リュドミラの恋占い~身代わりの花嫁は国王陛下の番となる~

二階堂まや

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♡絡まり合う鎖

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「……ヴィルヘルム様」

「ん、どうした?」

「その……」

 やんわりとヴィルヘルムの手を肉の花弁から外し、私は自らの指で蜜花を開いた。

「じ、自分でこうして……押さえてますので……っ」

 まるで、自ら股を開いているかのようないやらしい姿である。当然ながら、たまらなく恥ずかしい。しかし、なるべくヴィルヘルムに痛い思いをさせたくなかったのだ。

「……会わない間に、随分とねだり上手になったものだな」

「ち、違っ、……ひ、あっ!?」

 ヴィルヘルムは、花弁の中から舌先で秘種を探り出した。そしてあろうことか、吸い始めたのである。

「や、……っ、ヴィルヘルム様、……ああっ」

「ん、痛いか?」

「痛くはない……けど、変、おかしくなって……あああっ」

 今までそこを指で押されることはあったが、吸われるのは初めてのことだ。未知の快楽に、私はすっかり翻弄されていた。

「ひ、あ、っ……、ああああっ!!」

 指よりも緩い刺激のはずなのに、私はとうとう絶頂へと追いやられてしまったのだった。

「は、……っ、ぁ」

「ん……レイチェル、もういいか?」

 息を整えていると、ヴィルヘルムは身体を起こして、牡茎を秘花に擦り付け始めていた。私も彼も触れていないはずなのに、そこはすっかり硬くなって上向いていたのだった。

「ヴィルヘルム様も、下準備をしなくて良いのですか?」

「大丈夫だ。それより……もう、少しだって待てないんだ。自分の手の中ではなく、お前の中で……余すことなく、全部出したい」

「……っ」

 交尾前の獣のような欲を滲ませた言葉を口にしながら、ヴィルヘルムは腰を揺らしてペニスの先端に愛蜜を絡めていた。

「だったら……どうか私を、めいっぱい満たしてくださいな。……ヴィルヘルム様」

「……っ、レイチェル」

 私の片脚を肩に担ぎ上げ、ヴィルヘルムは一気に中へと入り込んできたのだった。

「あっ……あああっ!!」

 胎内はすでに蕩けきっていたので、大きな彼をすんなりと受け入れた。そしてヴィルヘルムもそれを察したのか、すぐさま抜き差しが始まったのだった。

「あっ、あっ……、あああ!!」

「ふっ……、は……っ」

 しかし押し寄せる快楽に身を任せ始めた矢先、何を思ったか、ヴィルヘルムは動きを止めてしまったのである。

「ふ、え……?」

「ん、もう少し近くに来ないか? レイチェル」

 そう言って、ヴィルヘルムは身体を繋げたまま私を抱っこするようにして、膝の上に座らせたのだった。

「っ、ヴィルヘルム様!?」

「ん、これなら顔も近くて、奥まで入るから……いいだろう?」

 どうやら彼は、正常位だと顔が遠いことが不満だったようだ。しかし、こうして至近距離で見つめ合うのは、やはり落ち着かないものであった。

 もじもじしていると、私の腰周りに手で触れながらヴィルヘルムは口を開いた。

「本当ならば、お前がテルクスタに帰った次の日にも迎えに行きたかった」

「っ……」

「夫婦として過ごした日々を無にするなんて、私にはまったく考えられなかったんだ」

「……ヴィルヘルム様」

「しかし、会いたいと願うと共に不安でもあった。自らを身の危険に晒した男の顔も見たくないと、お前が思ってるのではないか。私と別れた方が、幸せなのではないか……と」

 私と正面から見つめ合い、ヴィルヘルムは切なげに眉を寄せていた。その表情を見るだけで、彼の心の中の葛藤をうかがい知るには十分であった。

 そしてヴィルヘルムは、さらに言葉を続けた。

「それでも……お前が同じ気持ちであることを、信じたいと思った。だからリュドミラに行くことを決めたんだ」

 最悪の場合、ヴィルヘルムはテルクスタを訪れたタイミングで殺されていた可能性だってある。しかし、そんな危険を負ってでも、彼は私と夫婦であるために行動してくれたのだ。

「迎えに行くのが遅くなって、すまなかった」

「……どうか、お気になさらないでくださいな」

 上半身がぴたりとくっつくようにヴィルヘルムを抱き締めると、嗅ぎ慣れた甘い匂いが鼻を掠めた。しかし、入浴後に彼は香水も何も使っていなかったので、私は不思議に思って口を開いた。

「ヴィルヘルム様。その……貴方といると、いつも良い香りがするのですが、香水か何か、使ってらっしゃるのですか?」

「いや……ただ、つがいは互いの匂いを心地よく感じるものなんだ。おそらく、それのことだろう」

「え……?」

「私だって、ずっとそうだ」

 私の首元に顔を埋めながら、ヴィルヘルムは言った。彼も私の匂いを心地よいと感じていたと思うと、見えない繋がりを感じずにはいられなかった。

「香りは、‘‘見えない鎖’’とも呼ばれている。私は……もう一生、お前と離れられないような気さえするんだ」

 私の匂いと彼の匂い。二つの見えない鎖は絡まり合って、情を交わす時にしか感じない艶かしい香りへと変わっていた。

「レイチェル、もう二度と……遠くに行かないでくれ……っ」

「ひ、ああっ!!」

 下から突き上げられ、私は悲鳴を上げた。しかし、驚きはすぐさま快感へと変わっていったのだった。

「あ……っ、ん、ヴィルヘルム様、ぁ」

「は、レイチェル……愛してる……っ、だから、ずっと、そばにいてくれ……っ」

「もちろんです……っ、ああっ!!」

 背中を逸らして達したと同時に、熱い白濁が胎内を射抜いた。それは愛液と混ざり合い、私の中を満たしていったのだった。

「ん、ヴィルヘルム様……」

「……っ、レイチェル」

 互いの体温を感じながら、眠りにつきたい。自然と二人は、同じことを考えていた。

 そして身体を繋げたまま、私たちはベッドで眠りについたのだった。

+

 その晩、私は再び夢を見た。

 以前と同じく私は、銀色の月をただただ見上げていた。周囲には建物も何もなく、草原が広がるばかり。そして空は、月が浮かんでいるだけで雲一つなかった。

 やがて、銀色の月はまた私に向けて‘‘腕’’を伸ばしてきた。やはり私は、逃げることはできない。

 しかし、心はやけに落ち着いていた。これが夢であり、目覚めればヴィルヘルムが隣にいると分かっているからだろう。

(早くこんな夢、覚めないかしら)

 そう思った矢先、あの晩の光景が頭をよぎったのだった。

 ……あの夜。私は池を覗き込んだ時、水面には月が映っていた。そして突き落とされる直前、月から伸びる‘‘腕’’を見たのだ。

 しかし、今なら分かる。

 あれは、月の腕なんかではない。

 ……月光を浴びて煌めく、銀色の長い髪だったのだと。
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