自然戦士

江葉内斗

文字の大きさ
上 下
26 / 30
第二章 謀略の復活祭

第二十四話 K・K・K

しおりを挟む
 エリーは荷物をひったくられて突き飛ばされた黒人の下に駆け付けた。
 「大丈夫? けがはない?」エリーが手を差し伸べると、その黒人はエリーの手を勢いよく払いのけた。
 「近づくな! この偽善者め!!」男は走り去ってしまった。
 「あ、ちょっと! カバン忘れてるわよ~!」小さくなっていく男の姿を見て、大きなため息一つ。すると、
 「エリー! すぐに臨戦態勢! 市民の避難誘導頼む!!」
 ユースが切羽詰まった声でエリーに呼びかけてきた。
 「どうしたのよユース……ゲゲ、あいつらは……!」
 エリーが声の飛んできた方角を見ると、そこにはレシーバーをセットして武装したユースと、白衣を着て倒れている若い男、そして全身白装束に身を包んだ十人程度の集団がいた。

 KクレイズKクルーKクリアとは、反黒人、反ユダヤ、反エイジャ系を掲げた秘密結社である。
 今から150年ほど前、アメリゴで南北戦争が起こった直後に結成されたといわれている。
 メンバーはみな白装束を身にまとい、はじめは黒人の多く住む地域をその格好で歩いて、黒人たちが怖がるのを楽しんでいたそうだが、どんどんエスカレートしていき、脅迫、強盗、殺人、違法薬物の密売買などなど、もはやアメリゴ警察の手に負えないほどのギャング集団となっていた。
 そんな彼らの前で黒人を擁護するような発言をすれば、たとえ身内だろうと殺されかねない!
 「ユース! 逃げなさい!あいつらは危険よ!! 10対1で勝てるわけないわ!」
 「大丈夫、無理に戦う気はない。ただちょっと今動けなくて……」
 「どうした? 貴様自然戦士なら、変身して戦ってみたらどうだ?」先頭の男が挑発する。
 一方ユースはいたって冷静だ。
 「僕の敵はあくまでもギートであって、自分と同じ人間じゃない。これ以上嫌なムードになる前にこの人連れて帰ってよ。」ユースは倒れている白装束の男、ルークを指差した。
 「えぇ~~!? 助けてくれるんじゃないんですか!??」ルークが必死になって叫ぶ。(何があったかは前話参照)
 「ふん、そんな腰抜け要らんわ! ここで処分してやる!」先頭の男が銃を取り出した。すると、その男の肩に手が置かれた。
 「待て! アレックス! それはだめだ!!」後ろにいた男が止めに入ってきた。
 「ルークは殺せない! お前もわかっているだろう!?」
 「……そうだったな。お前たち、帰るぞ! ルーク、お前は自力で帰って来い!!」
 白装束の集団は来た道を引き返していった。
 「……やれやれ。大丈夫ですか? ルーク……さん。」
 「は、はい。大丈夫ですっ。」声が上ずっていた。
 「ユース、その人どうするの?」エリーもやって来て言った。
 「どうするも何も、元を正せばひったくりだもんなー。普通は警察に突き出すだろうけど……」
 「やめてください! 今度ばかりは見逃してください!! 後生ですからぁ!!!」
 「……まあ、ちょっと可哀想になってきたから、今回は警察には黙っておくよ。」
 「あ、ありがとうござ」「但し、あなたにはしゃべってもらいたいことが結構あるのでして。エリー、ルークさんを拘束して『クイーン・ヴィクトリア号』に連れていくよ。」
 「「はぁ!?」」エリーとルークさんが同時に驚いた。しかしユースはマイペースを保つ。
 「『はぁ!?』じゃないでしょ。大丈夫、不審な動きをしたら、すぐ切り捨て御免にすれば良い。」
 それを聞いたエリーも「あ、それもそうね。」と納得した。
 一方ルークさんは「い、嫌だ! 許してください!! まだ死にたくない!!!」とじたばたしている。
 「うるさい! ほら行きますよ!大人しくしていればなにもしませんから!」ユースはコマンドレシーバーの「捕縛」機能をオンにした。
 その状態で捕縛したい相手の両手首を掴むと、自然想像エネルギーによって即席の手錠が生成され、相手を拘束する。
 ユースはルークさんを拘束すると、抱えたままエリーと共に空港へ飛んだ。


