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第二章 謀略の復活祭
番外編其の一 ユースのブオン・ナターレ
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ユースが聖ミネルヴァ孤児院で暮らした最後のクリスマスの話。
ローマ語では「ナターレ」と言うのだが、神託と同じくらい盛り上がるイベントである。
前日の「ビジリア・ディ・ナターレ」の夜(ニポネシア語に直すとクリスマス前夜の夜になるが)、孤児院の子供達もそわそわしていた。
「ねーねー、今年はサンタさんにプレゼントもらえるかなー?」「何もらえるんだろう、楽しみだなー!」そんな会話が聞こえてくる。
しかし、その中で浮かれない顔をしている者もいた。
ユース、ナーサ、ソフィアの年長組と、まだ正体を現してないサンドロ院長だ。
子供たちは、いい子にしていればクリスマスイブの夜中にサンタクロースがやってきて、プレゼントを置いて行ってくれると信じている。
しかし、サンタの正体は、この4人である。
正確には、枕元までプレゼントを運ぶのはサンドロの仕事なのだが、プレゼントは4人でお金を出し合って買っている。
それに加えてユース、ナーサ、ソフィア、サンドロとして渡すプレゼントもある。
そう、一番の問題は資金なのだ。
実は、ユースもナーサも、学校に行ってない。
中学校を卒業した後は、孤児院の経営を支えるために働きに出ている。
それでも例年赤字が続き、現在は地元の人の寄付で成り立っている状況である。
しかし、子供たちの夢を壊さないため、今年もミラニアから二百五十キロ離れた町フィロートで、プレゼントを買ってきた。
サッカー選手にあこがれる十歳の少年アルフィオにはサッカーボール。
動物が好きな六歳の少女サビーナにはパンダのぬいぐるみ。
本の虫である十一歳の少年ドミツィアーノには、ダンテ・アリギエーリの名作「神曲」の児童版。
そうしてたくさんのプレゼントがアルベロ・ディ・ナターレ(クリスマスツリー)の根元に置かれた。
さて、ユースたちにはどんなプレゼントが送られたのだろうか。
ナーサはユースに対して、一か月以上もの間何を送ろうか迷っていた。
まず最初に思い付いたのは、ユースの好きなビスコッティを手作りしてプレゼントしようというプランだった。
しかし、ここでひとつ重要な問題がある。
ナーサはおっそろしいほど料理が下手なのである。
現に、昨年のクリスマスでは、ユースに手作りのティラミスを送ったのだ。
次の日、ユースは半日トイレに引きこもっていた。
ちなみにユースはおなかが弱く、消費期限が一日過ぎた牛乳を飲んでもおなかを壊す。
そんなユースに黒マリモのようなティラミスを食べさせるなんて、正気の沙汰ではないと皆から非難された。
そこでナーサは「前回はぶっつけ本番だったから失敗したの。ちゃんと練習すれば私だって………!」と言ってナターレ一か月前にビスコッティ作りを練習した。
院長が無駄に買っていた消火器が初めて役に立つ結果となった。
次にナーサは、ユースの好きな外国語小説を送ろうとした。
書店に言ったとき、O・ヘンリーの「二十年後」などが載っている短編小説集が目に留まった。
これだと思って買おうとしたが、なんと一冊一万エウロー近くかかるのだ。
というわけで本も却下になった。
ナーサは気づかなかったが、実はナーサが選んでいた本は、実は今はなかなか手に入らない初版だった。
それで一万エウローなら安いほうだろう。
それに気づかずナーサは悩み続けたが、ついにナターレ二日前にユースに贈るものを決めた。
今はそのプレゼントもアルベロの下で、開封される時を待っている。
ここでもう一人、ユースに思いを寄せている少女、ソフィアのことを話さなければならない。
彼女もまた、ユースに贈るプレゼントについて悩んでいた。
初めにソフィアは、ユースに新しいギターをプレゼントしようと考えた。
