り返ると、そんな答えに行き着く。
……どうやら、その見立ては間違いではないようだ。
「自信を持って。あなたの持つ育成スキルはとても素晴らしいものだわ。その真価を理解できないブリングたちにはもったいないくらいよ」
「サラ……」
かつて、ともに【星鯨】のメンバーとして危険なダンジョンに潜っていた仲間からの温かい言葉……そういえば、最近はこういうふうに声をかけられる機会も減っている気がする。
そんな状態で面と向かいハッキリと言われたものだから、思わずドキッとしてしまった。
「ありがとう、サラ。おかげで少し自信が出てきたよ」
「それじゃあ!」
「もっと詳しい話を聞かせてほしい。学園寮の件……真剣に考えたいと思うんだ」
「もちろんよ!」
俺が管理人となることに前向きであることを知ったレシュマは笑顔で言う。隣でお茶をすするミアン様も満足げな表情だ。
とりあえず、この日はこれで解散という運びとなった。
サラはこれからミアン様を学園へと送り、それから学園長に話を持ちかけるという。
ちなみに、なぜ公爵家令嬢であるミアン様が王都にいたのかというと――単にお買い物がしたかっただけらしい。サラはそのお目付け役としてついてきたという。
「普段は学園の敷地内にある街で済ませるんだけど、ここにしかない限定商品があるとかで朝早くから一緒に行動しているの」
「なるほど――って、学園の敷地内に街?」
「えぇ。学園街と言って、いろんなお店が入っているわ」
お店の種類というより、学園の敷地内に街があるという事実に俺は唖然としていた。
そ、そんなに大規模なのか……恐るべし、学園街。
ともかく、サラは学園長の返事がどうであろうと、明日には俺の泊まる宿屋を訪ねると約束し、ミアン様を連れてベルテを去った。
「なんだか……今でもちょっと信じられないな」
学園長のひと言でこの話はあっさりと流れてしまうってことも十分考えられるのだが……そこはサラがなんとしそうな予感がしていた。昔から口がうまいからなぁ、あいつは。
「今日のところは大人しく宿へ戻るか……」
しばらくその場に立ち尽くしていた俺だったが、ダンジョンから戻ってきた冒険者たちで賑わいが出てきたのをきっかけに意識を取り戻し、宿へと戻ったのだった。
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