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妖精犬と月妖精の提案②

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 月妖精たちが避難先にと提案したのは妖精たちの棲み処である妖精丘。
 人間であるシェリアが避難するには、些か、いやかなり危ないのではないのだろうか。
 そもそも人間が立ち入っていいものなのだろうか。

 不安そうなシェリアに、月妖精たちが告げる。

「まねかれれば、問題なし!」
「散歩でしばらく、戻ってこない。かえって安心!」
「ひなんばしょに、ばっちり!」

 月妖精がくれた外套は、妖精犬からシェリアを隠してくれるけれど、隠すというよりは存在を誤魔化すに近いらしい。
 ずっと近くにいれば、気付かれてしまうかもしれない。

「行こう」

 少年が差し出した手のひらに、シェリアは躊躇いがちに手をのせた。

 ◇

 シェリアと少年と、道に属する者の義務だとついてきた瑠璃色の少女の三人で、丘の内部を歩く。
 すると、どこからか密やかな話し声が聞こえてきた。

「──もんだいは、誰がつくるか、だけど」
「誰がつくれば、ばくはつ、しないか」
「羽根がもげないか」
「口にいれるまえに、ばーん!と」
「とても、ざんねんなことに」

 なにやら相談しているようだが、内容が大変物騒である。

 口に入れる前、ということは食べ物のことだろうが、ではなぜ、爆発したり羽根がもげたりするのだろうか。
 シェリアは思わず首を傾げた。

「──このなかで、“おまじない”の弱さに、じしんのあるものー?」

 誰かの呼び掛ける声が聞こえる。

「しょくざいと一緒に、屋敷のやつか人間もはいしゃく・・・・・するべきだった……!」

 残念ながら、誰も挙手しなかったらしい。
 落胆と後悔が入り交じった声が聞こえる。

「このままでは、宴に並べるおやつがたりない……!」
「どこかに、つごうよく人間はおちていないものか」

 どうやら宴に並べる食物についての会議であったらしい。
 前倒しで宴で開催された為に、間に合わなかったのかもしれない。

 妖精かれらが棲む、基本的に人間が立ち入ることが出来ない丘で、そう都合よく落ちていることはそうそうないだろう──普段ならば。

「あ」

 それは、誰の呟きだったか。

 厨房らしき部屋の前を通り過ぎようとしたシェリアの瞳に、小さな生き物たちが映る。
 ざっと数えて二十人はいるだろうか。 

 同時に、妖精かれらの瞳にもまた、人間であるシェリアが映った。

「にんげんだ!」
「なんと、つごうよく、きゅうせいしゅが!」
「そういん、かくほ!」

 次の瞬間、シェリアは厨房内に連れていかれたのだった。
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