    「あ! エリー殿下!いったいどこへ行ってらっしゃったのですか!?」
 空港に戻ると、心配していた護衛達が駆け寄ってきた。
 「ちょっとユースとデートしていただけよ。」
 「お手数をおかけしました。それよりも……」ユースはルークを護衛たちに引き渡した。
 「尋問の準備をお願いします。あ、身柄の扱いは丁重に。」
 「こ、こいつは、K・K・Kのメンバー!?」
 「そうですけど、いろいろと事情があるんです。」
 尻込みする護衛たちにエリーが発破をかける。
 「とにかく、とっとと準備しなさい!王女命令よ!!」
 「は、はい!」やっぱり護衛たちはエリーには弱い。


 エリーの部屋で、ユースとエリーによる尋問が始まった。
 ルークは自白剤を飲まされているため、証言は信用できると思われる。
 「あなたの名前、年齢、住所を教えてください。」ユースが問いかける。
 「ルーク・J|《ジョセフ》・フランクリンです。年は二十二歳で、住所はニューアムステルダム州ニューアムステルダムうんぬんです。」ルークが答えた。
 「なぜK・K・Kに入ったの?」とエリー。
 「僕の意志ではないんです。」と語るルーク。
 「えーっと、これは本当は言っちゃいけないんですけれどね?」
 「もちろん言ってもらいますよ?」ユースがそう言い、エリーが銃を構えた。
 「待って!待ってください!ちゃんと言いますって!!……僕はですね、K・K・Kの総裁の息子なんです。」
 「「……え!?」」ユースとエリーの顔が曇った。
 「僕の父親はK・K・K三代目総裁、ウィリアム・Jジョセフ・フランクリン。史上最高と言われている現在のリーダーです。」
 「なるほど……。」まさかアメリゴ最大の秘密結社のトップの息子がこんなんだったとは。ユースはちょっと呆れた。
 「それで、強制的に加入させられたわけ?」エリーが尋ねた。
 「そうなんです……」ルークはしゅんとしてた。
 「あの……僕は決して、黒人を差別した方がいいとか、そんなことは決して思っていませんからね!?」
 「うんうん、それは聞いてれば分かるわよ。」エリーが優しくうなずく。
 「ところで話は変わるが……なんかK・K・Kは企んでることってある?」とユースが聞いた。
 「た、企んでいること!?」ルークの顔が青ざめた。
 ユースは淡々と続ける。「そうだよ。後、今までやらかしたことも全部吐いてもらうから。」
 「ユース、こんな下っ端が何か知ってるわけないでしょ?」エリーは端からルークの事など利用価値も怪しいと思っているご様子。
 「い、いえ、一応しゃべります……。」そういうとルークはゆーっくりと語り始めた。
 「その……現在最優先事項で行われていることが、『反逆者』ジェームズ・グランハン博士の拿捕なんですね。」
 「「ジェームズが!?」」いきなり友人の名が出たので二人ともびっくりした。
 「はい。グランハン氏は、黒人でありながら合衆国政府の要人であり、白人に対抗するために戦力を集めているとして、K・K・K内で指名手配されています。」
 「まさか、あのエロジェームズがそんなことするわけないじゃない。」エリーはなぜかあざけるような声で言った。
 「なるほど……あれ? もしかしたらジェームズの待遇って、実は悪くないんじゃない?」というユース。
 「え、どういうこと?」とエリーが尋ねる。
 ユースは内部通信を使って言った。(政府はジェームズの命が狙われていることを知ってて、わざわざアラベスクなんかに研究所を設置してジェームズをかくまったんじゃないの?)
 (そうかしら? 単純に性格故の左遷だと思うけど。)とエリーが返した。
 「あの~、もしかしてお二人は、グランハン氏とお知り合いなんですか?」
 ユース「……あっ。」
 エリー「? ……あっ。」
 「ですよね!あの、もしよろしければグランハン氏の居場所教えてくれますか!?」
 「あのね、尋問してるのはこっちなのよ! 勝手な発言は許さないわ!!」エリーがまた銃を構えると、ルークは「ヒィ~~~~~~!」と悲鳴を上げた。
