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恋心と狂気は紙一重

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+ラーシュ視点
+まあまあなクズ思考注意

 ルイーセは昔から皆に愛されていた。

 愛らしい容姿もやや内気な性格も、何もかもが周りを魅了していた。彼女が一人来ただけで、険悪な空気が漂っていた場が一変するのを自分も何度も見てきた程である。

 本人は理解していないものの、茶会でも夜会でも場の空気を作っているのは確実にルイーセであった。

 そんな魅力的な彼女に対して恋心を抱くのに、対して時間はかからなかった。ルイーセが初めて参加した舞踏会では、他の男を押しのけて真っ先にダンスを申し込んだ程である。

 しかしそれは、初めから叶わぬ恋であった。何故なら、リクスハーゲンとベスレエラは既に婚姻関係を結んでいるからだ。

 それもはるか昔の話なので、両王室間の結婚が禁じられている訳では無い。しかし、リクスハーゲン側としてはベスレエラ王室は''親戚''と認識しており、最初から結婚相手としては見なされていないのである。

 事実、ルイーセの両親は初めて俺と彼女が顔を合わせた時「歳の近い兄のような存在」と自分を紹介した。ルイーセも、自分のことを''兄のように''慕ってくれた。

 違うんだ。

 そう言いたかったが、結局その言葉を口にすることは叶わなかった。親戚と見なされているが故、ルイーセが結婚相手を探し始めた時も釣書を送ることすら出来なかったのである。

 とはいえ、血縁だけはどうにもならないことだ。俺は恋心を打ち明けること無く、自らの胸の中で枯らすことを決めたのだった。

 ルイーセと結ばれたウェンデに対して嫉妬心が芽生え無かったと言えば嘘である。しかしそれを押さえ込んで、二人の結婚式に参加したのである。

 皆から愛される可愛らしい王女は夫と幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。

 ……で終わるはずだった。しかし、そうはならなかったのである。

 ルイーセと顔を合わせる機会もすっかり無くなった頃、彼女の近況が気になった俺はある魔術を使ってみたのだ。

 それは、心の隙間がある者の夢に入り込むという魔術である。

 当然、心が満たされているならば入り込むことはできない。夢でルイーセに会うことが目的ではなく、彼女が心から幸せであるか否かを知るために、何の気無しに使ってみたのである。

 姉からも両親からも大切にされている彼女のことだ。旦那にも愛されて幸せなはずだ。きっと自分なんて弾かれてしまうだろう。そう思っていた。

 しかし、予想に反して、彼女の夢にあっさりと入り込めてしまったのである。

 魔術を使った時、彼女の夢への入口として、自分の前に一つの赤い扉が現れた。満たされていない欲により、扉の色は変わる。赤色は、身体的に満たされていないという印であった。

 そして俺は、本能の赴くままにルイーセを犯した。所詮夢の中であり身体的に彼女が傷付くこともないので、罪悪感は無かった。こうして、今まで押さえ込んでいた劣情を発散させたのである。それで終わりにするつもりだった。

 だが夢の後、ルイーセへの想いを断ち切るどころか、俺は彼女を求めてしまうようになってしまったのである。これは完全なる誤算であった。

 それからというものの、ウェンデから彼女を奪う方法ばかりを考える日々が続いた。結婚した女を十分に満たせないような人間ならば、それも出来るような気がしたのだ。

 そんな折、リクスハーゲンとベスレエラの建国記念日式典が開かれる時期が来た。そして、ある悪い考えが思い浮かんでしまったのである。

 これを機にルイーセを奪ってやろう、と。

 式典の準備を進める傍ら、俺はウェンデ宛に一通の書簡を送った。自宅宛ではなく騎士団宛にしたのは、ルイーセに気付かれないためである。

 建国記念式典は両国の重要な行事であるので、騎士団長である貴方にも護衛任務をよろしく頼みたい、という一見平凡な内容の手紙。しかしこの文章の裏の意味は、「式典に王室メンバーとしてではなく騎士団長として参加しろ」という彼に対する要求である。当然、結婚式の一件で負い目のあるウェンデは意図を理解し、その要求を飲んだ。

 こうして下準備した後、俺は再度ルイーセの夢に入り込んだ。精神的に満たされていない印である、緑色の扉を開いて。

 しかし、どう夢の中で揺さぶりをかけても、現実で彼女が自分の方を向くことは無かった。果てには口を滑らしたというのに、夢の中で犯したのが俺であると気付かない始末である。

 好意が無いどころか、自分が彼女にとってどうでも良い存在であるのだと思い知らされただけだった訳だ。

 全てが馬鹿らしく思えてきたのは、言うまでもない。
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