ユースが持ってるギターはクラシックギターだが、ユースは時々「フォークギターも弾きたいなぁ…」なんて言っている。
そこでフォークギターをプレゼントしようとしたが、楽器というのはとても金がかかるものである。
フィロートの楽器屋にギターは確かに売っていたが、初心者用でも一万エウローを下らず、二十万あるいは三十万台のギターばかりが置いてあった。
ソフィアはギターを買うことをあきらめ、ナーサが挑戦して玉砕したスイーツを作ることにした。
ナーサと違ってソフィアは料理はできる。孤児院では子供たちの料理を作ることも多い。
しかし、作業は思いのほか難航した。
まず、砂糖の使用量が多い。
ユースは日常的に甘い物を食べているが、その中には一日の推奨量の何倍もの砂糖が入っている。
こんなに入れても足りない。まだ足りないと、下ごしらえが終わったころにはすでに疲労に身をむしばまれていた。
それ以降、ソフィアはちょっとだけスイーツを見るとドキッとするようになった。
それでも何とかクッキーを作り終え、今はアルベロの下で眠っている。
そしていよいよ、ナターレがやって来た。
子供達は飛び起きるなりアルベロの元に駆け寄った。
「あー! これ欲しかったやつだ!」「ちぇっ、こんなの要らないや。」そんな声が聞こえてくる。
ユースは自分のプレゼントを拾い上げた。
「これは………ナーサのプレゼントか。何が入ってるのかな。」
袋の口を開けて中身を取り出してみると、そこに入っていたのは、温かそうな白い手袋だった。
ユースが特に手が冷たいのを嫌うのを見て思い付いたのだった。
「これは嬉しい。ありがたく頂こうかな。」ユースは少し笑顔になった。
「こっちは……………ソフィアのプレゼントみたいだ。お!手作りクッキーか!」
箱の中身をみたユースは期待に胸を膨らませながら、そのクッキーを口の中に入れた。
………………しかし数秒後、ユースの顔色が曇った。「甘くない………砂糖入ってるの?あ、手紙が同封されてる。」
手紙にはこう書いてあった。
「砂糖控えめのクッキーを作りました。兄さんは最近甘いもの食べ過ぎだから!」
「ソフィアったら…………甘くなきゃそれはビスケットだよ。」
ソフィアのクッキーに不満をこぼすユース。
その時、「ブオン・ナターレ(クリスマスおめでとう)、ユース!」明るい嬉しそうな声が聞こえた。
ユースは振り返って、それから微笑んだ。ナーサからもらった手袋をつけていた。
「ブオン・ナターレ、 ナーサ。いい手袋をありがとう。」
「こちらこそ、いい物をもらったわ!ところで………」ナーサの手には、ユースがプレゼントしたオペラ「アイーダ」のペアチケットが握られていた。
「良かったら、オペラ、一緒に行かない?」
「良いよ。」
「軽っ!」
「まあ僕が買ったチケットだし。」
「そうよね………でもうれしいわ。」ナーサの顔が赤くなった。
実はその様子を陰から見て、悔しがっていた人物がいた。
「ユース兄さんったら………オペラのペアチケットを贈るなんて、やっぱりナーサ姉さんが好きなのね……!?」
ソフィアがユースからもらったのは、ブランド物のバッグだった。
一応「アイーダ」のチケットよりも高価である。
しかしソフィアにとっては、ユースと一緒にいられる時間こそが最高に価値があるのである。
「あれ? ソフィア? そこで何してるの?」ユースに気づかれた。
「え!?? いやその………」
「君も『アイーダ』見に行きたいの?」
「……え、ちちち違うわよオペラななななて」
「ナーサと一緒に行けばいいじゃない。」
「「それじゃ意味ないの!!」」二人の少女の声がそろった。
「おーい子供たち、ケーキ食べよう。」食堂からサンドロの声が聞こえた。
「あ、はーい今行きまーす!ごめんねこの話は置いとこう!」
ユースはウキウキ気分で食堂に向かっていった。
後にはナーサとソフィアが取り残された。
「……………ユースったら、女の子とのデートよりもケーキのほうがいいのね。」