 「やれやれ……どうする? 記憶消して帰す?」
 「まだよ。ほかに何を企んでるか聞かないと。さあ知っていることをすべて話しなさい!!」
 「えーっと……あっそうだ。過去にクィーン・ヴィクトリア号を襲撃したり……」
 「「はぁ!!?」」これには二人とも仰天した。二人とも椅子から飛び上がって武器を構えた。
 「私のプライベートジェット襲ったのあんたたちなの!!?」「お前っっ!!それは許さんぞ!!」
 ルークは過呼吸寸前になりながらもなんとか応答した。
 「いや違うんす! 違うんすよ!! ヴィクトリア号を襲ったのは何というか……、K・K・Kの中でも異端というか……」
 「エリーたちを襲ったのは誰?」ユースは何とか落ち着きを取り戻しながら、椅子に座りながら言った。
 「確か、ショーン……さん?だったかな?」
 「ショーン……!?」「おっと……これは……。」二人はその反逆者の名前を知っている。
 なんと、ブリデラント王室のジェットを襲った首謀者、ショーンは、K・K・Kに加入していたのである。事件については第十六話から第十八話を参照。
 「じゃあ、ショーンの取り巻きは?」エリーが尋ねた。「あ、確かその人たちもK・K・Kだったっすね。」
 「やれやれ……ギート相手だけでなく、秘密結社とも面倒なことになるとは……」ユースがため息交じりに話す。
 「はっ……!!」急にエリーの顔が青くなった。
 「ど、どうしたの?」
 「ユース!! あなた私を助けに来てくれた時、自然戦士を二人殺したわよね!?(第十八話を参照)」
 「あ、うん……そうだよ。今でもたまに夢に出てくる嫌な思い出」「あの時一人取り逃したわよね!!?」
 「……あ。」ユースの顔も青ざめた。
 「おいルーク……さん!! ショーンと一緒に行動していた突風戦士って誰です!!?」
 「えーっと、今存命のメンバーだと、テッドさんですかね。」ルークは真顔で答えた。
 エリーの焦りのこもった指示が飛ぶ。「セバスチャン!! テッドってやつを調べて指名手配させなさい!!」
 「はい、殿下!」セバスチャンと呼ばれた男は部屋を飛び出していった。
 「まったく……一週間後には護衛の任務があるのに……ああ、そうだ。ほかにこれから企んでいることってありますか?」
 「それはですね……僕にはあんまり聞かされてないですねー……。」
 「そうか……」やっぱりルークに、重要機密事項を教える価値もないと、組織の上層部は思っているようだ。
 「……あ! エリー、もうすっかり日暮れだ。ホテル用意してないよ!」
 「何言っているのよ、ここに泊まればいいじゃない。」
 「あ、その手があったな。」
 「ということでユースは私と同じ部屋」「お手伝いさーん、僕一人で寝たいんですがー?」
 「あの……僕はどうなるんです?」とルークが尋ねた。
 「まあ記憶消して解放でしょうね。」とエリーが冷たく言った。
 「ねえエリー、どうやって記憶消すの?」と問うユース。
 「なあに、簡単なお仕事よ。」エリーは銃に何やらICカードをセットした。
 「氷結銃・プラス・『変化~抹消』!」エリーは特殊な銃弾でルークの頭を撃った。
 当たった銃弾は緑色のエフェクトを発生させると、そのまま消えた。
 「……あれ?僕、こんなところで何をしているんでしたっけ?」二時間ほど記憶を消されたルークが周りをきょろきょろ見渡す。
 「突然倒れたから介抱してあげたのよ。さあ、行きなさい。」そう言ってエリーは半ば強制的にルークを外に追い出した。
 「……やれやれ。こんなんで謝肉祭カルネヴァーレを成功させられるのだろうか……」ユースは大きくため息をついた。


第二十五話 ただいま準備中 に続く
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【1/23取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...