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王太子妃は、あたたかな檻で眠りにつく

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「ん、……オフェリア」

「あっ……ん、」

 全てを脱ぎ去り、鼓動を重ねるようにして、寝台の上二人で抱き合う。肌が擦れ合う度、心地良さのあまり口元から熱い吐息が漏れてしまう。 

 彼との抱擁は、いつだって心地よく温かい。

 ユリウスとは清らかなまま関係が終わったので、当然彼とは衣服越しの抱擁しか交わしたことが無い。上質な生地を何枚も重ねた衣服越しの抱擁に、温もりはあまり感じなかった。

 こんなにも抱擁が温かいのだと私に教えたのは、間違いなくサルヴァドールであった。

「っ、ぁ、」

 私の肌に口付けを落としながら、サルヴァドールは愛撫を始めた。口付けの後には薄い痕が残り、私の身体をいやらしく塗りつぶしていく。

 陽の光が差し込む室内では、当然ながら目隠しとなるものは無い。恥ずかしさのあまり身体を捩るものの、どんな動きも無意味であった。

 そんな私の様子を、サルヴァドールは満足気に見下ろしていた。

「ん……、良い子だ」

「あ、サルヴァドール様……っあ、」

 私が言葉を紡ごうとした矢先、唇にキスが落とされる。言葉を遮るように舌が絡められ、私は何も言えない。

 こうされるのは、いつものことである。

「んっ、……ぁ、は、」

 いつしか私達にとって寝台の上は、普段の生活とは切り離された世界となっていた。そして彼は、この世界の支配者なのである。サルヴァドールが望むように、夫婦の情事は進んでいくのであった。

 そう言うと彼が横暴な男のようにも聞こえるが、そもそも斯様な悪女を嫁にもらってくれただけで十分すぎることだ。だから、いつも私は夫の要求に大人しく従っていた。そのことに特段不満は無い。

「髪、大分伸びてきたな」

 枕の上に投げ出された私の髪に触れ、サルヴァドールは呟いた。この国に来た時は肩につかない程度だったが、いつしか乳房にまで届く長さとなっていた。

 無論、髪を伸ばしたのも彼に言われたからである。

「少し切った方が良いでしょうか」

「否、折角のたおやかで美しい髪だ。腰につく位にまで伸ばすと良い」

「ふふっ、承知しました」

 私が頷くと、サルヴァドールは手櫛で優しく髪を撫でてくれた。

 そして彼の手は、髪の毛先から肌を辿り、秘所へと降りていった。

「んっ……」

「ふ、頃合いだな」

 まだ指も迎え入れていないのに、秘花はとっくに蜜濡れとなっていた。彼との行為を重ね、いつしか秘所は直接的な刺激が無くとも濡れるようになってしまっていた。

 秘蜜を淫唇に塗り込めるようにサルヴァドールが指の腹を滑らせると、それだけで卑猥な水音が聞こえてきたのだった。

 それは私が子作りという義務としてではなく、彼との行為を楽しみにしていることを暗に示していた。

 サルヴァドールと夫婦となった夜。これは罪滅ぼしだ、王子に対する贖罪なのだと思いながら、彼に抱かれた。けれども何時しか二人の行為は、密かな楽しみとなっていた。

「っ……、お止め下さい、こんな音はしたなくて、恥ずかしいですわ」

 私に聞かせるように、わざと音を立てるよう指を動かす彼。どうやら、私の恥じらう様子を見て楽しんでいるようだった。

 いやいやと首を振る私に構わず、サルヴァドールは耳元で甘い言葉を囁いた。

「"素直"なことは良いことだ。それの何が悪い?」

「それは……その、」

「私は本能に従順で可愛いらしい、ありのままのお前をもっと見たい訳だが、駄目なのか?」

「……っ、」

 王太子妃という立場上、閨事が楽しみなどと言えるわけが無い。私はつい口ごもってしまった。

 しかし、彼は易々と逃がしてはくれない。

「少なくとも、私にとってお前と二人きりの時間は楽しみの一つなのだが」

「っ……!!」

 それは、王太子としてではなく、男としての彼の言葉であった。

 ふと彼の下腹部を見ると、ぺニスは硬く反り返っていた。先端には透明な水滴が滲んでおり、彼が息する度にひくついている。

 サルヴァドールは見せつけるように竿を軽く平手打ちして揺らした。どうやら、もう行為への準備は出来ているようだった。

 そして彼は、私に問うた。

「お前は、どう感じている? 楽しくないならば、辞めておくが」

「え……?」

「このままお前の身体に直接聞いてみても良いが、無理強いする趣味は無い。それに、私はこのまま自分で自分を満足させることも出来るしな」

 挑発するように自身を扱きながら、サルヴァドールは続ける。先走りは先端から根元まで塗り伸ばされ、ぺニスは淫靡な艶を纏い始めた。

 鍛えられた腹筋の下、刺激され逞しさを増していく牡茎。嫌悪感を抱いてもおかしくない様な禍々しい造形であるにも関わらず、私にとってそれは目に毒な程に魅力的に映っていた。