「まあ…………そんなユース兄さんも良いけど。」
…………このナターレの六日後、ユースは自然戦士に選ばれる。
ローマ語では「ナターレ」と言うのだが、神託と同じくらい盛り上がるイベントである。
前日の「ビジリア・ディ・ナターレ」の夜(ニポネシア語に直すとクリスマス前夜の夜になるが)、孤児院の子供達もそわそわしていた。
「ねーねー、今年はサンタさんにプレゼントもらえるかなー?」「何もらえるんだろう、楽しみだなー!」そんな会話が聞こえてくる。
しかし、その中で浮かれない顔をしている者もいた。
ユース、ナーサ、ソフィアの年長組と、まだ正体を現してないサンドロ院長だ。
子供たちは、いい子にしていればクリスマスイブの夜中にサンタクロースがやってきて、プレゼントを置いて行ってくれると信じている。
しかし、サンタの正体は、この4人である。
正確には、枕元までプレゼントを運ぶのはサンドロの仕事なのだが、プレゼントは4人でお金を出し合って買っている。
それに加えてユース、ナーサ、ソフィア、サンドロとして渡すプレゼントもある。
そう、一番の問題は資金なのだ。
実は、ユースもナーサも、学校に行ってない。
中学校を卒業した後は、孤児院の経営を支えるために働きに出ている。
それでも例年赤字が続き、現在は地元の人の寄付で成り立っている状況である。
しかし、子供たちの夢を壊さないため、今年もミラニアから二百五十キロ離れた町フィロートで、プレゼントを買ってきた。
サッカー選手にあこがれる十歳の少年アルフィオにはサッカーボール。
動物が好きな六歳の少女サビーナにはパンダのぬいぐるみ。
本の虫である十一歳の少年ドミツィアーノには、ダンテ・アリギエーリの名作「神曲」の児童版。
そうしてたくさんのプレゼントがアルベロ・ディ・ナターレ(クリスマスツリー)の根元に置かれた。
さて、ユースたちにはどんなプレゼントが送られたのだろうか。
ナーサはユースに対して、一か月以上もの間何を送ろうか迷っていた。
まず最初に思い付いたのは、ユースの好きなビスコッティを手作りしてプレゼントしようというプランだった。
しかし、ここでひとつ重要な問題がある。
ナーサはおっそろしいほど料理が下手なのである。
現に、昨年のクリスマスでは、ユースに手作りのティラミスを送ったのだ。
次の日、ユースは半日トイレに引きこもっていた。
ちなみにユースはおなかが弱く、消費期限が一日過ぎた牛乳を飲んでもおなかを壊す。
そんなユースに黒マリモのようなティラミスを食べさせるなんて、正気の沙汰ではないと皆から非難された。
そこでナーサは「前回はぶっつけ本番だったから失敗したの。ちゃんと練習すれば私だって………!」と言ってナターレ一か月前にビスコッティ作りを練習した。
院長が無駄に買っていた消火器が初めて役に立つ結果となった。
次にナーサは、ユースの好きな外国語小説を送ろうとした。
書店に言ったとき、O・ヘンリーの「二十年後」などが載っている短編小説集が目に留まった。
これだと思って買おうとしたが、なんと一冊一万エウロー近くかかるのだ。
というわけで本も却下になった。
ナーサは気づかなかったが、実はナーサが選んでいた本は、実は今はなかなか手に入らない初版だった。
それで一万エウローなら安いほうだろう。
それに気づかずナーサは悩み続けたが、ついにナターレ二日前にユースに贈るものを決めた。
今はそのプレゼントもアルベロの下で、開封される時を待っている。
ここでもう一人、ユースに思いを寄せている少女、ソフィアのことを話さなければならない。
彼女もまた、ユースに贈るプレゼントについて悩んでいた。
初めにソフィアは、ユースに新しいギターをプレゼントしようと考えた。
ユースが持ってるギターはクラシックギターだが、ユースは時々「フォークギターも弾きたいなぁ…」なんて言っている。
そこでフォークギターをプレゼントしようとしたが、楽器というのはとても金がかかるものである。
