【完結】アドバンッ!!

麻田 雄

文字の大きさ
上 下
23 / 47

23

しおりを挟む

 年越しライブの後は、特筆すべきイベントが無いまま冬休みが空けた。
 まったく何も無かったという事は無いのだけれど、些細な事ばかりなのでまたまた割愛。


 いつも通りの学校の教室、今は休み時間。
 僕が自分の机で寝ていた体勢から顔だけ少し浮かすと、ふと宮田が視界に入った。

 宮田は数名の生徒と談笑していた。
 ごく当たり前の風景なのだが、多少の違和感を覚えた。
 ポジション的に宮田が話しの中心にいるような感じと、男子が加わっているという点に……。

 宮田は別に陰キャでは無かったが、自身が話の中心にいることは少なく、どちらかと言えば地味な印象だった。
 今のように男子と話している場面もあまり見かけなかった気がする。
 これが、本人も言っていた”バンドを始めてから変わった”彼女の一面なのだろう。
 良いこと……なんだよな?

 少しモヤモヤした感情を押し殺すかの様に、僕は再び眠りにつく。


  ◇  ◇  ◇


 スタジオ練習の後、僕等はいつものファミレスに集まっていた。

 「なんかボウルのスタッフさんから薦められたんだけど、インディーズ?で結構有名なバンド?の前座やってみないかって」

 姉御はジュースを飲みながら大した事じゃなさそうに言う。

 「え?有名なバンドの前座!?なんかそれって結構凄いことなんじゃない?」

 僕が姉御の代わりに驚く。

 「う~ん、良く分かんないんだよね。ボウルのスタッフさんは興奮してたけど……。インディーズで有名なバンドってどんな感じなの?」
 「ロックとかやりたがってたのに知らないの!?」
 「そういう音楽が好きなだけで、別に音楽業界に詳しい訳じゃ無いから」

 姉御はちょっとだけムッとした様子だ。
 僕も言い方が悪かったと少し反省した。

 「えーと……メジャーのバンドより知名度は低いけど、有名な人達なら相当な客数呼べると思うし……。まぁ、プロみたいなもん」

 僕自身よく分かってはいないのかもしれないが、分かる範囲で答えたつもりだ。
 間違っているかもしれない……。

 「えっ?そんな人達と一緒にライブやるの?」

 今度は宮田が驚く。

 「やるかどうかは私達次第なんだけどね……そんなに凄い事だと思ってなかったし……。どうする?」

 姉御は再び尋ねる。

 「……僕はやってみたい……かな。滅多にない機会だと思うから」

 僕は勇気を出して言ってみた。正直、怖さもあった。

 「私は皆がやるならやるけど……」

 宮田も恐る恐る答える。

 「じゃあ、俺もやる。自慢になりそうだし」

 木田は特に何も考えていない様子だ。
 そうして三人が同意した。

 「うん、じゃあ、やるって事で決定ね。問題は条件として”全曲オリジナル”でって言う事なんだけど……そうなると今の曲数から考えて、あと二曲くらいは欲しいよね」
 「えっ!?そのライブっていつなの?」

 僕は姉御に質問した。

 「あっ、3月10日。まだ、二ヶ月くらいあるよ」
 「二か月かぁ……」

 現段階でオリジナル曲は五曲。ぎりぎり間に合う……か?

 「私も一曲くらい作ってみたいな……」
 「あっ、俺も一曲くらい作ってみたい」

 宮田と木田がこの場面で面倒な事を言い始めた。
 これまでの作曲は基本的に僕(+池上)か、姉御が行っていた。
 時間の無いこの状況で、経験の無い二人が曲を作るのは難しいのでは……?

 「あたしはそれでもいいと思うよ。ミヤの方はあたしが手伝うし、木田の方は保科が手伝えばなんとかなるんじゃない?」

 結局はそうなるか、予想はしていたが。
 まぁ、自分が作った曲ってだけで思い入れは大きく変わるのでマイナスな事ばかりでは無いか……。

 話はそれで纏まった。
 実際、僕は自分で作る方が楽なんだけど。

 そんな会話をしている余裕がある僕等は、これから起きる事の大きさに全く気付いていなかったし、想像すら出来る筈もなかった。


  ◇  ◇  ◇


 僕は寮に戻り、池上に今日のバンドミーティングの話をした。

 「はぁ?インディーズバンドの前座!?マジでっ!?」

 池上は相当驚いた様子で、座っていた回転式の椅子から跳ぶように立ち上がった。

 「うん、なんていうバンドだか知らないんだけどね」
 「そこ重要じゃね!?ってか、どうして急にそんな話がきたんだよ!?」
 「詳しいことは知らないんだけど、ボウルの人から話が来たって姉御は言ってたよ」
 「ボウルでそんなライブやる予定なんてあったか?」
 「あっ、実際にライブやるのはボウルじゃなくてリフターっていうライブハウスなんだって」

 その言葉を聞いた池上は先ほどにも増して驚く。

 「マジかよっ!どういう場所だか分かってんのか?」
 「ん?全然知らないけど?」
 「……マジかよ……」

 そう言うと池上は黙って椅子に座リ直す。

 僕とは目を合わせずに「まぁ、頑張れよ」と、少し落胆したように言った。

 その様子が僕の想定していた反応と大きく違ったので、多少気に掛かったが「うん」と答え、頷いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺にはロシア人ハーフの許嫁がいるらしい。

夜兎ましろ
青春
 高校入学から約半年が経ったある日。  俺たちのクラスに転入生がやってきたのだが、その転入生は俺――雪村翔(ゆきむら しょう)が幼い頃に結婚を誓い合ったロシア人ハーフの美少女だった……!?

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

私の日常

アルパカ
青春
私、玉置 優奈って言う名前です! 大阪の近くの県に住んでるから、時々方言交じるけど、そこは許してな! さて、このお話は、私、優奈の日常生活のおはなしですっ! ぜったい読んでな!

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ゴーホーム部!

野崎 零
青春
決められた時間に行動するのが嫌なため部活動には所属していない 運動、勉強共に普通、顔はイケメンではない 井上秋と元テニス部の杉田宗が放課後という時間にさまざまなことに首を突っ込む青春ストーリー

処理中です...