 身体の奥が切なく疼き、脚を擦り合わせる。けれども、サルヴァドールは何も与えてはくれない。

「は、……っ、ふ、」

 自身の括れや先端を弄り、確実に快楽を積み上げていく彼。登り詰めるのは、時間の問題であった。

「お前はどうなんだ、オフェリア?」

 荒い息に包まれ投げられた言葉。それは、逃れられない悪魔の囁きであった。

「……、私も、サルヴァドール様と過ごす時間が楽しい……です」

 王太子妃の肩書きを捨て、恐る恐る消え入りそうな声で私は呟いた。

「ふっ……」

 なら良い。そう言って、サルヴァドールは私を一気に貫いた。

「っ、ああっ!!」

 最奥まで深く突かれ、短い悲鳴をあげる。私の締め付けに、彼は軽く眉を寄せた。

 しかし息つく間も無く、サルヴァドールは律動を始めた。

 愛し合うなどという言葉では生ぬるい程に、彼との行為は燃えるように熱く、激しい。

 平素、サルヴァドールは無口で冷静沈着な男だ。あまり感情を顔に出さない質であり、手を繋いだりキスしたりして愛情表現することも極稀である。

 だが、ベッドの上では全く違う。普段の彼からは想像出来ない程饒舌に愛を囁き、深く愛してくれるのだ。

 そんな彼が、私は愛しくて仕方が無い。

「は、……っ、オフェリア、……っ、」

「あ、あっ、あああっ、ああああ!!」

 昼間だからといって手加減されることは無く、サルヴァドールは腰を掴み、激しく奥ばかりを突いてくる。それは、身体の奥底に自身の存在を刻み込むかのような動作にも思えた。

「あっ、ああっ、あああ!!」

「ぐ……っ、は、っ、オフェリア、っ、ぁ」

 激しい抜き差しを受けて、腰に力が入らなくなっていく。それを見計らったように、サルヴァドールは指を絡ませるように私と片手を繋いだ。

 掌が密着して、まるで互いの熱を共有しているかのように錯覚し始める。

「あっ、サルヴァドール様、ああっ!!」

「は、っ、ぐっ……っあ、」

 体温が上がり、互いに肌に汗が滲んでいく。そして胎内に熱が押し付けられる度、身体は跳ねて悦びを顕にする。

 窓を開け放っているので、うるさくすると外に声が聞こえてしまうかもしれない。しかしそんなことに気を使える余裕が無い程に、私達は行為に夢中になっていた。

「は……っ、ぁ、ぐ、」

「あっ、ひぁ!?」

 ぐい、と挿入が深められ、恥毛で擦られた秘種に快感がはしる。目を見開くと、サルヴァドールは口の端でにやりと笑った。

「ここも欲しいか。……欲張りだな」

「ひ、や、あああっ!!」

 器用な彼は律動しつつも、指で愛おしむように秘種を撫で続ける。刺激される度あられも無い嬌声を上げてしまうが、止められない。

 激しくはあれど、荒々しくはない。彼は私を悦ばせることに手間を惜しまないのだった。

「っぐ、……ぁ、オフェリア、っ」

 サルヴァドールが上体を倒し、至近距離で見つめ合う形となる。どの体勢で情事を始めても、彼は達する直前、必ず向かい合わせに向きを変えたがるのだった。

 彼の汗が額から零れ落ち、私の髪を濡らす。

 絶頂はもうすぐそこにまで来ていた。

「あっ、あ、サルヴァドール様、ああっ、もう……!!」

「は、オフェリア、中出すからな、……ぁ、ぐっ……!!」

 私を腕の中に抱き入れて、サルヴァドールは白濁を胎内に放った。

 彼の愛を一身に受ける瞬間。この時、私の心はこの上なく満たされるのだった。

「は……っ、ん、」

「っ、は、……、ぁ、」

 腰を揺らし、サルヴァドールは精液を余すこと無く中へと注ぎ入れる。

「……っ、は、」

 そして身体の繋がりを絶った後ベッドに横たわり、サルヴァドールは私を再度腕の中に閉じ込めた。

「ん……オフェリア」

 行為の終わりを告げるキスが落ち、乱れた髪に手櫛が通される。きっと長い髪には、彼の匂いが絡みついているに違いない。

 じっとりとかいた汗が引いていき、肌が冷え始めたところでそっと毛布がかけられる。

 温かな檻の中で、私は睡魔に溺れていった。
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