フィロートの楽器屋にギターは確かに売っていたが、初心者用でも一万エウローを下らず、二十万あるいは三十万台のギターばかりが置いてあった。
ソフィアはギターを買うことをあきらめ、ナーサが挑戦して玉砕したスイーツを作ることにした。
ナーサと違ってソフィアは料理はできる。孤児院では子供たちの料理を作ることも多い。
しかし、作業は思いのほか難航した。
まず、砂糖の使用量が多い。
ユースは日常的に甘い物を食べているが、その中には一日の推奨量の何倍もの砂糖が入っている。
こんなに入れても足りない。まだ足りないと、下ごしらえが終わったころにはすでに疲労に身をむしばまれていた。
それ以降、ソフィアはちょっとだけスイーツを見るとドキッとするようになった。
それでも何とかクッキーを作り終え、今はアルベロの下で眠っている。
そしていよいよ、ナターレがやって来た。
子供達は飛び起きるなりアルベロの元に駆け寄った。
「あー! これ欲しかったやつだ!」「ちぇっ、こんなの要らないや。」そんな声が聞こえてくる。
ユースは自分のプレゼントを拾い上げた。
「これは………ナーサのプレゼントか。何が入ってるのかな。」
袋の口を開けて中身を取り出してみると、そこに入っていたのは、温かそうな白い手袋だった。
ユースが特に手が冷たいのを嫌うのを見て思い付いたのだった。
「これは嬉しい。ありがたく頂こうかな。」ユースは少し笑顔になった。
「こっちは……………ソフィアのプレゼントみたいだ。お!手作りクッキーか!」
箱の中身をみたユースは期待に胸を膨らませながら、そのクッキーを口の中に入れた。
………………しかし数秒後、ユースの顔色が曇った。「甘くない………砂糖入ってるの?あ、手紙が同封されてる。」
手紙にはこう書いてあった。
「砂糖控えめのクッキーを作りました。兄さんは最近甘いもの食べ過ぎだから!」
「ソフィアったら…………甘くなきゃそれはビスケットだよ。」
ソフィアのクッキーに不満をこぼすユース。
その時、「ブオン・ナターレ(クリスマスおめでとう)、ユース!」明るい嬉しそうな声が聞こえた。
ユースは振り返って、それから微笑んだ。ナーサからもらった手袋をつけていた。
「ブオン・ナターレ、 ナーサ。いい手袋をありがとう。」
「こちらこそ、いい物をもらったわ!ところで………」ナーサの手には、ユースがプレゼントしたオペラ「アイーダ」のペアチケットが握られていた。
「良かったら、オペラ、一緒に行かない?」
「良いよ。」
「軽っ!」
「まあ僕が買ったチケットだし。」
「そうよね………でもうれしいわ。」ナーサの顔が赤くなった。
実はその様子を陰から見て、悔しがっていた人物がいた。
「ユース兄さんったら………オペラのペアチケットを贈るなんて、やっぱりナーサ姉さんが好きなのね……!?」
ソフィアがユースからもらったのは、ブランド物のバッグだった。
一応「アイーダ」のチケットよりも高価である。
しかしソフィアにとっては、ユースと一緒にいられる時間こそが最高に価値があるのである。
「あれ? ソフィア? そこで何してるの?」ユースに気づかれた。
「え!?? いやその………」
「君も『アイーダ』見に行きたいの?」
「……え、ちちち違うわよオペラななななて」
「ナーサと一緒に行けばいいじゃない。」
「「それじゃ意味ないの!!」」二人の少女の声がそろった。
「おーい子供たち、ケーキ食べよう。」食堂からサンドロの声が聞こえた。
「あ、はーい今行きまーす!ごめんねこの話は置いとこう!」
ユースはウキウキ気分で食堂に向かっていった。
後にはナーサとソフィアが取り残された。
「……………ユースったら、女の子とのデートよりもケーキのほうがいいのね。」
「まあ…………そんなユース兄さんも良いけど。」
…………このナターレの六日後、ユースは自然戦士に選ばれる。
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