自然戦士

江葉内斗

文字の大きさ
上 下
6 / 30
序章

第五話 ブリデラント王国第一王女

しおりを挟む
 任命式を終えたユースは、首都のシンボルであるローマンド城へ連れていかれた。
 案内しているのは、ミラニアまで神託を伝えに来たあの騎士だった。
 「こちらが、食堂になります。」「こちらが、球技場になります。」「こちらが、玉座の間になります。」
 淡々と顔色一つ説明を行うので、ユースははっきり言って退屈していた。
 「あの~、名前、聞いてませんでしたね。」
 「私の名前ですか?帝国軍近衛師団11大隊隊長、ロキ・Fフランク・ワイルドです。」
 そういってまた淡々と案内を行うのだった。
 最後にユースは兵舍に連れていかれた。
 「帝国軍人は、この寮を格安で使うことができます。自然戦士の寮は特別仕様ですよ。間取りは2LDKで、日当たり良好。ベッドはインディーカ産の最高級シルクを使用しております。電気、水道、ガスは勿論の事、有線、Wi-Fiが無料で使えます。完全防音仕様で空調と床暖房も完備。それで家賃はたったの五万エウローです。」
 不動産会社並みのテンションで紹介された。
 ユースはもうこの部屋に住みたくなった。
 しかし……
 (ミラニアの皆とはお別れするのか……)ユースはやっと、ナーサ・Iイシス・ジャクソンが見送っていた子供達のなかで唯一寂しそうな顔をしていた理由が理解できた。
 だが、四百キロの距離があるミラニア・ローマ間を行き来することは難しい。自然戦士は単独で契約を結べるそうなので、ユースはその部屋を契約した。


 ユースは、引っ越しのためにミラニアに帰ってきた。
 聖ミネルヴァ孤児院の扉を開けると、ユースは歓声に迎えられた。
 途端に、一人の少女がユースに抱きついてきた。
 「な、ナーサ!? いきなり何するの?」
 「……ごめんなさい、ユース。ただ、もう会えない気がしたから。」ナーサの目には涙が浮かんでいた。
 「まあ、確かに会うのは難しくなるな……」ユースはナーサを引き剥がし、院長サンドロに言った。
 「院長、僕、ローマにある兵舍に住むことになりました。」
 「そうか、あんないいところに住めるなんて、羨ましいのう。」サンドロは相変わらずの笑顔で答えた。
 ユースは、引っ越しを行うに辺り、早速権力を利用した。
 自分が率いる小隊の兵に、引っ越しの作業を行わせたのである。
 三十名の兵士により、作業はあっという間に終わった。
 「じゃ、今度こそ、今までお世話になりました。」
 ユースはサンドロに今までのお礼をいい、近所を回ってお別れの挨拶をのべ、リムジンに乗り込んだ。
 乗り込む前にナーサが近づいてきて言った。
 「ユース、頑張ってね!」輝かしい笑顔だった。
 「うん、頑張るよ。」ユースも微笑みながら答えた。
 そしてまた全員が万歳でユースを見送ったのである。

 「……何よ、最後まで気づかないで……」
 ナーサの目にはやはり涙が溢れていた。


 ユースは、その日の日夕点呼に参加した。
 「……と言うわけで、明日はこの度新しく太陽戦士となられたユース・A・ルーヴェ小隊長殿に、訓練を見学していただく!」
 今まで無意識だったが、ユースはもう軍人なのだ。それも本人になんの断りもなく軍人にされたのだから、普通は文句の一つも出るだろう。
 しかし、今のユースはそこまで考えてなかったのである。考えていたのは食堂で何が食べられるかと言うことだった。


 翌朝06時30分、舍内にラッパの音が響き渡った。
孤児院での起床時間よりも三十分早かったが、ユースは普通に起きた。
 そして舍前にて日朝点呼が行われる。
 ユースは点呼に参加しながら、周りを観察していた。
 この寮にすむ兵士は男性7対女性3。全員が常備軍で、点呼に参加しない兵士は予備軍となる。
 ちなみに、常備軍になるかどうかは個々の判断によるらしい。
 (ん?じゃあ毎回点呼や訓練に参加しなくてもいいんじゃないか?)とユースは思ったが、折角自分が特別な力を与えられたんだから有効活用しなければと思い、常備軍に身を置くことを決めた。
 ユースはその日、兵の訓練を見学した。
 基礎鍛練、剣術、射撃、槍術……軍人として国を守るための厳しい訓練を行っていた。
 ユースは、実は体力に自信がない。あんな訓練についていけるのだろうかと、心配になった。
 一方午後は座学があった。数学、ローマ語、ブリデン語、安全保障論などについて学んだ。
 ユースにとっては、こっちの方が楽しそうに思えた。
 ユースが教室を除きながら廊下を歩いていると、前から来る人に気づかずぶつかった。
 "Hey you! Where are you looking!?"
 「……え?」
 "Why are you silent! Apologize to me!"
 「……え?」
 ローマンド人にブリデン語がわかるわけがない。
 ユースはコマンドレシーバーの通訳アプリを起動した。
 「あの~、もう一度お願いします。」
 「どこ見て歩いてるのよ! 謝りなさいよ!」
 「あ、ごめんなさい。」やっと相手の言いたいことがわかり、胸を撫で下ろしたユース。
 目の前にいたのは、金髪に水色のドレスを纏った美少女。頭上には金のティアラが輝いていた。
 「あの、どちら様ですか?」
 「何よ、あんた私の事知らないの!?」美少女なのに、口は死ぬほど悪い。
 しかし、数秒後にはユースも自分の非を知ることになる。
 「私はエリー・スチュアーテラート! ブリデラント王国第一王女! 王位継承者よ!!」



次回より 第一章 ユースとエリー 開幕
第六話 資格無し に続く
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【1/23取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...