8 / 30
第一章 ユースとエリー
第七話 ショッピングデート①
しおりを挟む
ユースが皇帝から受けた最初の任務は、なんと自分の育ての親を討伐するというものだった。
ターゲットは聖ミネルヴァ孤児院院長、サンドロ・ポッティチェリ。
育てた子供を植民地に奴隷として売り払うという、残虐な男だった。
さらには裏でギートとつながっているという。
そして、任命式にて皇帝を狙撃して暗殺しようとした疑惑もかけられていた。
だが、仮にもサンドロはユースの育て親。
玉座の間を出たユースは、ひどく葛藤していた。
(あのいつも笑顔で子供たちに接していた院長が、まさかそんなことするか?)
考えながら歩いていたら、前から歩いてくる人とぶつかった。
「げ……!」
「『げ……!』て何よ!」エリー・スチュアーテラートだった。
その傍らには、城の案内役ロキ・F・ワイルドが。
「まだいたんですね……」
「あら、敬語を使えるようになったなんて、すごいじゃない。褒めてあげるわ。」
(やっぱりひどい目に遭えば良いのに。)
「……どうしたのよ、浮かない顔して?」
「あ、わかっちゃいますか?」
「私でよかったら相談に乗るわよ?」
(優しいところもあるんだな……)ユースはエリーに、玉座の間で聞いたことを話した。
「……なるほど、そりゃ確かに試練ね。」
「どうすればよいかわかりません……」
院長は帰国後、行く当てもなくさまよっていた時に、住む場所も教育も愛情も与えてくれた。
やはり、ユースには信じ難い話なのか。
「何くよくよしてんのよ、それでもあんた自然戦士なの!?」急にエリーが声を荒げたから、ユースは心臓が凍るかと思った。
「ローマンド軍、一応優秀なんでしょ!? そこの諜報部が見つけたことなんでしょ!? 少しは信じなさい!」
「じゃあエリー殿下には、自分を育ててくれた親を殺せますか!?」ユースも声を荒げた。
「何言ってんのよ、あんた皇帝からなんて命令されたの?」
「え……?」ユースは命令書を取り出して読み上げてみた。
「『ミラニアにいる聖ミネルヴァ孤児院院長サンドロ・ポッティチェリの討伐を命ずる。』ですよ?」
「『討伐』なんでしょ?だったらわざわざ殺さなくたって、生きたまま捕虜にして連れて帰ってこればいいじゃない。」
「あ……!」なるほど、『抹殺せよ』とかなら殺さねばならないが、生死問わずならできるかもしれない。
「でもやっぱり……真相をこの目で確かめてからにしようかと思います。」
「ふん、まあいいでしょう。ロキ!持ち場にもどって良いわよ。」
「は!」存在を忘れられていたかに思われていたロキだったが、ちゃんと覚えられていた。
「ユースだったかしら。ついてきなさい、モールで要るもの買うわよ。」
「は、はい!」エリーが足早に歩き去り、ユースはそれを追った。
「あ、あと……」エリーは突然足を止めた。
「……エリーでいいわよ。敬語も使わなくていい。」
「え……!?」
「同い年だし、任務上時間の無駄だからよ。」
そういってまた歩き出すのだった。
ローマンド最大のショッピングモール「オッティモモール」。二ポネシア語で「素晴らしいモール」という意味である。
ユースとエリーは、任務に臨むために買い物に来ていた。はたから見れば完全にショッピングデートだが、勿論二人にそのつもりは無い。
「ユースは、ここに来るのは初めて?」
「そうだね。亡命前はこんなモールなかったと思うし、帰国後はそもそもローマの街そのものがトラウマだったから。」
「なら教えてあげる。このオッティモモールにはね、自然戦士しか立ち入れない特別フロアがあるのよ。」
エリーはユースをエレベーターに案内した。
エレベーターガールがいた。「何階に行かれますか?」
「四階へ。」とエリーは答えた。
そしてエリーの望んだとおり四階についたのだが……
「……一般人たくさんいるけど。」
「おかしいわね…ちゃんと四階って言ったのに。」
掲示板を見てみると、確かに四階だった。
「……特別フロアは五階って書いてあるけど。」
「?……あっ。」
ローマンドでは、地上に面している階を「一階」と呼ぶ。
しかし、ブリデラントでは地上に面している階を「0階」と呼ぶのだ。
ローマンドでの四階はブリデラントでの三階のため、このような語弊が生まれたのだった。
……そして、今度こそローマンドでいう五階に着いた。
エレベーターの扉が開くと、そこにいた人は少なかった。
まあ自然戦士の数が多くはないので当然だが。
「さあ、まずICカードを買うわよ。」
「ICカード?」「カードってのは変身用以外にも、様々な使い道があるのよ。コマンドレシーバーにセットする以外にも、武器にセットするものもあるわ。……ところで、金はあるの?」
「ああ、現金で五十万エウロー持ってきた。」
「はあ!? 五十万エウロー!!?」これにはさすがのエリーも引いた。「そんな大金どこで手に入れたのよ!」
「ああ、任命式の時に、皇帝陛下の命を救ったから、報奨金として百万もらったんだよ。」
「一般的な自然戦士の基本給が、寮費除いて月四十万ぐらいよ……」
さて、そんなことを話している間に、ICカード店に到着。
「ところでエリー、ワイルド大隊長から何か吹き込まれた?」
「な、何も言われてないわよ!」
第八話 ショッピングデート② に続く
あとがき:「自然戦士」専門用語其の四
「ローマンド帝国」
エウロピアの中央南部、地中海に面するローマンド半島にある国。
その歴史をさかのぼっていくと、かなり政治体制が混乱していることがわかる。
王政だったのが百年以上前に共和制となり、ユリウス・カエサルが台頭して独裁政治になり、内戦がおこって現在の帝政がある。
特産物はオリーブオイル、チーズなど。
ターゲットは聖ミネルヴァ孤児院院長、サンドロ・ポッティチェリ。
育てた子供を植民地に奴隷として売り払うという、残虐な男だった。
さらには裏でギートとつながっているという。
そして、任命式にて皇帝を狙撃して暗殺しようとした疑惑もかけられていた。
だが、仮にもサンドロはユースの育て親。
玉座の間を出たユースは、ひどく葛藤していた。
(あのいつも笑顔で子供たちに接していた院長が、まさかそんなことするか?)
考えながら歩いていたら、前から歩いてくる人とぶつかった。
「げ……!」
「『げ……!』て何よ!」エリー・スチュアーテラートだった。
その傍らには、城の案内役ロキ・F・ワイルドが。
「まだいたんですね……」
「あら、敬語を使えるようになったなんて、すごいじゃない。褒めてあげるわ。」
(やっぱりひどい目に遭えば良いのに。)
「……どうしたのよ、浮かない顔して?」
「あ、わかっちゃいますか?」
「私でよかったら相談に乗るわよ?」
(優しいところもあるんだな……)ユースはエリーに、玉座の間で聞いたことを話した。
「……なるほど、そりゃ確かに試練ね。」
「どうすればよいかわかりません……」
院長は帰国後、行く当てもなくさまよっていた時に、住む場所も教育も愛情も与えてくれた。
やはり、ユースには信じ難い話なのか。
「何くよくよしてんのよ、それでもあんた自然戦士なの!?」急にエリーが声を荒げたから、ユースは心臓が凍るかと思った。
「ローマンド軍、一応優秀なんでしょ!? そこの諜報部が見つけたことなんでしょ!? 少しは信じなさい!」
「じゃあエリー殿下には、自分を育ててくれた親を殺せますか!?」ユースも声を荒げた。
「何言ってんのよ、あんた皇帝からなんて命令されたの?」
「え……?」ユースは命令書を取り出して読み上げてみた。
「『ミラニアにいる聖ミネルヴァ孤児院院長サンドロ・ポッティチェリの討伐を命ずる。』ですよ?」
「『討伐』なんでしょ?だったらわざわざ殺さなくたって、生きたまま捕虜にして連れて帰ってこればいいじゃない。」
「あ……!」なるほど、『抹殺せよ』とかなら殺さねばならないが、生死問わずならできるかもしれない。
「でもやっぱり……真相をこの目で確かめてからにしようかと思います。」
「ふん、まあいいでしょう。ロキ!持ち場にもどって良いわよ。」
「は!」存在を忘れられていたかに思われていたロキだったが、ちゃんと覚えられていた。
「ユースだったかしら。ついてきなさい、モールで要るもの買うわよ。」
「は、はい!」エリーが足早に歩き去り、ユースはそれを追った。
「あ、あと……」エリーは突然足を止めた。
「……エリーでいいわよ。敬語も使わなくていい。」
「え……!?」
「同い年だし、任務上時間の無駄だからよ。」
そういってまた歩き出すのだった。
ローマンド最大のショッピングモール「オッティモモール」。二ポネシア語で「素晴らしいモール」という意味である。
ユースとエリーは、任務に臨むために買い物に来ていた。はたから見れば完全にショッピングデートだが、勿論二人にそのつもりは無い。
「ユースは、ここに来るのは初めて?」
「そうだね。亡命前はこんなモールなかったと思うし、帰国後はそもそもローマの街そのものがトラウマだったから。」
「なら教えてあげる。このオッティモモールにはね、自然戦士しか立ち入れない特別フロアがあるのよ。」
エリーはユースをエレベーターに案内した。
エレベーターガールがいた。「何階に行かれますか?」
「四階へ。」とエリーは答えた。
そしてエリーの望んだとおり四階についたのだが……
「……一般人たくさんいるけど。」
「おかしいわね…ちゃんと四階って言ったのに。」
掲示板を見てみると、確かに四階だった。
「……特別フロアは五階って書いてあるけど。」
「?……あっ。」
ローマンドでは、地上に面している階を「一階」と呼ぶ。
しかし、ブリデラントでは地上に面している階を「0階」と呼ぶのだ。
ローマンドでの四階はブリデラントでの三階のため、このような語弊が生まれたのだった。
……そして、今度こそローマンドでいう五階に着いた。
エレベーターの扉が開くと、そこにいた人は少なかった。
まあ自然戦士の数が多くはないので当然だが。
「さあ、まずICカードを買うわよ。」
「ICカード?」「カードってのは変身用以外にも、様々な使い道があるのよ。コマンドレシーバーにセットする以外にも、武器にセットするものもあるわ。……ところで、金はあるの?」
「ああ、現金で五十万エウロー持ってきた。」
「はあ!? 五十万エウロー!!?」これにはさすがのエリーも引いた。「そんな大金どこで手に入れたのよ!」
「ああ、任命式の時に、皇帝陛下の命を救ったから、報奨金として百万もらったんだよ。」
「一般的な自然戦士の基本給が、寮費除いて月四十万ぐらいよ……」
さて、そんなことを話している間に、ICカード店に到着。
「ところでエリー、ワイルド大隊長から何か吹き込まれた?」
「な、何も言われてないわよ!」
第八話 ショッピングデート② に続く
あとがき:「自然戦士」専門用語其の四
「ローマンド帝国」
エウロピアの中央南部、地中海に面するローマンド半島にある国。
その歴史をさかのぼっていくと、かなり政治体制が混乱していることがわかる。
王政だったのが百年以上前に共和制となり、ユリウス・カエサルが台頭して独裁政治になり、内戦がおこって現在の帝政がある。
特産物はオリーブオイル、チーズなど。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【1/23取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
僕の2000回転生
yuu3232
ファンタジー
彼、高合樹 輝は、2000回転生した大規模な経験者だったが...
修学旅行中に不慮の事故で4クラスごと亡くなり、さらに転生!!
目が覚めたら彼は「ユナイト・ハーベルト」として生まれ更には「女子である」といわれた挙句
御令嬢として14経った今、野営中!!前世までの記憶生かして"フツー"を目指す!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる